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INNER NAUTS(インナーノーツ)第二部  作者: SunYoh
第一章 久遠なる記憶
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神々の故郷 5

「こちらでございます」「うむ」

 

 PSI防護服に身を包んだ風辰翁と夢見頭、そして先程まで運転手を務めていた男は、『三宝神器』と呼ばれた、三本の巨大柱状構造物一帯を見渡せるコントロールブースへと通される。スタッフが二人。システムのチェックに余念がない。

 

 三本の柱は、階段と、回廊のような通路で連結されており、また各柱には、人一人が通れる程度の扉を設けてあるのが見える。

 

 回廊は中央に集まり、長い階段を降りきったところには、いぶし銀に輝く鳥居がある。

 

 柱は地下深くから伸びており、見えている部分はその先端なのであろう、下方は縦穴深くへと伸び、底は見えない。夢見頭は、暗がりの中で、銀色にほのかに発光する三柱に、天地開闢の際に現れたという、造化三神を重ねていた。

 

「あの三人は?」コントロールブースの窓から満足気に三柱を見詰めながら、風辰翁が問う。

 

「は、既に[格狭間(こうざま)]の方へ」責任者の男は、落ち着いた口調で答えた。

 

「うむ、つなげ」

 

 三つに分割された通信モニターの画面に、三人の若い男女が現れる。

 

「兵、皆、陣」

 

 御所で諜報活動を行う、烏衆。その幹部のうちの三人だ。各々、手脚を拘束された状態で、『格狭間』と呼ばれた、人一人が収まる程度の小部屋に"安置"されていた。

 

『風辰様……』兵は、音声だけの老人の声に答える。

 

「どうかね、そこの居心地は? 我らの叡智を結集した三宝神器……格別であろう」

 

『……再三に渡る失敗にも関わらず、このような大役を仰せつかるとは……感謝の他ありません』

 

 兵は淡々と答え、一呼吸置くと再び口を開く。

 

『……ですが! どうか皆と陣は! 私が二人の分まで、この身で……』『兄さん!』『義兄者(あにじゃ)!』

 

 通信に皆と陣が、声を荒げて割り込む。風辰の口角が少し持ち上がっていた。

 

『兄さん、それは私が』『ダメです! 実の兄と妹が、引き裂かれるようなことは! 風辰様! どうか、俺を!』『二人とも黙れ! そんな事許せると……』

 

「うるさいぞ! 兵!」声を上げたのは、運転手を務めていた男だ。

 

『闘⁉︎ そこにいるのか? 頼む、皆と陣は優秀だ。お前の元で遣ってやってくれ』

 

「ククククク、バカか、兵? 散々失敗を重ねておいてよく言えたものだ。そいつらを贔屓して、俺には、汚れ仕事ばかり、押し付けてきた結果だ! 二人を見逃せば、他の烏にも示しがつかんことくらい、理解できるだろう!」闘は、意気揚々と責め立てる。

 

『くっ……』

 

「まあまあ、二人とも。闘よ、其方の言い分、尤もだ。されど、兵にとって、皆はただ一人、血をわけた妹。陣も義弟ながら、兵によく懐いていたと聞く……美しい兄妹弟(きょうだい)愛ではないか」風辰は、閉じた扇子で、闘の肩を軽く叩きながら嗜めた。

 

「お戯を……」闘はしぶしぶと引き下がる。

 

「兵よ、儂は其方を気に入っておった。殺めるには惜しい才覚もある」

 

『勿体なきお言葉』

 

「なれど、闘の申すとおり……失敗の責は負わねばならぬのだ。三人ともにな」

 

「兵……」風辰翁の傍らに控えていた尼僧が、柔らかな口調で語りかける。

 

『夢見殿……』

 

「この処罰は、風辰翁の格別な恩情ぞ。三人とも、この起動試験に耐え抜けば、幾らか生き長らえることもできよう」

 

「いや、むしろ耐え抜いてもらわねば困る」責任者の技師は、なんの感傷もなく、淡々と告げた。

 

「ご神器の中で『御神体』となる三人には、稼働時、あらゆるPSI現象化反応をその身と精神に浴びる事になるのだ。これを安全なレベルでコントロールするには、想定されうる全ての条件での肉体反応を確認しておく必要がある。御所の修練を積んできたお前達は、これ以上ないサンプルなのだ」技師は、説明した。

