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INNER NAUTS(インナーノーツ)第二部  作者: SunYoh
第三章 運命の輪
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墓標を超えて 3

「うぉおおおお!」亜夢の渾身の想いが<アマテラス>を纏う鳳凰の羽ばたきに変わる。羽ばたきが、十字架を覆う暗き雲を祓い、燃え盛る炎の渦にその戒めを巻き込む。炎の中で十字架は、揺らぎ始めていた。


「オーバーブースト‼︎ 亜夢‼︎ もうひと押しだ‼︎」「うん!」ティムの操船と亜夢の鳳凰は、息のあった連携で、十字架の中央へと<アマテラス>を潜り込ませてゆく。<イシュタル>もそれに続く。


「十字架中央が揺らぎ始めてる!」サニが叫ぶ。


「進路そのまま! カミラ、今少しでいい、俺たちを受け入れてくれ!」アランは、モニターに渦巻く火炎の乱流をじっと見つめたまま呟く。


 しかし、十字架の揺らぎは立ち所に形を戻し、<アマテラス>の行手を阻む。 


「わぁ‼︎」その拒絶は、ダイレクトに亜夢に伝わる。「亜夢‼︎」直人は、振り返って叫んだ。


『……我ら……試みに……悪……より……』あのカミラの祈りの言葉だ。


「構わん! ナオ! ブラスターを‼︎ 俺をぶつけろ‼︎」そう言うとアランは、再びPSI-Linkダイレクト接続でありったけの念をシステムに流し込んだ。


「えっ⁉︎」「早く‼︎」「は、はい‼︎」


「PSI-Linkフルコンタクト‼︎ ……これは……」


 ……カミラ……その十字架……それは俺の養父(おやじ)が、お前に与えた守りの十字……


 アランの心の声が、PSI-Linkシステムを伝わって直人の心の裡に広がっていく。


 ……でも……今となっては、あの凄惨な……あの日を封じ込めるだけの重石……


 ……わかっている……お前は……お前の魂は……


 ……ずっとそこで戦っている……


 ……誰も巻き込むことなく、たった一人で……


 ……俺さえも……拒んで…………


 …………だが、俺はずっと決めている……あの時から……お前を守る……お前と共に戦うと……


 ……俺は……今でも力不足かもしれん……だが……頼む、カミラ……お前と共に……戦わせてくれ‼︎ ……


 その時、十字架の中心がグネりと時空の歪みを生む。直人はその歪みを見逃さない。


「PSIブラスター! 目標セット‼︎ 発射‼︎」


「いっけぇえええ‼︎」放たれたブラスターと同時に、亜夢は鳳凰に渾身の羽ばたきを与える。


 十字架の中央の時空の歪みが、鳳凰の炎を巻き込みながら、<アマテラス>と<イシュタル>を、更なるカミラの無意識の深淵へと誘う——



 ****


 カリ……カリ…… 歯にあたる奇妙な爪の感触。その感触は、このヴァーチャルなアバターに、ただ精巧に再現された感覚なのに、なぜか苦く懐かしいざらつきを、自らの側頭と意識しているあたりに感じさせる。


『ふふ……其方の、その妙な癖は、情報の身体となっても変わらぬな』


 女司祭は、ハッとなって口から指を離す。


『ワ……ワールド様。これは、お見苦しいところを……』女司祭が振り返った先に佇む、黄金の女神像は、表情ひとつ変わることはない。


『構わぬ……私は、其方のその癖……嫌いではない』言葉と連動して、女神の瞳が眩い光を明滅させている。どこか優しげな光だ。


『ワールド様……』


『……苛立っておるようだな、ロザリア』


 暗闇の空間に浮かぶモニターには、バビロニア支部IMCの様子が映る。彼らの会話から<イシュタル>が<アマテラス>を追って、カミラの心象インナースペースへと入り込んでしまっていることは、何処かでインナーミッションを見つめるこの者たちも、とうに把握していた。


『まさか<イシュタル>の攻撃を振り切って、自分の心象世界へ退避させるなど……あのカミラとか言う女隊長……なんと大胆不敵な』


『だが……かのバインド領域のサンプリングデータは十分得た。もう良いのではないか?』


『<イシュタル>のデータも回収しなければなりません。それに、あの<アマテラス>にはまだ役割が残っておりますゆえ……』


 そう言いながら、ロザリアと呼ばれたその女司祭は、モニターに向き直り顔をあげる。中空に表示されたままになっているカミラの顔写真の入った経歴書を睨め付けると、一時離した親指の爪先を再び口元へ押しやっていた。


『ふふ。面白いな。よほどその女が気に触るのか?』


 ワールドの声が聞こえなかったのか、ロザリアはその問いかけに答えることはなかった。



 ****


『……い! おい‼︎ 聞こえるか! <アマテラス>!』


 <アマテラス>のブリッジに、アディルのがなりたてる通信音声が響いている。


 突入時のPSI-Linkシステムへの一時的な負荷増加——カミラの拒絶とアランの想いの衝突によるもの——によって、PSI-Linkシステムにコンタクトしていた<アマテラス>の全クルーは、意識の攪拌でしばし呆然となっていた。


