表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
INNER NAUTS(インナーノーツ)第二部  作者: SunYoh
第一章 久遠なる記憶
26/256

畏れ、そして愛 1

 北京軍立病院のPSIシンドローム特殊医療区画のコントロールブースでは、焔凱ら火雀衆が、持ち込んだ精神感応装置と、それを接続したコントロールブース側設備の同期調整にあたっている。

 

 装置上部に設けられたモニタリングパネルに、早速、いくつかの反応が浮かび上がる。

 

「飛煽、霊視できるか?」

 

「どぉれまぁ〜、やってみますかねぇ」

 

 飛煽は、斜視の瞳を中央に寄せ、装置に四つある感応モジュールのひとつに意識を集中する。

 

「……どうだ? 何が見える?」

 

 霊体の瞳でモジュールの奥底のPSI情報の細波を読み取る飛煽の霊視を、焔凱と熾恩は、幾分、緊張した面持ちで見守る。

 

「……地震……水……いや、土、黄色い土砂……洪水…………暗い……」

 

 飛煽は、自らの裡に浮かびあがるイメージを淡々と呟く。

 

「なんだよ、それ! 意味わからねぇ」「よせ、熾恩!」

 

 飛煽は、呼吸を深め意識を更に暗闇の深淵へと導く。

 

「…………黒い……渦……いや、……これは鱗……」

 

「そんなのどーでもいいんだよ、飛煽! 異界船は何処だ⁉︎」「こら、やめろ!」「飛煽!」

 

 飛煽に飛びかかりそうな熾恩を、焔凱は羽交締めにして抑えていた。熾恩は体を捩りながら、焔凱に抗議する。

 

「……ごちゃごちゃうるせえ!」霊視を中断させられた飛煽は、熾恩を睨み付けて声を荒げた。

 

「すまん、で、どうなんだ?」焔凱は、熾恩を突き飛ばすように解放すると、飛煽に問う。

 

「はっきり見えたのは、大量の土石流……大洪水の光景さぁ……けぇど、そのもっと深ぁ〜〜いところに何かいるぜぇ」飛煽は、ニンマリと答えた。

 

「異界船は?」焔凱を押し退けながら、熾恩が問う。

 

「……ここにはいねぇ。けど……青い光がチラチラ見えた。あれは……」

 

「さっき見た、もう一つの異界船⁉︎」熾恩は即座に推測する。

 

「おそらくなぁ〜〜」

 

「って事は……」軽く顎をさすりながら、焔凱は笑みを浮かべた。

 

「こいつに網張って待ってりゃ〜〜、"白いヤツ"も〜、向こうからやってくるかもぉ〜〜」挑発するような飛煽の視線が、熾恩を焚き付ける。

 

「よっしゃ!」熾恩は、自らの拳を反対の掌に打ちつけ、気合いを入れた。

 

「さっさと来やがれ! 《異界船|白いヤツ》!」

 

 ****

 

「どう、IMCとの連絡は、まだ回復しませんか?」<天仙娘娘>隊長、劉は、自席ユニットを副長、楊の席へと寄せながら問う。

 

「……全く……どうやら集団無意識に繋がっている、患者達の固有無意識間を転々と流されてるみたい……」楊は、何度かChina支部IMCへの通信を試みるが、通信PSIパルス波のデータを見る限り、あたりに吸収され、通信可能な次元領域にまで届いていない。ブリッジ全周モニターに目をやれば、黄土色か、黒色の靄を映し出すのみで、<天仙娘娘>は波動収束が定まらない、流動的な時空間漂っているようである。

 

「集団無意識領域がまだ活きてるなら、通信が繋がっても良さそうなもんだけど〜」ブリッジ端に席を移動させた明明が、背中を向けたまま呟く。

 

「現宙域は、この船の限界スレスレ、集団無意識よりさらに高次元領域。おまけに時間座標が移動のたびに跳躍しまくって……何より、アタシたちを喰らい込んでいる"コイツ"が、"通信妨害"すんのよ!」楊は、苛立ちに美貌を歪める。

 

「閉じた閉塞空間……智愛、あと、どのくらい保ちそうですか?」努めて冷静に、劉は確認する。

 

「ん〜、あと二時間半……くらいかなぁ……」言いながら智愛は、ブリッジ中央で正面への睨みを怠らない、静の席へと自席ユニットをそろそろと寄せてゆく。

 

「嗚呼、私たちここでもう……でも、貴女となら〜〜」静の席の隣にピタリとシートユニットを寄せ、智愛は、静の腕に擦りつく。

 

「わっ! 智愛! は、離せ!」静は、智愛に取られた腕の産毛が逆立つのを感じた。

 

「ねぇ、このまま一緒に死んだら、私達、心中だね?」大きな眼を潤ませた智愛は、ニンマリと微笑んで見せる。

 

「わたしは死なん!」静は、取られた腕を振り解こうとするも、智愛はイソギンチャクのように食らいついて離さない。

 

「バカなこと言ってないで、離せ!」「あ! バカ、バカって言った? 酷い〜〜」「あ、いや、じゃなくて、ええと……て、何? この匂い」鼻をつく油とスパイスの混じった臭いが、静の鼻腔をくすぐる。

 

「えぇええぇ〜〜臭い? アタシ、臭いの?」智愛はたまらず、自分の身体の臭いチェックを始めた。

 

「いや、お前じゃない……あ、明明!」

 

「あぁん? んぐ……ぬぅんだい?」振り向いた明明は、口をモグつかせている。明らかに何かを頬張っていた。

 

「なんだい、じゃない!」静は、細眉を吊り上げ、明明を睨み付ける。

 

「うわ、やだ! 臭ってきた!」臭いは、ブリッジ上層の、副長席にまで達したようだ。

 

「えぇ⁉︎ だって、ブリッジはいいだろ?」明明は悪びれる風もない。

 

「明明! そ、それはそうだけど、今食べなくても! それにアンタのそれ、臭いキツすぎ!」

 

「だってぇぇぇ……あ、楊姐もおひとつどう?」言いながら、明明は自席を楊に近づける。

 

「い、、いらん! 寄るな! 智愛、ブリッジの脱臭、どーなってんの?」

 

「エネルギーセーブ中で〜〜す」智愛は、しれっとした顔で答える。

 

「……ふぅ……」劉が額に手を当て、ため息を漏らした時。

 

「ん?」船体に振動が走る。瞬く間に、振動は激しさを増す。

 

「やっば! また来た⁉︎」楊はすぐさま、震源の確認に取り掛かる。

 

『……なぜ……なぜだ…………どうして……』

 

 ブリッジに、何かの意志が、彼女らの解する言語に翻訳された音声となって再現される。

 

「な、なんだよ、この声⁉︎」「構ってはなりません! 今は、この次元震をやり過ごす事に集中!」

 

『……くくく……我、死すとも……この恐れ、この怒り……消せはせぬ……我は! ……』

 

「各自、シートロック!」

 

 各シートを支えるアームが収縮、折り畳まれ、シートはブリッジ中央の幹に固定される。

 

「正面! 衝撃波来ます!」

 

 振動に併せて、全周モニターは、土石流に攪拌される、大河の底を映し出す。

 

「障壁展開! 最大防御!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