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ポラリス 2章  作者: susan
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6/13

紅子さんがタイプ

「どうですか、今からラ―メン食いませんか?」


「食べたいです。実はさっきフレンチレストラン行ったんですけど、お腹一杯にならなくて」


「同感です。一皿の量が一口ですよ」


 大森と紅子は狸小路の有名なラ―メン店へ行き、濃厚みそラ―メンを食べて体を暖めた。


「すぐそこに焼き鳥があるんですよ」


「いいですね」


 古めかしい場末の焼き鳥屋さんで、熱燗でちびりちびり。


 「落ち着きますね、こういうお店も好きです」


 いつも、派手な店で、派手な顔した洋風の彼と、英語の会話が途切れないようにする。

 又は、どんなに残業しても、終わる事のない編集カメラマンとしての業務。

 広告ノルマ。


 それらは、紅子には少しストレスになっている。

 大森は、無理して会話を盛り上げようとしていない。

 ゆっくり飲んで、ゆっくり話題を考えている。


 バツイチって言ってたわよね。

 こんなに素敵なのに。

 ゆっくりしているのがいいわ。

 私の人生30年。せかせかしすぎたみたい。

 

 大森が何か話すまで、無理に自分も話さなくていい雰囲気が優しい。

 今までは、会話が途切れると

「どうしたの?」

 とグレンが顔を覗き込む。

 そして

「僕と居て退屈?」

と、悲しそうな顔をする。


 でも、日本人のコミュニケ―ション文化の独特な部分に、


 沈黙のコミュニケ―ション


 というのがあるようだ。

 その場の雰囲気の中に同化して楽しんでいる態度が、すでに周囲に対してのコミュニケ―ションなのである。話さなくてもいいのだ。笑顔があれば。


 一対一でも、疲れたら沈黙でいても場が保てる。

というカップルや友人が居るだろう。 


「紅子さん、綺麗だなぁって思って」

 大森がぽつりと言った。


「えっ?」


「紅子さんを見ているだけで、幸せになれますよ」


「社交辞令ですか?」


 なんで?と笑った大森。そして

「焼き鳥屋で社交辞令言いますか?」

そう言い、煙草に火をつけて、深く吸い込んだ。


「ス―ザンが大森さんを気に入ってますよ」


 大森は頷いただけだった。

「どうすれば、貴女に好かれるんですかね?」


「…………」


「今ずっと考えていたんですよ。」

 そう言って熱燗をグイッとやり、煙草を深く吸い込む。

 整った横顔が、いくらか疲れて見えるのもセクシ―だ。


 これ、口説いてるの?

 何?

 空気読めないんだけど。


「また、二人で飲んでもらえますか?」

 

「はい、いいですよ」



 紅子はタクシ―で帰宅した。

 グレンからの国際電話を受けれなかった。

 スマホには、彼からの何通もメ―ルがあった。


 いま夜中の1時。

 フィレンツェでは夕方5時。

 メ―ルを読むと、紅子が男の部屋へ行ったのではないかと心配する言葉ばかり。

 なぜ、電話に出られるようにしないのか、責める言葉。


『グレン、私の心配はいいから仕事に没頭して。私はラ―メンと焼き鳥屋さんとで、この時間にタクシ―で帰宅しました。もう、寝ます。あと、ひとつ、あまり、干渉すると、あなたとはgood-byeします』


 すぐにグレンから返信が来た。

 なにやら難しい英単語が並ぶ長い文章。


 紅子は今夜の大森があまりにも素敵だったので、グレンと別れてもいいや、と考えてしまった。



          続く

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