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INNER NAUTS(インナーノーツ)第二部  作者: SunYoh
第四章 ノヴス・ドミヌス

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女神の愛 6

「あっ! 神取‼︎」食堂に現れた神取の方へ、亜夢は駆け寄る。神取の後ろに、入居者用部屋着を着用した三人が付いてくる。若い女性と、背の高い男性、その男性の肩に掴まった細身の男性だ。


「お知らせ、見てきたのですが……まだよろしいですか?」神取は丁寧な口調で言った。


「うん! いいよね、カミラ⁉︎」亜夢に嬉しそうに訊ねられたカミラに、断る理由もない。


「お菓子、まだある?」カミラは、確認しながら四人分の皿の準備を始めた。


「うん! まだいっぱいあるよ! 神取! こっち、こっち!」と、亜夢は神取ら四人を空いてるテーブルに案内する。四人が席に着いたところで、カミラは、皿を届けつつ飲み物の注文をとりにいく。四人ともコーヒーで良いと言うので、アイリーンにコーヒーの準備を頼む。亜夢は得意気に、『怪猫』を四人の皿に並べていく。神取は苦笑し、女性は、目を丸め、背の高い若い男は、亜夢をぽわんと見つめている。細身の男は、視線が外れているが、亜夢の気配の方へ、ありがとう、と微笑む。


「この三人、夫々、目、耳、声が不自由なんですが、嗅覚と味覚だけは無事で。こういう催しは、ありがたいですよ」と神取はカミラに告げる。

「そうでしたの……私、お茶会なんで開くの、初めてで。お口に合うと良いのだけど」とカミラが返している間に、アイリーンは、コーヒーを運んできた。 


「ゆっくりしていってくださいね」というカミラに、四人は、小さく会釈した。


 背の高い男が、亜夢の顔を見つめ、頬をほんのり赤らめて、何か言いたげにしている。


「『可愛い』って……言いたいみたいよ」


 と、その男の向かいに座った女性が、含み笑いを浮かべながら言う。男は、更に顔を赤らめ、女性にむかって大きく口を開け、声にならない声で抗議している。


「でしょ⁉︎ 可愛いでしょ⁉︎ 猫だよ‼︎」


 そう言って亜夢は、背の高い男の皿に、もう一つ、福笑いのような顔を置く。


「いっぱい食べてね〜‼︎」


 すっかり機嫌良くした亜夢は、スキップするような足取りで、自席に戻ってきた。


「よかったわね、亜夢」カミラが囁く。


「うん‼︎」満面の笑みで、どうだ! と言わんばかりに、バスケットに残ったピエルニキを直人らに差し出す。


「あ、ありがとう。でも……もう、お腹いっぱいだよ」と直人。意外とボリュームのあるピエルニキを、皆、三、四個は食べ、アイリーンやサニの持ち寄ったお菓子も頂いた。コーヒーのお代わりも、もう十分。亜夢は、それなら自分がもらっちゃうと、バスケットから一つとり、口に頬張る。


 そんな亜夢の様子を、離れた席から眺めている、背の高い男、陣。


「このお菓子……とても暖かいですね。大切な人を想って……その気持ちをたっぷり乗せて」陣の隣に座る細身の男、(ひょう)が穏やかな口調で言う。切長の目をどこか遠くに向け、亜夢のピエルニキを確かめるように指先で触れながら。


「……だってさ」兵の唇の動きをじっと見つめていた、陣の対面に座る女性、(かい)は、陣に意地悪な視線を送りながら、からかい口調で言う。陣は俯いて、皿の上の三個の怪猫に視線を落とす。


「どうするんです? 神取殿。神子の心はますます、ここに留まろうとするのでは?」兵は、穏やかな口調のまま、神取に問いかける。


 それには答えず、神取は、怪猫のピエルニキを摘み上げ、もう一度、苦笑いを浮かべながら、口に入れた。


「……ん、これは……なかなかいけますよ。あなた達も頂きなさいな。神子の念がこもった菓子など……そうそう食べれるものではないのだから」と、不敵な笑いを浮かべる。


「神取殿!」神取の隣に座った皆は、眉を吊り上げた。


「……わかってます。私としても、神子にこのまま、ここに居座られても困る。手は考えてありますよ」陣と皆は、眉を顰める。兵は、亜夢の声の聞こえる方へ視線を投げたまま、ゆっくりとコーヒーを口に運ぶ。


 齋藤は、ふと見られているような気配を感じて振り向く。先程、神取が連れてきた三人のうち、切長の目の、細身の男が、こちらの方をぼんやりと向いていた。その隣の俯き加減で、ピエルニキを口に運ぶ長身の男、その向かいのショートボブの女——


「あの三人……どこかで……」


「どうしたの、舞?」齋藤が呟くのを聞いて、アイリーンが訊ねる。


「え……あ、いや、なんでもない」齋藤は、テーブルに向き直り、残りのコーヒーを口に含む。アイリーンが、そんな齋藤を怪訝に見つめていたが、「そういえばさぁ」と、新たな話題を持ち出したサニに、皆の視線が集まっていく。


「ちょっと気になるもの見つけて……」と言いながら、サニは、自身の指輪型端末からホログラム映像を空中に投影する。ヴァーチャルネット配信の雑誌のようだ。


「お前……まぁだこんな、インチキオカルト雑誌、読んでんのかよ」呆れ顔で苦笑するティム。


「うっさい! ただの趣味よ。えぇと……あ、ここ! 見て!」


『PSID|(PSI特性災害)は地底爬虫類人の地上侵略だった⁉︎ 既に始まっているPSI戦争最前線‼︎』


 サニが開いたそのページの見出しに、皆、顔を引き攣らせ、笑いすら溢れない。


「まー、こんな爬虫類人とか、どーでもいいんだけど……ここ読んでみて」サニがページの一箇所を拡大する。


 ——そうした動きの中、あの二十年前の『世界同時多発地震』は、彼らによって引き起こされたのだ。実行犯である爬虫類人の一部は、その混乱の中、地底との行き来の手段を失い、この地上に潜伏しているという情報を、ある筋から入手している。地上に取り残されたという、爬虫類人らは、姿を変え、人間社会に溶け込んでいるのだが、その彼らを支援し、また匿っている国連傘下の組織があるというから驚きだ。情報筋は、その組織を明言しなかったが、筆者は、『国際PSI災害研究機関IN-PSID』が、何らかの関与をしているものと疑念を持っている——


 苦笑いは、真顔に変わり、皆、眉を顰める。話の内容がピンとこない亜夢を除いて。


「おいおい、名指しかよ。バカらし。名誉毀損じゃね?」「こんなオカルト雑誌を訴えたところで、バカ見るのはこっちよ。相手にしない、しない」ティムとアイリーンが言うことに、皆頷くが、直人だけは、顔を青ざめさせていた。

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