第142.5話 円卓の魂(後編)
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銀の力を得た聖剣エアリーズが金色に光る。
銀剣化され、魔力との相性がよくなった刃は、先ほどゲヴェイムさんが放った【審判領域】を吸収していたらしい。
バリバリと音を立てながら、聖剣エアリーズは激しく明滅する。
「返すぞ!!」
【銀閃】!!
それはノクスさんが僕たちの目の前で見せた技だった。
相手の魔力を、斬撃の威力に変えて返す技術だ。
「ゲヴェイム、退避よ!!」
アラムさんが叫ぶ。――が、遅い。
光速の斬撃は、ゲヴェイムさんの脇から伸びる砲門の1門を切り裂く。
さらに砲門の中の魔力に引火し、爆発が起こる。
聖剣オルディナの上に乗っていた2人は、その煽りを食らって、落下した。
「ユーリ! 畳みかけるぞ!!」
「はい!!」
僕はアストリアの後について走る。
「まずい!!」
舌打ちしたのは、アラムさんだ。
なんとか着地できたものの、体勢が悪い。
何より虎の子の聖剣オルディナが破損していた。
これでは威嚇どころか、【静謐の祝祷】の影響化では回復すらできない。
まずアラムさんがやったことは、【静謐の祝祷】を停止させることだ。その上で、聖剣ヒルリングの力を発動させて、オルディナを完全回復させる。そして攻撃に転じる必要がある。
先ほど僕の鍵魔法よりも、魔法を唱えていた。
魔法の発動時間は、おそらくアラムさんの方が早いのだろう。
だが、3つのことをしなければならないアラムさんに対して、僕はたった1つだけでいい。
【静謐の祝祷】が解除されたと同時に、僕は鍵魔法を使った。
その時だった。
ああ。この時を待っていた。
アラムさんとゲヴェイムさんにかかっている闇魔法を解こうとした時、声が聞こえた。
同時に、広い玄関フロアのあちこちから鎖が伸びる。
四方八方、さらに天井、あるいは僕の足元からも現れた。
目の前にアラムさんとゲヴェイムさんがいる
そんな状況で、僕は選択せざるを得なかった。
「全身――――」
【閉めろ】!!
けたたましい音を立てて、鎖が僕の身体に弾かれる。
横でアストリアも銀剣を振って、対応していた。
結局、僕たちは止まる。
そして闇の沼からせり上がってきた男を睨んだ。
「ダイムシャット……!」
「よう。アストリア、そしてユーリ・キーデンス。惜しかったなあ。あともうちょっとで【仮面舞踏】を解くことができたのになあ」
ダイムシャットは「ひゃははははっ!」と笑う。
あまりの耳障りな声に、僕は思わず眉を寄せた。
「お? 怒ったか? いいぞ。怒れ怒れ……。なんせこっちはとっくに怒ってんだよぉぉぉおおおおおおお!!」
ダイムシャットの身体から炎が燃え上がる。
単なる炎じゃない。その色は黒。魔法でも、魔力の色でもない。
アラムさんの時と似ている。
たぶん、あれはダイムシャットが背負っている呪いの炎。
あの男こそ呪いそのものだった。
「よくも……。よくもオレを出し抜いてくれたな!! しかも剣帝陛下がいる崇高な黒牙城に穴を開けるなど、言語道断!! お前ら、ただで帰れると思うなよ」
ダイムシャットは懐から一振りの剣を取り出す。
それを僕の方に投げた。
うっ、と餌付いてしまうほど、黒く呪いに浸蝕された剣。
しかし、よく見ると、それは銀でできていた。
誰の剣なのか、言わずともわかる。
ノクスさんのものだ。
「まずはその男のようにこの世から消し去ってやる。塵一つ残さずにな。あとは楽しい不死者生活――なんて期待するなよ。お前たちは特別にこの黒牙城の愛玩動物として飼ってやる。勿論、剣帝陛下の玩具としてな」
僕は思わず拳を握りしめた。
自分のことなんてどうでもいい。
魔法を吸収する銀剣が、黒く染まり、吐き出せないほどの呪い。
持ち主本人がどれほどの痛みを心身に受けたか、想像に難くない。
不死者でも、たとえ明日生き返るとわかっていても、ノクスさんも人だ。
心を躊躇なく汚染し、人を人として扱わない。
そんなことを平気やるダイムシャットを、僕は許せそうになかった。
「ユーリ。落ち着こう」
アストリアが僕の肩を叩く。
すると、ダイムシャットの後ろにオルディナに乗ったアラムさんとゲヴェイムさんが現れた。2人とも完全回復している。聖剣も新品同然になっていた。
「ダイムシャット。助かったわ」
「ふん。不甲斐ないな、アラム。オレが来なければやられていたぞ」
「あんたが言えることじゃないでしょ」
アラムさんが睨むと、ダイムシャットは舌打ちする。
やがて3人の『円卓』の元メンバーたちは、僕たちの方を向いた。
「さて……。3VS2だぞ、アストリア。いや、1人は素人も同然だったな。降参しろよ。そしたらオレが剣帝陛下に口を利いてやってもいい」
「さっき我々をペットにするとか言っていたじゃないか?」
「はっ! お前の強さは認めている。剣帝陛下もな。……だがこっちには『円卓』のメンバーが3人もいるんだぞ。もうお前らに万が一の勝機はない」
「それはどうかな」
アストリアは珍しく戦場で微笑んだ。
そして僕の名前を呼んだ。
「ユーリ……」
あれをやるぞ。









