もう始まっている
玄関でゴトッと物音がした気がして、監視カメラ映像を確かめた。どうやら宅配便が来たらしく、青い制服を着た姉ちゃんが立ち去るのが見えた。
自分には心当たりがないので、ハウスメイトがまた軽率にものを買ったのだろう。いくら通販が安いからといっても限度というものがある、と俺は思っていても口に出さない。部屋はガラクタだらけでも、家賃を毎月期日通りに払うし、公用の場でのマナーを守るしで、基本的にいいヤツだとは思う。
ハウスメイトはいま上の階だ。代わりに俺が玄関から件の箱を回収する。
意外と軽かった。
側面にはあの大手通販サイトのマークが見えた。
「なあ、お前宛になんか届いたけど、開けてやろうか?」
二階にも聴こえるように大声で問いかける。
おー頼むー、と返事を聞き届けた後、俺はポケットナイフを取り出した。階段のところに腰を掛け、ナイフを滑らせるようにしてテープを切る。
そうして箱をゆっくりと開けた。段ボールがこすれあう音がうるさい。
「なんだこれ」
箱を詰めるプラスチックの下から赤い色がはみ出ている。棒か? 明るい赤は、グリップのように見えた。テニスラケットにしては小柄だし、何かうねっているので違う気がする。
好奇心に勝てず、俺はそれをひっつかんで箱から引っ張りだした。
「いいだろ。いつかキャンプで使おうと思って」
背後からハウスメイトの声。
「…………斧」
「薪割りメインだけどハンマーにもなるってさ。プラ〇ムデーセールで二割引きだったんだ」
刃はもちろん、カバーしてある。俺は斧をヤツに渡して、立ち上がろうとした。
箱からもうひとつ、小さな包みが転がり出た。
「すまん、まだあったのか。こっちは……消しゴム?」
「5個セットで15%オフだったし、ちょうどお気に入りのやつなくしたばっかでさ」
「プ〇イムデーって今日からじゃなかったのか」
「実は昨日もう始まってたんだ。朝早くに買ったから届くのも早かったみたいだな。お前もなんか買ったらどうだ」
遠慮しておく、と俺は呆れた顔を見せないように、そそくさとキッチンに向かっていった。ほどほどにしとけよ、とはやはり言わないでおく。
「赤」
「斧」
「消しゴム」
#即興小説のお題決めたったー
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