修学旅行
現地時間ではもう夜になっていた。
まあ、日本とマレーシアでは1時間しか時差がないんだけどね。
バスの中で現地の通貨であるリンギット紙幣を受け取って、夕食会場へ向かった。
丸テーブルを囲んで、皆で中華を食べる。
「辛っ!!」
「バーカ。
唐辛子ごと食べたら辛いの当たり前だろ。」
マレーシアでは水道水は衛生上、水道水は飲んではいけないため、ミネラルウォーターを飲み干す。
何だかんだで辛かったが、味はそこそこだった。
夕食の後、バスでホテルに向かう。
さすがミシュラン三ツ星ホテル。
日本人向けの、設備が整った、かなり快適なホテルだ。
エレベーターにはルームキーを差し込んでから階のボタンを押す仕組みになっている。
部屋もルームキーでロックする。
部屋にはバスルームやトイレも完備されている。
2人部屋らしく、私は真宵ちゃんと一緒。
レンは1人。
相部屋の人が体調不良で休んでいるらしい。
真宵ちゃんとミツと3人でレンの部屋に行った。
「大丈夫かな、メイ…」
「大丈夫でしょ。
ってか、レン…貴方…出発前に全世界中継会見やったでしょ…
メイちゃんと婚約するつもりだ、って…
先生たち、大騒ぎだったよ?」
「そうだぞ、レン。
大事な婚約者を1人にしていいのか?」
ミツのその問いにも答えることなく、意味深な笑みを浮かべたレン。
その意味を、翌日知ることになるんだ…
翌日。
ホテルのうるさいモーニングコール…
ではなく、ミツからの内線電話によるモーニングコールで起こされたから良かった。
朝から制服に着替えて、現地の高校の生徒と交流する。
楽しかったぁ。
いろんな、マレーシアならではの遊び教えてもらったし。
最後に、なんかプレゼントもらったし。
相手の方が付けていたブレスレットだったけど。
交流を終えた後は、クラス別に観光をした。
ひっきりなしにレンの携帯が鳴っていたけど、特に気にしていなかった。
だけど、忘れていたんだ。
マレーシアは、日本と違って、治安が悪いということを…
観光を終えて、お土産を買ったり、写真を撮ったりして、バスに戻った。
レンが先生たちが持っているマイクを奪って言う。
「この学校の生徒の荷物から数冊のパスポートが盗まれた。
皆は被害ないか?」
皆は大丈夫だと言う。
レンは、十分気を付けてくれとだけ言って、先生にマイクをパスした。
その日、ホテルの自由時間にも、先生の見回りが行われた。
そんな中、私と真宵ちゃんは、先生に盗難被害の状況を聞くため、2人だけで廊下に出た。
エレベーターに乗り込もうとしたとき、急に背後から頭を殴られた。
真宵ちゃんも、気を失ってしまっているようだ。
目が覚めると、見知らぬ部屋にいて、両手足を縛られていた。
真宵ちゃんはまだ気を失ったまま。
私は、腕をもぞもぞと動かして、するりと縄を抜け、自分の手首を確かめながらさすった。
誘拐対策の縄抜けだ。
レンに昔習ったことがある。
その手で足のロープをほどいていると、真宵ちゃんが起きた。
「私たち…何がどうなったの?」
「分かんないけど…
誘拐されたっぽい。」
「そのとき、ロッカーの中から見覚えのある2人が。」
「あれ?
メイちゃんに…レン?」
「……な…何でお前らが?」
こっちがビックリだよ…。
〈レンside〉
オレは、先生に許可を貰って、生徒たちの品を盗んだ奴等がいるアジトに向かった。
アジトの場所は、生徒の持ち物に予め仕掛けておいた発信器で分かったから…
まずは見張りが2人。
あっけなく倒して、奥に進んでいくと、荷物を発見。
その鞄には、盗まれた生徒たちの持ち物が入っていた。
その持ち物に気をとられていて、人の気配には気づかなかった。
思い切り殴られ、後ろ手に吹っ飛ぶ。
相手の手には、スタンガンが握られていた。
やべ…
油断…したわ。
シュッ!
次の瞬間、空を切る音がして、スタンガンは手から失われていた。
何が起こったのか、わからなかった。
「クスッ。
感謝することね。
宝月蓮太郎。」
聞くだけで身体が反応して熱くなる、色気のある声。
メイだ。
「サンキュ。
…助かった。」
「しかし、香港のマフィアも考えが浅はかね。
修学旅行生の持ち物を盗んで、私たちFBIをおびきだそうなんて。」
「ホントだよ。
監視してたんだろ?
