第143話 それぞれの切り札(前編)
本日「宮廷鍵師、【時間停止】と【分子分解】の能力を隠していたら追放される」のコミカライズ第21話が、マンガボックスおよび各電子書籍サイトにて解禁されました。
8月31日には、第4巻がシーモアにて配信開始されますので、そちらもよろしくお願いします。
アストリアの提案に僕は頷く。
正直に言うと、この手は剣帝ヴァルトと戦うまで残しておきたかった。
でも、相手は3人。全員がSランクの冒険者だ。
出し惜しみしていれば、僕らが負ける。
僕とアストリアは構えた。
少し空気が変わったことを敏感に感じたのだろう。
アラムさんは眉間に皺を寄せる。
「何か狙っているわよ、ダイムシャット。気を付けて」
「ふん。何が気を付けて……だ」
【仮面舞踏・狂宴】
ダイムシャットが指を鳴らす。
瞬間、アラムさんとゲヴェイムさんの顔から黒い炎が燃え上がった。
アラムさんは悲鳴を上げ、ゲヴェイムさんも首を抑えながら悶え苦しむ。
やめろ!
もうその人たちが十分苦しんでいるんだ。
「これ以上、苦しめるな!!」
僕はいつの間にか走り出していた。
ノクスさんのことが忘れられなかったのだろう。
2人の姿を見て、死者のことを思い出してしまったのかもしれない。
僕はダイムシャットを射程に収める。
鍵魔法で捕まえようとしたが、その前に視界に光が瞬く。
忘れようはずがない。先日の『戦争日』で見た光撃の予兆だ。
「全身――――」
とそこまで唱えてから、ヒヤリと汗が背中を流れた。
鍵魔法が唱えられない。
これは? と顔を上げた先に、アラムさんが歪んだ笑みを浮かべて立っていた。
(【静謐の祝祷】?)
しまった。
僕の鍵魔法に合わせて、魔法を禁止したんだ。
身体が【閉めろ】できない。
それどころか鍵魔法すら使えない。
光が降り注ごうとしている。
人間を蒸発させるほどの熱量が、この瞬間も僕の肌を焼こうとしていた。
上を見ると、聖剣オルディナを構えたゲヴェイムさんが見える。
光に照らされた騎士の姿は、まるで天国を守る大天使のようだった。
「銀剣!!」
僕に光が降り注ぐのと、アストリアが間に入ったのはほぼ同時だった。
銀剣の性質を得た聖剣エアリーズは、みるみる光の力を奪う。
さらに、銀剣に溜めた力を、刃の外へと廃棄する。
「大丈夫か、ユーリ」
「ありがとう、アストリア」
我ながら少し情けなくなってくる。
アストリアの盾は、僕の役目じゃないか。
「気にするな。我々はパートナーだ。役目が変わるときぐらいあるさ」
僕の心を読んだのか。
はたまた顔に出ていたのか。
わからないけど、アストリアが僕を励ましてくれたことは確かだ。
すると、低い笑い声が聞こえる。
聞くまでもない。ダイムシャットだ。
3人の中で中央に立ったダイムシャットからは、黒い鎖のようなものが見える。
鎖は横に並ぶアラムさんとゲヴェイムさんの首に繋がっていた。
先ほどまで、2人が纏っていた空気とはまるで違う。
仮面をつけたゲヴェイムさんはともかく、アラムさんからは表情が消えていた。
殺気も、怒気も、もはや気配すら感じない。まるで傀儡だ。
なのに2人の魔力だけがどんどん高まっていく。
「気に入っていただけただろうか? 我がダイムシャット劇団の狂宴は?」
「2人に何をした、ダイムシャット」
どうやらアストリアも知らない魔法らしい。
「簡単なことだ。我が劇団が誇る主演と女優に、オレ好みに演じてもらっているだけだ。その理性を破壊した上でな」
「理性?」
「そうだ! こういう風にな!!」
ダイムシャットは腕を振るう。
その合図とともに、再びアラムさんとゲヴェイムさんが襲いかかってきた。
ゲヴェイムさんが光撃や、【審判領域】を撃ち込めば、アラムさんは絶妙なタイミングで【静謐の祝祷】を使って、僕やアストリアの魔法を封じてくる。
とても理性を失った人間の攻撃とは思えない。
それがまた僕たちを悲しくさせる。
僕らは逃げ回るか。
あるいはアストリアの銀剣で、魔法をさばくしかなかった。
とにかく攻撃に転じられない。魔法を封じられると、ここまで戦術の幅が狭まるとは思ってもみなかった。
「フハハハハハ!! 踊れ! 踊れ!! 雑魚どもが!! オレに逆らうからこうなるのだ!! フハハハハハハハハ!!」
ダイムシャットの笑い声が、狂宴の舞台に響く。
フロアの中は雑音だらけなのに、ダイムシャットの声だけがよく聞こえた。
腹は立つけど、ちょっとあいつのことを意識しすぎなのかもしれない。
そもそもいいのか?
調子に乗って、自分の城で暴れているけど。
フロア部分は半壊しかかっている。
こんな巨大な城がどうやって建ってるか知らないけど、このままじゃ崩れるんじゃ。
「あ……。そうか」
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