決闘
〈レンside〉
ようやく、日本に到着。
今は…6月23日の夕方5時。
空港を出ると、1台の車。
運転席にいるのは…伊達さん。
「こんばんはっ…」
「何だ今更。
改まって。」
「伊達さんにも…ずっと何も言わなくて…迷惑かけたかなって…」
「…ま、溜め込むのもほどほどにしろよ?
全部ハナから聞いたけどな。」
「何か言ってました?
その…2人は。」
「ん~?
別に何も。」
「なら…良かったですけど。」
エージェントルームに着くと、ハナとミツと…真宵ちゃんが迎えてくれた。
な…何で真宵ちゃんが!?
「ん~?
私が呼んだの。
ホントだったんだなって。私がここに入りたての頃に調べてた"霊媒"って。
…真宵ちゃんが身を持って証明してくれたから。」
「そんな…あたしなんて、まだまだだよ。
ハナちゃんのお祖母さんも、実のお父さんも…優くんのお父さんも霊媒できなかったし。
まだ全然…修行不足だから。」
その後も、オレがいない間での学校の話などをして、伊達さんと明日香さんの奢りでご飯食べて、エージェントルームに泊まって、そこから直接学校に行った。
実は昨日でテスト1週間前で、そんな中での授業はかなり早く過ぎていき、テストも無事に終了した。
…俺は、アメリカにいる間も、エージェントルームを介して"ビデオカメラ仕込み盗音機"を送ってもらってたから、授業でやったことは大体わかってたから、まあ70点は越えるだろう。
…どの教科もね。
ピンポンパンポーン。
「至急…皆さんは駐輪場から帰宅して下さい。
他校の制服を着た2人組が正門前をうろついています。
くれぐれも安全には気を付けて下校するようにして下さい…」
この放送に、オレとハナとミツと真宵ちゃんは顔を見合わせた。
…アイツらか。
何で…この高校が分かった?
…まあいい。
アイツらに…思い知らせてやらなきゃな。
"飛んで火に入る夏の虫"
ってことを。
職員室に行くと…何故かアコール先生に会った。
まさか…また例のタロット占いで何か?
「校長先生。
あの2人の子は…私たちがなんとかしますから…ご安心下さいね?」
それだけ言って、校長先生に穏やかに微笑んだ先生は、オレに耳打ちした。
「着るといいんじゃない? あの子たちもね…相当魔力上げてるから。」
そぉ言って、何故か修行のときに着ていたのと同じ服を手渡してきた。
肩を保護するためにアーマーのようなものが付けられていて、襟など、至るところにリングが付けられている、かなり薄い素材の服だ。
俺は、その上からカーディガンとたまたま入っていたズボンを履いて、空間移動をして、皆がいる場所に向かう。
そこは、オレの祖母の家の近くにある、更地だった。
「……!!」
……遅かったかっ…
ハナとミツは…木の枝に捕らわれていた。
「くくく…宝月 蓮太郎か。…久しぶり…だな。」
「帳…奈斗。」
「初めまして…かな?
浅川 将輝。」
キサマ…か。
メイをあんな目に合わせたのは。
「何の用だ。
…復讐か?
11年ほど前の、学級裁判の。」
「それもある。」
「おわっ…」
そう言うや否や、いきなり腹めがけて拳を振るってきた。
間一髪で、それをかわす。
ふいに、後ろから声がした。
木に捕らわれていた2人が解放されたらしい。
すると、次の瞬間。
どこからか、魔導界最速といわれるスカイドラゴンが2人に襲いかかる。
目にはいつもの穏やかさがなく、漆黒色をしている。
まさか…
操っているのか?
アイツらが。
「きゃあっ!!」
「うっ…」
いつの間にか…ナナちゃんや矢張くん、あみちゃんや由紀ちゃんたちが来ていたけど、みんなも…相手をするだけで疲労困憊で…力なくうなだれるようにして倒れていった。
俺は、ただ1人地面にへたりこんでいる真宵ちゃんに、茜姉さんが開発した、多少は体力が回復する「ちゃりん糖」を投げて渡した。
その間に、太股から伸縮性のある刀を取り出し、斬り付けていった。
斬り付けると同時に、柄に付いているスイッチを押すと、普通の人間なら感電して即死するほどの電流が流れる。
全てのスカイドラゴンを倒すと、その剣を奈斗の首元に向けた。
オレの特殊能力。
怒りが頂点に達すると、トンでもない魔導の力を発揮する。
くすっ…
「やれるもんなら、やれば?
