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INNER NAUTS(インナーノーツ)第二部  作者: SunYoh
第三章 運命の輪
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墓標を超えて 1

「ナオ! PSI-Linkにアクセスして、俺の記憶をトレースしろ! それで、PSIブラスターを撃つんだ‼︎」


「副長の? ……そうか!」


 今、<アマテラス>の波動収束フィールド内に描かれるこの世界は、過去と現在(いま)のアランの想いが、カミラの心象を補正して構築し直したもの。過去のPSIブラスターテスト機によるミッションとの同期が、<アマテラス>のブラスターを動かしているのだ。直人は、あの『オモトワ』の調査ミッションで、父、直哉の記憶データにアクセスした際、データに残った直哉の乗る<セオリツ>と、<アマテラス>とが、PSI-Linkを通じてPSIブラスターの制御が同期した事を思い出す。その状況に近いのだ。


「で、でも。それじゃ、隊長は……」


「構わん‼︎ カミラ(アイツ)を救うためだ‼︎ ナオ!」


 ハッとなって直人は正面をみる。『逆さの山羊』は、薄気味悪く笑みを浮かべているように見えた。今、隊長は、七年前と同じ状況に置かれているのであろう。直人は意を決して、先ほど弾かれたPSI-Linkモジュールへ左手を乗せる。


「PSI-Linkフルコンタクト! 右舷PSIブラスター、一番から三番、エネルギーチャージ率九十! 左舷……左舷はエネルギー供給不足?」


「テスト機が片舷分なんだ‼︎ ナオ、左舷への供給も全て右舷に回せ! 最大出力で撃つ!」「はい!」



「いよいよか」<イシュタル>のアディルは、通信パネル越しに見える<アマテラス>のブリッジが、俄かに慌ただしく動き始めたのを見て呟いた。


「こっちの波動収束スプレッドも発射可能レベルまで回復している。<アマテラス(あちらさん)>の援護、するか?」


「いや、それには及ばねぇさ。やるだけ無駄、邪魔するだけよ。ここはお手なみ拝見といこうや」アディルはそう言って、事態急変時に対応できるように、とだけ指示し、静観を決め込む。手を出すなよ、と、タリヤに釘を刺して。



 <アマテラス>が揺れ出す。ブリッジ中央に浮かび上がる<Jung006>もまた、その揺れに同期して、転がる卵のように右往左往している。


「ティム! 周辺の火が気流状の流れを生み出してるわ!」「任せろ!」


 アランの記憶を被せているとはいえ、PSI-Linkシステムが、その全てに支配されているわけではない。ティムの操縦に伴って、<アマテラス>の船首はしっかりと『逆さの山羊』を形作る紋様へと向く。


「あの悪魔顔を打ち払う‼︎ ナオ‼︎」


「了解‼︎ PSIブラスター、ターゲットに射線軸固定!」


「今度こそ……カミラ、いくぞ‼︎ PSIブラスター発射‼︎」「ブラスター、発射‼︎」


 <Jung006>のPSIブラスターに重なって、<アマテラス>右舷三基の半球レンズ状の発振器が生み出す、稲妻を伴う強烈な青白いエネルギーストリームが、光の束となって『逆さ山羊』の中心を貫く。


『逆さ山羊』は雲のように形を変えて、再び同じ形に戻る。PSI同調率が低い、もっとカミラ(あのコ)の心を感じ取れ、とアルベルトの叫ぶ音声が聞こえる。


「ナオ! 同調は俺に任せて、撃ち続けろ!」アランは命じて、自身はより深く瞑想に入る。


 PSI-Linkモジュールをとおして、直人は強い熱量を感じる。カミラのものとは違う——これはアランの意志なのだろう。一方で、カミラのものらしいPSIパルスは、依然としてその奥深くで燻っているようだ。


 それでも直人は、アランの命に従い、PSIブラスターを撃ち続ける。しかし、何度やっても『逆さ山羊』は形を変えるだけで、暖簾に腕押しのような感覚だ。「不完全だった」とアランは言った。やはり、これではPSIブラスターは十分な効果は期待できない。


「副長! このままでは!」直人が思わず声を上げた時。


「えっ⁉︎」直人は、PSI-Linkシステムの奥で、何か硬質なものに触れた感触を覚え、モニターを覗き込む。すると、PSIブラスターによって散り散りとなった『逆さ山羊』の雲の中に、ぼんやりと十字の鈍い光が見えてる。


「あれだ!」アランは声を上げる。


「……十字架?」サニは目を見開く。『逆さ山羊』が霧散した、その煙を纏う、鈍く光る十字架は、どこか禍々しくも見える。


『アラン……こいつぁ……あのコの持ってた……』

 アルベルトの声が聞こえる。


『ロザリオ……養父(おやじ)……』『ん、PSIパルス⁉︎ あのコのか⁉︎』


 十字架は、『逆さ山羊』の残滓を吸い込み、残ったそのわずかな光すら曇ってゆく。カミラの魂の一端が、波動収束フィールド内に顕在化したようだと藤川はいう。そこにPSIブラスターで揺さぶりをかければ、再び魂の力を目覚めさせられる可能性があると。


『アルベルト! PSIブラスターに全エネルギーを! 最大照射でいく!』アランの叫ぶ声が聞こえる。『PSI精製水タンクは、残り一本だ! 戻れなくなるぞ!』アルベルトは苦々しく返すが、藤川はアランの判断を許可した。


『っち。次のテスト機はまた半年後だってのに! いいか、アラン! エネルギーは目一杯注ぎ込む。だが、何度も言うが』『PSI同調率……だな?』『そういうことだ。よし、いいぞ!』


 <Jung006>のフォログラムの全景が光に包まれ、渦巻くエネルギー流がその前面に密集してくる。


『カミラ……戻ってこい、カミラ‼︎』


 <Jung006>のPSIブラスター放射に合わせて、直人もPSIブラスターを放つ。


 ……えっ! 何だ? ……


 PSIブラスターが十字架に届くのと同時に、直人はPSI-Linkシステムを通して、鉛か何かの塊のようなものに触れた気がして、ハッと顔を上げた。だがそれに反して、十字架は失っていた光を取り戻したかのように、激しく光り輝いて、あたりは閃光に包まれる。<Jung006>のフォログラムは、その光の中に飲み込まれるかのように、皆が気づく間もなく消えていった。


「これで……カミラは救われたと……俺は思っていた……現に、カミラは意識を取り戻し、身体も徐々に回復していった。だが……」


 アランが語り終わる頃、あたりの閃光は静かに消え行き、モニターが再び周辺を映像化して、描き始めていた。


 <アマテラス>、そして<イシュタル>の皆は、血の気が引くのを感じながら、正面に再び現れたそれを見つめる。


 それは、光を完全に失った十字架——


 色褪せ、灰色に包まれていく静寂の中に、その十字架は、まるで墓標であるかのように、ひっそりとそこに取り残されていた。

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