昨日からオレらのいるホテルを。」
「…蓮太郎…後ろっ…」
オレはとっさに、背後の男を武器である短剣で切りつけた。
ただ、それにあっけにとられていたらしいメイが、そのすきに殴られ、気を失ってしまったらしい。
「メイっ!?メイっ…ウッ…!」
腹部に襲った痛みとともに、オレも意識をなくした。
「ん…」
目が覚めると、メイがオレを心配そうに見上げていた。
「大丈夫かしら?」
「ああ…
メイこそ、ケガがなくて良かった…」
思わず、メイをぎゅっと抱きしめる。
と…そのとき、ドアの向こうに誰かのオーラを感じた。
「メイ…2人で隠れよう…」
彼女の手を引っ張り、近くにあった物置らしき扉に隠れた。
「キャッ…な…何っ…」
「うるさい。
黙って。」
そう言ってもなお、騒ぐメイ。
「もう…こぉしないと、黙れないのかよ?」
そう言って、メイの唇を強く塞いだ。
しばらくして、扉が開く音とともに、足音が遠ざかっていった。
「ハアッ…行った…みたい…だなっ…///」
唇を離すと、銀色の糸が伸びていた。
「…ごめん。」
「全く…今自分がどういう状況か…分かっているのかしら?
あんなことは…ホテルの部屋に戻れば、いくらでもできるはずでしょ…」
「クスッ。
何?…誘ってるの?」
「バ…バカッ!!」
さ…外に出るか。
物置から外に出ると、ハナと真宵ちゃんがいた。
「何で…ここにいるの?」
「それは…こっちが聞きたいんだけど?」
ってか…ハナ…
重大なことに気付く。
ハナがいつも首から下げている、祖母の形見の指輪がないのだ。
アイツらっ…
そのとき、部屋のドアが開いた。
そこには2人の人間が立っていて、オレの見覚えのある大きな鞄を持っていた。
「ぐはっ!!」
その男の腹に蹴りを入れ、もう1人の男を恒例の護身術で倒す。
「待て!!
俺だよ…蓮太郎っ…痛っ…」
変装用のマスクを外した2人の男。
村西さんと遠藤さんだった。
「すみませんっ…!!」
1階に降りると、敵は全員伸びていて、無事に荷物を取り返し、ホテルに戻った。
「全く…パスポートとかを盗んで不正入国を企んでいたんだろ。
そのために、売れば金になりそうなものは全て盗ったみたいだな…」
「そうだ。
コレ…大事なものだろ?」
そう言って、村西さんはハナにあの指輪を渡した。
ちゃんとチェーンも無事だ。
ってか…このホテルなんだ…
FBIの手配したホテル…
ってことは、村西さんも遠藤さんも同じホテルかよ…
ハナと真宵ちゃんは自分の部屋に戻った。
「すみません…今日は…助かりました…」
「自覚しろよ~?
自分がどんな立場か。
じゃ、おやすみ~」
村西さんはそう言うと、自分の部屋に戻っていった。
オレも部屋戻るか。
部屋のドア脇にルームキーを指して、部屋のドアを開ける。
…ん?
シャワーが流れ落ちる音が聞こえる。
オレ…1人部屋のはず…
見慣れない荷物まで置いてあるし…
シャワールームを開けてみると、シャワーを浴びているメイの姿があった。
「メイ!?」
「キャァッ!!
って…蓮太郎?
…出てって!!
いくら婚約者でも…やっていいことと悪いことがあるわよっ…」
「いいじゃん?
もう何回も見られてんだから。」
「もう…すぐ着替えるから、少しだけ待ってて。」
そう言って、十分もしないうちに出てきたメイは、かなりエロかった。
髪は濡れて、Tシャツにショーパンって…
ホント、襲ってくださいって言ってるもんでしょ?
「で、メイさ…なんでここ来たの?
村西さんと遠藤さんだけに来いって言ったんだけど?」
ずっと気になっていることを、メイに聞いてみた。
「私が行くって言ったの。 寂しかった…のっ…
だって…全然連絡くれなくて…
全世界同時会見の日だって…
キス以上のこと…してくれなかったじゃんっ…!
してよ…っ…」
泣きながらオレの服の裾を掴んで訴えてくる。
オレ…もう手加減しないからね?
ヒョイ…
トサッ…
彼女をお姫様抱っこをして、優しく優しく…
ベッドに寝かせた。
大事な婚約者だし…ね?