「つぅう〜〜。そう……怒鳴りなさんなって……」ティムは頭を抑えながら、すぐに操船系統のチェックを始める。続いて気を取り直したサニは時空間情報の収集と、波動収束フィールドの再構築に手早く取り掛かる。


「アラン!」亜夢があげた声に一同の視線がアランに集まる。アランはキャプテンシートの膝上コンソールに突っ伏している。


「副長!」皆の声に、アランは苦しげに身体を起こした。


「お、俺はいい……カミラ、カミラは⁉︎」「あ、うん! え、ええと……」亜夢は、あたふたとヘルスモニターを覗き込むが、何かにハッとして、再びアランを見る。


「大丈夫だって! でも…………」


 亜夢は、中空をぼんやり眺めて、何かと会話している。直人は、カミラの心身の保持に今もって当たっているアムネリアと、亜夢は交信しているのだろうとすぐにわかった。


「……ここには来させたくなかったって……皆には……ここ……とても危ない……でも……」


 亜夢はアムネリアを通して聞いたカミラの心の声を、そのまま口にしている。


「……一緒に戦って、って……皆んなで一緒に帰ろうって」そう言って、亜夢はにっこりとアランに向かって微笑む。


「カミラ……」アランの眉間の皺が一瞬、緩むのを亜夢は、見逃さない。が、すぐに気持ちを引き締め直したのか、いつもの真顔にもどり、アランは前を向く。亜夢は、不思議そうにアランの表情の変化を楽しんでいた。


「ったりまえっすよ! 最初からそのつもりってね」ティムは操縦桿に両手を乗せ、ぐっと握り込む。「そーよ。ほんとそういうとこ、思春期なんだから!」サニは手を動かしながら、ティムに続けて言う。「思春期? なんじゃ、そりゃ?」「アンタはいいの。女同士の話よ」はいはいと、ティムはそれ以上、追求をやめ前を向く。


 亜夢はコンソールに向き直ろうとした時、後ろを振り向き見ていた直人と視線が重なる。直人は亜夢に気づいて笑顔を作り小さく頷くと、前を向いた。


 よくやった、と直人が言ったような気がする。そう思うのと同時に、胸の中で鳳凰の残火が揺れるのを感じながら、亜夢も小さく頷くと、コンソールへと向き直った。


「サニ、周辺状況は?」アランが問う。


「時空間レベルは、4と5の間くらい……ずっと、あの十字架に抑え込まれてたのよ。空間の情報密度が圧縮されていて……危険率六十四パーセント!」「だが波動収束フィールドを展開しないことには何もできない……よし、同調率三十からハーモナイズ開始」「了解!」


 暗転していたモニターが何かを描き始めるのと同時に、ミシミシと船体の軋む音が聞こえ始める。現時空間とPSI同調率を高めつつ、PSIバリアの出力を上げていくが、船体の軋みも共に高まっていく。このまま同調率を上げれば船が保たない。かと言って、同調率が五〇パーセントにも満たないのでは、周辺状況も掴めない。


「どうする? これじゃ、進めねぇぞ、副長!」ティムがヤキモキした口調でアランの判断を仰ぐ。だが、アランとてすぐに解決策は見出せない。


 その時——モニターにいくつもの八角系の格子状の煌めきが映り込む。


「なんだ?」「! <アマテラス>の周辺を強力なエネルギー場が……これは、<イシュタル>?」サニが言うのと同時に、通信ウィンドウにアディルが出る。


『オクタグラムシェルターを展開した。これでしばらくは凌げるぜ』


 オクタグラムシェルターと聞いて、<アマテラス>の皆は、あからさまに警戒の表情を浮かべた。


『っと、勘違いすんなよ。こんな状況でそっちを襲ったりするか。ただ、展開用のエネルギーは、そう長くは保たねえ。一時間ってところだ』


「助かる……アディル」


『はは。いいもん見させてもらったからな。アラン』ふと<イシュタル>のメンバーを見渡せば、軍人上がりのあの険しい表情は消え失せ、一転、ロマンス映画を見終わった観客のような、ほっこりとした笑顔を浮かべ、じっとアランを窺っていた。


 アランは上気してくる顔を俯けて、目を逸らす。


「……と、とにかく……。サニ、シェルターを計算に入れて、同調率と波動収束フィールドを再調整。ミッション可能レベルに安定させてくれ」


「了解! 波動収束フィールド、シェルターデータ入力、周辺時空間オート再構築開始!」『こちらも手伝いますよ! データリンクを』「ええ」サニとヴィクラムは、<アマテラス>、<イシュタル>の波動収束フィールドを同期させ、シェルター強度と時空間圧の釣り合うギリギリでバランスをとる。


 ビジュアル構成された映像が、<アマテラス>、<イシュタル>モニターに映し出され始めた。


「ここは……」アランは身を乗り出す。

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