臆病なお前は、俺を傷つけることすら出来ない。
違うか?」
奈斗の言葉は、確かにその通りだった。
「くっ…」
その言葉に少し動揺して、少し身じろぎしてしまった。
「!!」
その間に、刀の切っ先を掴まれ、そのまま軽々と投げ飛ばされた。
空中で1回転して元の姿勢に戻ると、鋭くまた突きを繰り出す。
突然、短剣を振りかざした浅川が襲いかかってきた。
一方的に押し込まれながらも、浅川の攻撃を軽々と受け止める。
そうして、足下めがけて刀を振るった。
「弱いな…」
浅川が膝から崩れ落ちるのを見届けて、手からコントローラーのようなものが落ちるのを見た。
真ん中にあるボタンを押すと、うねうねと動いていた木の枝が動きを止める。
スカイドラゴンの目も、元の穏やかなものに戻った。
「木もスカイドラゴンも…操られていたのね…
あのコントローラーで。」
ちゃりん糖で意識を取り戻していたらしいハナが言った。
「…蓮太郎くんっ!!
後ろっ!!」
あみちゃんの声とともに、
何かが空を切る音がした。
奈斗と浅川の肩に、矢が突き刺さっていた。
奈斗は慌ててその矢を引き抜いたが、出血はなかった。
矢を切り裂くがてら頭上で奈斗が振るった刀を自分のでごく軽く受け止めたが、それでもなお、しつこく斬りかかってくる。
それらをくぐり抜け、脇を抜けて奈斗の後ろに回り込む。
そうして、背後から刀を一閃した。
が、奈斗はすばやくかがんでそれをかわし、刀を振るった直後のわずかな隙を突いてオレの腹を蹴りつけた。
「うッ!!」
勢いで床に転がったオレは、奈斗がポケットからピストルのようなものを取り出すのが見えた。
引き金が引かれると同時に撃ち込まれた火炎弾を、素早く飛び退いてかわす。
「チッ…」
弾切れを起こしたらしく、動揺している奈斗。
オレは、その隙を見逃さなかった。
奈斗の頭上に向かって、鋭く刀を突き出す。
と同時に、奈斗はまた向き直り、銃口で切っ先を器用に受け止めていった。
「……!!」
弾切れを起こしたはずの銃の引き金を引いた奈斗。
銃は暴発し、奈斗は吹っ飛んだ。
その衝撃で、オレが持っていた刀も遥か後方に吹き飛ばされてしまった。
取りに行く余裕などはない。
そんな中、また襲いかかってくる奈斗。
攻撃をなんとかかわすと、オレは奈斗の頬に思いきり拳を叩き込んだ。
刀を取り落として体制を崩した奈斗の体を掴んで、何度も背中を殴る。
奈斗に犯された、ハナとあみちゃんの怒りも込めて。
「うっ…あぁっ…」
「反省…しろっ…!」
オレはそれだけ言うと、勢いをつけて奈斗を突き放し、距離を置いて体を起こした奈斗に向けて突進力を加えた渾身の一発を見舞った。
力なく倒れ込んだ奈斗。
やっと終わった。
そう思った刹那、
「レン…後ろ…
スカイドラゴンがっ…」
「!…うあっ!!」
慌てて振り返ったが、遅かった。
翼で、攻撃をしてきたのだ。
あのとき…全部倒したはずだろ…?
動揺を隠せないオレなどおかまいなしに、腕や肩に噛み付いてくる。
あまりの痛みに、我を失って、叫びながら殴り飛ばしていた。
「痛てぇって…言ってんだろ!?」
ドガーン!!
あれほど強く肩に噛み付いていたスカイドラゴンが、一瞬にして吹っ飛ぶ。
え…?