「メイ。
…ごめんな?
連絡できなくて…」
「ううん。
仕方ないよ。
一応…アイドルなんだし。
それでもちゃんと…私のことは優先してくれるでしょ?
その…バカなくらい優しいところ…
大好きよ?」
言ったな?
「ホントに…今日寝かせないよ?」
「いい…わよっ…
蓮太郎…だから…ね。」
「メイ…愛してるっ…///」
「私も…よ?」
2人で何度も何度も愛を囁き合いながら、修学旅行らしからぬ夜を過ごした。
「ん…」
目を開けると、慣れない眩しさの明かりに、一瞬、目が眩んだ。
そっか…
ここ…マレーシアなんだっけ。
「蓮太郎?」
メイも起きたみたいだ。
その瞬間。
外からコンコンと、ドアを叩く音がした。
「メイ。
オレが出るから、服着てな?」
それだけ言って、無造作にベッドの下に脱ぎ捨てられたTシャツを着て、ドアを開けた。
「お、おはよう~。
7時から朝食だから、降りておいでね~。」
「はい。」
「あ、安心していいわよ。いるんでしょ?
…例の婚約者さん。
もう留学生申請手続きは済んでいるから…
仲間だからね?1組の。」
「ありがとうございます。」
メイを、アメリカからの留学生として受け入れてほしいと、オレから頼んでおいたのだ。
そうすれば、遠距離恋愛ではなくなる。
ずっと一緒にいたい。
メイも…それを望んでいるはずだから。
先生がまた見回りに行くと、メイに告げた。
「済んでるってさ。
帰国子女申請手続き。」
「良かった。
ずっと一緒なんだね?」
そうだよ、というように微笑むと、オレに抱き付いてきた。
「大好きだよ、蓮太郎っ…」
理性が飛びそうになるのを抑えて、言った。
「早く用意しちゃえよ?
7時から朝食で、その後すぐに市内観光だから。」
「分かってる。」
今日は、大学生ガイドに、首都クアラルンプールを案内してもらうのだ。
楽しみだな。
オレとメイは英語話せるから問題ないけど。
ハナとかミツとか…起きてるかな…
起きているのかが心配になって、ハナの部屋番号をプッシュして内線電話をかける。
『もしもし。
って…レンかよ。』
電話に出たのは、ミツだった。
「何でお前が!?
ってか、ハナは?」
『まだ寝てるの。
何度起こしても起きないんだよな笑』
「あら。
ハナちゃん、まだ起きていないみたいね?」
メイはそう言うと、おもむろに携帯を取り出し、どこかに電話を掛けた。
『はい…?』
「クスッ…おはよう。
私よ。」
『んぁっ!?
その声…メイちゃん!?』
「そ。
何でここにいるかっていうのは…蓮太郎が話してくれるはずだから…
内線電話に切り替えるわね?」
メイは言い終わると、受話器をオレに渡してきた。
「ま…ハナたちには話してなかったからな。
交換留学生としてメイがこの学校に来ること。
もちろん、アメリカ国籍はまだ持ったままだし、
会見であんなこと言った以上、治安のいい日本のほうが安全だな、って思ったし、オレもメイと離れたくないしね。」
『そっか。
いいこと考えるじゃん?
バスの中で先生がそんな感じのこと言っていたらしいんだけど、私が寝てたから知らないだけかも。
……えっ!?
ミツと真宵ちゃんも知ってたって。
何で教えてくれなかったの~?』
「ごめんって。
…詳しくは後で話すから、ちゃんと用意しておけな?」
オレはそれだけ言うと、ハナの焦った声を聞いてから電話を切った。
メイ、携帯で電話することでハナの携帯から大音量で某気象系グループの曲が流れることを利用したのは頭いいけど、海外だから通話料かなり高価だぜ?
