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第142話 円卓の魂(前編)

☆★☆★ 7月31日 一般発売 ☆★☆★


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挿絵(By みてみん)

「銀剣?」


 アストリアは北の街で鍛冶師をしていたドリネーと再会していた。

 1度別れた仲間を捜すのは、難しいと思われたが、残念ながら第9層には人の行き来がほとんどない。しかも、ドワーフで新米の鍛冶師となれば、情報も絞られてくる。

 加えて、アストリアは今、剣帝を倒すための準備期間にあり、1人の鍛冶師を捜すには十分時間があった。


 別れた時には今生の別れと思って送り出したが、7日とかからず再会する。


 仲間の顔を見た時、ドリネーは眉を顰めたが、工房に通してくれた。

 アストリアが伝え忘れていた聖剣エアリーズの強化案を伝えると、今度は顔をしかめる。


「いきなりやってきたと思ったら、聖剣を銀剣にしろだと?」


「ドリネーならできるだろう?」


「やれと言われればな。ただ銀剣は……」


「魔法との相性はよくても、脆くかつ曲がりやすい。だからドリネーに頼んでいる」


「お前……」


「ドリネーなら今の硬度、切れ味を維持しつつ、銀剣を作れるとな」


 アストリアは乗り出し、ドリネーを睨む。

 目の前の少女の二倍以上も年の差がある鍛冶師は口を噤んだ。


 ドリネーとて負い目がないわけではない。

 鍛冶師としての矜恃を全うしたい――みたいなことを言っても、仲間のことは気になっている。それを全部丸投げして、今目の前のアストリアに託したのだから、当然だ。

 そもそも聖剣を修理するのは、その罪滅ぼしの一環でもあった。


「わかった」


「……ありがとう、ドリネー」


 頭の鉄兜を押さえ、降参するドリネーを見て、アストリアもまた頭を下げた。


「お前さんに脅される日が来るとはな」


「人聞きの悪いことをいうな。私はお前に最高のものを作ってほしいと思っただけか」


「男でもできたか?」


 ぽつりと言ったドリネーの言葉を聞いて、アストリアはピンと背筋を伸ばす。


「まさかあのユーリとかいう……」


「ゆゆゆ、ユーリは関係ない! そもそもなんで今の話の流れで、男女の話になるのだ?」


「正義感と、責任感の塊みたいなお前が、随分とやわらかい表情をしているから不思議に思っただけだ」


「……。私は変わったか?」


「ああ……」


 アストリアは椅子に座り直す。

 差し出された湯飲みがすっかり冷めていた。

 しばし返答に窮したものの、膝に置いた手に力を込め、アストリアは言った。


「『円卓(おまえたち)』と別れたからだと思う」


 アストリアは『円卓(アヴァロン)』では、1本の剣だった。

 それが求められた役割であり、アストリアも甘んじていた。

 そういう自分に仲間たちは満足していたし、うまく『円卓(アヴァロン)』は回っていた。


「でも1人になってわかった。私が1本の剣であるために、どれだけ仲間たちが私のために身を尽くしてくれていたかを……。支えられていたかを……。むろん感謝を忘れていたわけではない。しかし、1人になってみると、私には色んなことが足りていなかったのだな…………とつくづく思ったのだ。ほんと、それだけなんだよ」


「……ふん。ようやくわしらのありがたみがわかったか」


 ふん、とドリネーは小さく鼻で息を吐く。


 やや無愛想な反応を見て、アストリアは眉をぴくり動かす。

 どういうことだ、と再び前のめりになったところで、先にドリネーが口を開いた。


「わしも一緒だ。お前の存在を今ほどありがたく思ったことはない。……お前だけじゃない。ゲヴェイムも、アラムも、そしてダイムシャットもな。なくなってみて、初めてわかるとはこのことだ」


「『円卓(アヴァロン)』はまだ終わってないぞ、ドリネー」


 アストリアは自分の胸を叩いた。


「我々が最初の全層踏破者となる――あの誓いはまだここにある。私が死なない限り、『円卓(アヴァロン)』のメンバーが歩みを止めない限り、『円卓(アヴァロン)』は、いや『円卓(アヴァロン)』の魂は終わらぬよ、ドリネー」


 『円卓(アヴァロン)』はもう空中分解の最中にある。

 ドリネーも理解していたし、アストリアも心の奥底では理解していた。

 ダイムシャットは裏切り、アラムもすでに精神が崩壊しつつある。ドリネーも抜けた。

 【仮面舞踏《カリギュレイト・パレード》】の最中にあるゲヴェイムも、すでに闇に呑まれているかもしれない。


 それでもアストリアは前を向き、『円卓(アヴァロン)』の終焉を否定する。


 ドリネーはそう思わない。

 だから、少し顔を伏せた。


「やはりアストリアは、アストリアだな」


 と、最後に呟くのだった。


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?????????(しばし待て)


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