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INNER NAUTS(インナーノーツ)第二部  作者: SunYoh
第三章 運命の輪
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逆さの山羊 6

 <アマテラス>のモニターに映るカミラの心象風景は、先程からまた、溶けたチョコレートのように流れ出し、意味をなす形を生むことなく絶えず流動している。


「サニ、どうだ?」波動収束フィールド調整を試みるサニに、アランは問いかける。


「うぅん……これで目一杯なのよ。PSIパルス同調率は、波動収束レベルなんだけど。この領域は、隊長の記憶が曖昧なのか……あるいは……」そこまで言って、サニは言葉を濁らせた。


「何かに蝕まれているのか……か」おおよそ想定していた推測をアランは言葉にし、サニは小さく頷いた。


「やはり……不完全だったんだ……あの時の……オレの処置は……」


「処置?」怪訝な面持ちでティムは振り返り、キャプテンシートでうなだれるアランへ視線を送る。直人もそれに釣られるように振り返り、再びアランを見つめた。


「……PSIブラスターだ」アランは、顔を上げ短く答えた。インナーノーツ一同は、息を呑む。


「えっ⁉︎ どういうこと? まさか、隊長もインナーミッションを受けた? センパイみたいに?」「けど、七年前だろ⁉︎ この<アマテラス>は完成してないし、インナーノーツだってまだ?」サニとティムは、狐に摘まれたような面持ちで、互いに見合わせる。


「……どういうことなんです、副長?」直人は問う。


 確かに史上初のインナーミッションは、二十年前、<アマテラス>のプロトタイプシップである<セオリツ>と、それに搭乗した直人の父親、風間直哉によって、敢行されていた。当時四歳の直人がミッション対象者となったが、直人の命を救うのと引き換えに、直哉と<セオリツ>は帰っては来なかったのだ……。ここ数年の間に、インナーノーツが結成され、<アマテラス>が完成するまで、インナーミッションがあったはずがない。しかも……その対象者が、あろうことかカミラだったとは。


「PSIブラスターは、インナーミッションの要となる装備だ。IN-PSID本部では、早期から<アマテラス>搭載用の新たなPSIブラスターのテストモジュールを、機体に先駆けて開発していたんだ……」アランは七年前の当時を振り返りながら、語り始める。


 PSIブラスターは、プロトタイプ<セオリツ>にもすでに搭載されていたが、残された直人のインナーミッションデータから、多くの課題が浮き彫りになっていた。


 一番の課題は、ミッション対象者とのPSIパルスリンクの形成であった。これは<セオリツ>では完成しておらず、直哉が直人に対して使用した際は、PSI精製水と直哉との感応のみでエネルギーを生成していたのだが、インナースペースにおける時空間情報への働きかけはあまりに弱かった。この解決する、時空間との同調によってエネルギー効果を高め、また、それによる魂情報や時空間情報の書き換えも可能になるPSIパルス同調理論——一方で、魂領域での強力なエネルギーの作用は、著しい魂情報の変容にも繋がりかねない。対象の魂との同調は、同時に対象者の意志を尊重する原理となっている——は、<セオリツ>建造時にもほぼできあがっていたのだが、その理論の実現には至っていなかったのである。


 藤川とアルベルトは、カミラの身を案じ、日本まで付き添ってきたアランならと、彼を信用してこの最高機密を明かした。そしてブラスターの原理を説明した上で、藤川はアランに問うたという——君は、彼女の深いトラウマを、共に背負う覚悟はあるのかね? ——と。


「俺に迷いはなかった」とアランは言う。


 対象者とのPSIパルス同調。これは、ある程度の機械的なサポートはあるものの、結局、人対人のコミュニケーションであることに変わりはない。対象者の苦しみ、痛み、深き闇にどこまで寄り添えるか? それが、解決の鍵となる。


 ——ぶっちゃけ、お前さんと、カミラ(あのコ)の絆に賭けるしかないんだ。こいつの能力(チカラ)を最大限引き出すには——そう言ったアルベルトの言葉をアランは思い返す。


「俺はカミラ救命ミッションのプロジェクトチームに加わった。PSIブラスターのミッションオペレーターとして……」


 当時、まだPSIブラスターを運用できる機体は存在していなかったが、アルベルトは、PSIブラスター性能テスト用の無人余剰次元エントリーポッドを開発しており、これを用いたカミラの救命ミッションを藤川らは構築。カミラは意識不明であり、カミラは身内もいないため、アランが代諾する形で、ミッションを開始した。


「そうか。ここは、あの時の……それなら」


 アランは何か思いついて、PSI-Linkモジュールに左手を乗せ、意識を深く落としていく。


「ふ、副長! なにするの⁉︎」気づいたサニが叫ぶ。直人とティムも目を見張る。


「アムネリア! PSI-Linkフルコンタクト! オレの記憶をダイレクトに接続して、カミラの無意識記憶と同期! これで周辺のマッピングを補正できるはずだ!」<アマテラス>のPSI-Linkシステムと一体となっているアムネリアに向かって、アランは声を張る。


『アラン……カミラは、危険だと告げています……』音声変換だけのアムネリアの声が答える。


「ああ、わかってるさ。そうやって、お前は……あの時も、俺には踏み込ませ(・・・・・)なかった」


 アランは、深く深呼吸し、変性意識へと入ってゆく。アランの左手を乗せたPSI-Linkモジュールは、感応して白く激しく輝き出す。


「だが! 今度はそうも言ってられない‼︎」


 アランの思念に反応し、マーブルに流動を続ける<アマテラス>のブリッジモニターが、少しずつ何かを描き始め、ブリッジ中央のフォログラムもまた、何かの像を作り出そうとしていた。


「カミラ、あの時のやり直しだ!」

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