仕方ない、オレの過失だし、財閥の金で7割くらい払ってやるか。
朝食をとるレストランに入って、5人で朝食を食べる。
その後に、今回観光案内をしてくれる現地の大学生ガイドと合流。
エリカと、シュアンの、2人のガイド。
シュアンは、某気象系グループのファンらしく、オレとメイとハナの3人で盛り上がっていた。釣り好き王子とマジック王子のソロ曲まで知ってるとか…
マレーシアにも某気象系グループ、浸透してるんだな(笑)
ハナなんて、某ショップで売ってる公式生写真持ってきてたし汗
もう、某気象系グループの宣伝部長だな。
いや~
某気象系グループさんには負けるけど、いい観光立国の仕事したな♪
その後はクラスの皆で夕食会場に向かった。
しかし、その行きのバスの中で冷房が壊れ、
車内の温度が急激に上がった。
「気持ち悪っ…」
ハナが顔を青くしたまま呟く。
ヤベ…
熱中症かもしれないな。
「どうしても体調が悪いやつだけ降りて歩いて行っていい。
どうせ渋滞だから、遅くなる。」
という、先生の指示。
ハナも真宵ちゃんも降りた。
ミツが、具合が悪いフリをして降りる。
あとは、車内の状況を、オレがブローチを通じて伝える係だ。
「ハナ、平気?」
外に出ると、少し落ち着いてきたようで、足取りはしっかりしている。
ハナたちが着いてすぐ後に、オレらが乗っているバスも会場に到着したようだ。
夕食の鍋を食べ終え、ホテルに戻る。
明日は朝からマラッカ観光に行って、そのまま飛行機に乗る。
だから、このホテルに止まるのも、これが最後。
先に帰国の準備を早々と済ませたらしいメイは、先に眠っていた。
時々寝言で、オレの名前呼ぶ。
…可愛すぎるんだよ。
起こさないように、頭を撫でてやってから、唇を重ねて、
「have a good dream,my sweetie…」
とだけ言って、オレも眠りに付いた。
翌日。
マラッカ観光の前に、また朝食のバイキング。
昨日と同じメニューで、正直飽きた。
オレとハナたちは、さっさと朝食を済ませて、部屋でカップラーメンを食べた。
「日本食…恋しいわぁ。」
「もう、しばらくチャーハンはこりごりよ。」
「クスッ…分かった。
オレの専属シェフたちに、チャーハンは作らないように言っておくよ。」
その後は、ルームキーなどを返却して、荷物をバスに積んで、そのままマラッカ観光に。
たくさん写真も撮ったし、マラッカの海も見た。
マラッカの海は濁っていて、ゴミなども浮いていた。
やっぱり、日本の海はいいなぁ。
中国の風格漂う寺院も見た。
さすが多民族国家。
オランダ広場とかもあったし…
だけど、それぞれの文化がお互いに融和しあっているのが、マレーシアのすごいところだ。
昼食の後は、お土産物屋で買い物をして、夕食会場に向かった。
夕食がバイキング形式で、中でショーもやってくれたし、修学旅行の中で1番有意義な夕食だった。
夕食を済ませ、マレーシア空港に向かう。
マレーシアを去るとき、ほんの少しだけど、名残惜しかった。
荷物を預け、出国審査を終えると、少しだけ買い物の時間が与えられた。
オレは、寂しかったであろう家の使用人やらお祖母さんへのお土産を無関税店で物色した。
ハナやらメイは、化粧品等を買い込んでいた。
お前らは、メイクなんかしなくても、十分可愛いと思うけど、
色気より食い気らしい真宵ちゃんは、ミツとともに買えるだけのお菓子を買っていた。
三者三様に買い物の時間を楽しみ、飛行機に乗り込んだ。
相変わらず、ハナやメイは硫黄島からの手紙やら花より男子Fやらをときどき真宵ちゃんから出されるお菓子を食べながら観ていた。
数時間後、無事に着陸した。
着陸すると、ハナとメイが目を覚ました。
「ふふ。
相変わらず、よく寝るよね。」
DS片手に言うオレとミツ。
2人でずーっとぷよぷよやってたの(笑)
着陸後しばらくして、携帯の電源を入れていいとアナウンスがあったので、電源を入れてみた。
オレは…
新着メール、20通…
そのうち5通は…メルマガだった。
10通は奈斗やら将輝、伊達さんやら村西さん、遠藤さんからのメール、
後の5通は使用人からの気遣いメールだった。
心配されなくても、上手くやってるよ。
飛行機から降りると、久しぶりの日本に、清々しい気持ちになった。
入国審査を終えて、荷物を受けとり、空港を出て、バスに乗り込む。
楽しかったなぁ…マレーシア。
だけどやっぱり、日本が一番だなぁ。
無事に、地元の駅にバスが停まると、皆の顔に安堵の表情が見えた。
皆、お疲れ様。
オレは明日のコンサートで、某気象系グループさんのバックでひたすら踊るから休みはないけど、しっかり休めよ。
だけど…後から聞いた話、修学旅行気分が抜けなくて、ハナの家で皆でお泊まり会をしたらしい。
代休の意味ないし。(笑)
まぁでも…マレーシア…最高だったっ!!