何が起こったのか、すぐにはわからなかった。
気づけば着ている服のリングの部分が琥珀色に光り、腕や脚等の部分が筋肉がパンプアップしたかのように膨れ上がっていた。
「……この服…まさか…な…」
スカイドラゴンを殴り飛ばしたというのに、痛みすら感じなかった。
しかも…たった一撃であの距離まで飛ばせるなんて、普通ではありえないことだ。
そう、普通では。
この服には…何かある。
オレは、目にも止まらぬ速さでスカイドラゴンをめった打ちにした。
超人的な速度で繰り出される拳に、さすがのスカイドラゴンも身動きが出来ない様子だ。
いつもの速度で飛ぶことの出来ない彼らの翼を、刀を構えてなぎ払いながらその脇を走り抜けた。
手応えはバッチリだ。
翼を切断したといっていいほど、深い感触だった。
そうして、すべてのスカイドラゴンを倒した。
そう、思っていたが。
「うわぁぁぁっ!!」
誰かの叫び声が聞こえた。
見ると、スカイドラゴンが浅川の腕に噛みついていた。
まだ…いたのか。
オレに気付くと、こちらに顔を向けて鋭い顔で睨んできた。
「オレ…かよ…」
覚悟を決めた、その時だった。
スカイドラゴンは、オレがいる方向とは違う方に、光弾を放った。
「ぐあっ!!」
声と共に姿を見せたのは、帳 奈斗だった。
今まで…シールドで隠れていたのか。
それにしても…帳…肩に深い傷を負っている。
さっきの戦いのせいだろうか。
なおも光弾を放とうとするドラゴンの前に、俺は横合いから飛び出した。
「くっ…あぁっ…」
奈斗をかばったおかげで、腕と脚からは結構な量の血が流れ出ている。
「レン…」
「レンっ!!」
その様子を傍観していたハナたちも叫ぶ。
やるしかない。
傷は相当深かったが、オレがやるしかなかった。
全身に、力がみなぎってくる。
それに呼応するかのように、服のリングがまたも琥珀色に発光し、それに開いた傷口が収縮するように閉じ、出血を止めた。
急な出血で意識がもうろうとしかける中で、正気づかせておけるのなら、丁度良かった。
ふと見ると、近くに石が転がっていた。
ただの石…ではない。
魔導師にとっては、かなり重要な意味を持つ。
その石を力を込めて握ると、自分だけが持てる武器が出現するのだ。
出てきたのは、得体のしれない黒いハンドガンだった。
引き金に手をかけると、ガシャンと音がして、銃身がZ状に展開した。
ギョオーン。
銃らしくない作動音を響かせてから、少しの間を置いて、閃光と爆煙と共に、スカイドラゴンが大きくふっとんでおり、地面には大きなくぼみがあった。
スカイドラゴンは飛行できるため、押さえつけても意味がないのだ。
翼を何とかせねば。
しまった。
気付けば、スカイドラゴンに飲み込まれそうになっていたのである。
「……!!」
「うあーっ!!」
絶叫しながら、近くにあったオレのソードを拾い上げてドラゴンの翼に刀を突き立てていたのは、奈斗だった。
「うぁぁぁっ!!」
更に背後からも叫び声が聞こえ、奈斗に向かって浅川が銃を投げていた。
奈斗が撃った銃は、銃身がW状に変化し、光るワイヤーを打ち出す。
オレは奈斗を連れて、慌てて飛び退いた。
そのワイヤーはしっかりと地面に固定されている。
「奈斗…サンキューな?」
うなずきながら、再び片方の翼を斬りつける奈斗。
その間オレは、いつの間にか左手に出現していた石から長い銃身が特徴の銃と柄の短いハンドガンとを交互に乱射した。
パン。
音が響くと、スカイドラゴンが跡形もなく吹き飛んでいた。
「今度こそ…終わったか…」
「よくやったぞ。
…蓮太郎。」
その懐かしい声に、崖の上を見ると、真宵ちゃんの髪型、服装をした…親父がいた。
死んだはずの親父。
今、こうして話せるのは…これが…倉院流霊媒道のチカラ。
綾里家の女性にのみ…代々受け継がれる…
死者の霊を呼び出すことの出来る、能力。
身体は真宵ちゃんだけど、今は…オレの親父…
宝月 曹太郎。
「無事…立派なカガク捜査官になれたようだな。
犯人を殺さずに確保するその姿勢…素晴らしいぞ。
魔導の実力も相当上がったみたいだし。
……お前には…重大なことを2つ…伝えねばならん。まず…お前には…俺が残した宝月財閥の…全ての権限に与えることにする。」
「ちょっ…
ま…まさか…財閥…
って…
オレ…お坊っちゃまだったのぉ?
じゃあ…茜姉さんも巴姉さんも…お嬢様!?」
「…そういうことだ。
更に、もう1つ。
お前には…弟がいるぞ。
小学校4年生で、某アイドル事務所所属。
…宝月 良太郎
という名前だ。
おばあちゃんの家にいるから、会いにいったらどうだ?」
「アイドル…
ってことは…オレと同じかよ…」
「…まあな。
そうだ。
宝月財閥の財産は全て、お前の銀行口座に移されているが、むやみやたらに使うなよ。
お前に大体の判断は任せるが、どうしても使うべきか判断がつかないときは、また俺を呼び出してくれ。
……FBIのお前ならわかっていると思うが、財閥の後継者は命を狙われやすいから気を付けろよ?」
親父はそれだけ言って、ハナとミツに会釈すると、消えた。