 

「計画の時間も差し迫っている中、そう何人も適当な検体を準備できぬのでな。お前たちは、過酷なテスト下で、ただ『生き延び』てくれさえすれば良い」風辰翁が付け加える。

 

「ちっ、こんな甘っちょろい処罰。下っぱの烏にもねぇぜ」「闘よ、儂の決めた事。不服と申すか?」

 

「い、いえ。決してそのような……」風辰の蛇のような眼差しに、闘は口を閉ざす。

 

「風辰様、ではさっそく……」責任者の技師は、もどかし気に促す。

 

「うむ、覚悟は良いな? 三人とも」

 

『……はい……こうなった以上、ご期待に添い、生き延びるのみ』

 

 風辰は、扇子を打ち鳴らし、満足気に再び口を開く。

 

「うむ、よくぞ申した。兵。それでこそ、儂が見込んだ烏よ」

 

『……すまぬ、皆、陣……』『良いのです、兄さん』『お供いたします! 義兄者!』

 

「……よし、始めよ」

 


 ****

 

『……ヒメ様……ヒメ様がお帰りになったぞ!』

 

 <アマテラス>は、アムネリアの指し示した座標へと、瞬時に移動していた。再び、ヒメと呼ばれている少女の記憶に、<アマテラス>は同調している。

 

 モニターに現れた風景は、煙の立つ祭祀場のようだ。その場に集った人々が、にわかに騒めき出している。

 

『……バカな、なぜ??……』『……ヒメ様、良かった〜〜〜!……』『……チッ……なんで生きてる⁉︎……』

 

 人々の少女に向けられた、感情と思惑が、音声変換された言葉となって<アマテラス>ブリッジに流れ込む。

 

『ご無事で……』『ああ、うちのコも……』

 

『何だあいつらは?』『奴らがヒメを助けた? 余計なことを!』『これでは、秩序が……』『また、クニが乱れるぞ……』

 

 この場に集う者たちの、思い思いの声は、次々と音声変換され、ブリッジの中は、にわかに騒然となる。

 

 煙の上がる祭祀場の、より高い位置に陣取るのは上流階級者や王族であろうか? 複雑な表情で、こちらを見つめていた。

 

「感動のご帰還……とはいかないか」ティムは、眉を顰めて呟いた。

 

『……大地は…………神は……人を許さぬ…………誰かが贖わねばならぬ……』

 

 祭壇に近づく度、しゃがれた声が入り込んでくる。

 

「こ、これ! あの声⁉︎」サニが声を上げるまでもなく、先ほどから何度か聞こえていた声だとインナーノーツは皆気づく。

 

『……許せ、ヒメェ〜〜……大地と一つに……』

 

 一方で、医療区画の雨桐も、その声が聞こえているか、小さく身を捩らせていた。うなされながら何か呟いている。

 

「……お母……さん?」モニター越しに雨桐を見守る容には、彼女の呟きが、そう聞こえていた。

 

『…………清き心のままで、逝くがよい…………(あい)……』

 

 祭祀場の先、太陽へ向かった祭壇で、小柄な司祭が両腕を高らかに掲げ、祈りを捧げている。無数の羽根飾りの衣装を纏い、高く結い上げた白髪混じりの髪を、機織りのシャトルのような物で纏め、さらに、衣装と同様に鳥の羽根を飾った被り物を頭に乗せている。このクニの最高権力者であることは一目瞭然だ。

 

『あ、娃⁉︎』祭壇脇に控えていた、長い髭を蓄えた威厳ある初老の男が、少女の姿を認め、驚きのあまり声を上げた。

 

『娃‼︎』初老の男に続き、彼の側に控えていた女性達も声を上げる。

 

『父上、姉上……』

 

 祭祀場の騒めきに、祈りを妨げられた不快を露わに、司祭が振り向く。年の頃は、六、七十ほどであろうか? もはや往年の美貌の片鱗もない、厳しい老婆であるが、太陽を背に見下ろす姿は、あまりにも神々しい。

 

 娃は、祭壇のそばまで寄り、ひざまづいて頭を垂れる。

 

『王太母様……』

 

 老婆は、静かに口を開く。

 

『娃……其方、何故、何故戻って来た?』

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