寂寥
家で一緒にお昼ご飯を食べて、オレは部屋に入った。
ちょっと、やることあるからね。
オレは、さっそく手元にあったメモ帳に、
自分の国際電話の番号を書いた。
「帰るつもり?」
「ああ。
明後日な。
…だから…母さんたちに頼んだんだよ。
『メイをよろしく』
って…
アイツ…ホントに寂しがり屋だから。」
あの日も…
そうだった。
あの…大雨の日の翌日…
朝からオレの家の電話が鳴ったんだ。
案の定メイからで…
大雨の中傘もささずに帰ったから風邪を引いたらしい…
39℃も熱あるっていうから…
ホントはかなり寂しがり屋なメイは、絶対1人で泣いてる。
「行ってあげたら?
…メイちゃんには…蓮太郎しかいないのよ?」
母さんの言葉に背中を押されて、オレは家を飛び出した。
「メイっ!!」
ふらふらで玄関の扉を開けるメイ。
それでもなお、2階に上がって家事を続けようとする。
「いいから、お前はこっちで寝てろって。
風邪さらに酷くなっても知らねぇよ?」
そう言って、メイを抱えてベッドに寝かせて…
部屋も暖めて飲み物用意して…
服も着替えさせた。
「あ…れ…?
服…自分で着替えたの?私…」
「オレが着替えさせたの!」
「えっ…///
変態っ!!
…嫌だっ…お嫁にいけない~泣」
枕を投げつけられた。
「痛てっ!!
ハダカは見てねぇよ!
タオルで隠しながらやったから安心しろって!!」
懐かしいな…
こんな初々しい会話したのが…
3年前…くらいか。
姉さんは、オレの国際電話の番号の下に、自分の携帯番号を書いた。
「ちょっ…姉さん?」
「メイちゃんにね、昨日も会ったの。
FBI本部の会議室で。
…だけど、昨日とは違って、真っ直ぐ、前を見据えた目をしていた。
…そんなメイちゃんを、見守っていきたいからね。」
「あ!
FBIで思い出した!
オレ、村西さんに電話してくるわっ!!」
そう言って、電話してみたが、村西さんは電話には出なかった。
昨日もバーの仕事だったみたいだし、疲れて寝ているのだろうか?
まさか…独身の村西さんが、思わぬ再会をしていたなんて…全く知らなかった。
「あら?
電話は?」
「村西さん、出なかったの。」
「あらら。
副業のほうでお疲れなんでしょ。
バーテンダーさんって、意外に疲れるのよ?
彼が作るカクテル、美味しいからね。
かなり根性いるのよ。」
「姉さん、行くんだ?」
「そ。
何か悩みが出来たときにはあのBar行くと、心のわだかまりが消えるの。」
「いつか、怜侍も連れて呑みに行きたいわ。」
「姉さん、そろそろいいんじゃないの?
ミツの兄さんとの結婚。」
「ちょっとっ…蓮太郎?」
「姉さんが長女なんだから、一番先でしょ?」
「そうだけどっ…」
そんな会話をしていると、電話が鳴った。
…村西さんからだ。
〈村西さんside〉
いつものように、Barの開店準備をしていた。
すると、遠藤から話しかけられた。
「村西。
お前がメイちゃんの家に泊まり込んでる間、お前と知り合いらしい女が呑みにきたぞ。
…確か名前は…
絢原 和音
だった気がする。」
「絢原…和音?」
そういえば、中学の頃好きだった女の親友だった…ような…?
噂をすれば…
「こんばんは。
…まだ…早いですか?」
「あ。
大丈夫ですよ。
…こちらにどうぞ。」
絢原 和音。
ずいぶん、久しぶりだ。
久しぶりに見る彼女は、中学生のときの清楚な雰囲気はそのままで、髪は茶色になっていて、
かなり大人っぽくなっていた。
「お久しぶり…ですね。
翔平さん。」
「そう…ですね。」
「まあ…私のことなんて覚えていないでしょうけど…」
「よく…存じ上げておりますよ。」
中学の修学旅行の話など、いろいろな話をした。
それと同時に…昔の気持ちを思い出す。
好きだった女より…和音に気持ちが向いていたこと。
閉店時間になると、酔ってしまったのか、椅子にもたれかかって眠ってしまっていた。
「ちょっと…寝かせてきますね?」
俺は、和音をお姫さま抱っこして、社員が仮眠に使う部屋のベッドに寝かせた。
ベッドに下ろそうとする手が…止まる。
「翔平…私は…好き…だよ…?
アイツは…もぉいいの。」
寝言…だよ…ね?
「あの子…
ずっと村西のこと…好きだったみたいでさ。
当時付き合っていた彼氏と村西を比べている自分がいたんだ…
って言ってた。
もう…卒業式の日のことは気にしていないらしい。」
「そっか…」
オレは…当時和音が付き合っていた男と友達だった。
和音が気になっている
ってソイツに伝えた直後…ソイツは和音と付き合った。
卒業式の日…
「翔平くん。
…あのさ、晋に…伝えてくれる?
卒業式が終わったら…駐輪場に来て
って言ってた
って…」
ラブラブでムカつくな…
ぶっ壊してやりてぇ。
ドサっ。
和音を教室の床に押し倒して、制服のブラウスに手をかける。
このまま強引に俺のものにすれば…
「サイテー!!
翔平くんがそんな人だとは思わなかったっ!!」
顔を真っ赤にしながら、そu
言った和音は、俺のもとから走り去っていった。
それがあってから、俺は和音と一切、連絡をとらなくなった。
今日…再会したのって…
運命…かな?
「様子…見に行って来たらどうだ?」
遠藤の声に、パタパタと和音の寝ている部屋に入る。
「え…ちょっ…和音///」
和音は、全裸で寝ていた。
そこへ、遠藤が駆け込んでくる。
「やっぱ、遅かったか…
この子、酔うと服脱いじゃうんだよな…汗」
ってか、それ知ってるってことは…遠藤も…
和音の裸見たのか?
許せん。
「あ~…ついでに、携帯鳴ってたぞ?」
「サンキュ。」
遠藤から携帯を受け取ると、電話に出る。
…レンからだった。
明日、日本に帰国するらしい。
「見つかったらしいな。
…犯人。」
『ええ。
逮捕したら、すぐこっちに身柄送りますよ。』
「何かあったら困るから、明日の午後の便で俺と遠藤も行くよ。」
『よろしくお願いします。』
ブチッ。
ツ~…ツ~…
通話が切れると、近くにあった酒を飲み干して、再び和音の寝ている部屋に行った。彼女の様子が気になったからだ。
ベッドの端で眠るつもりが、和音に予想外の力で引っ張られ、彼女の上に覆い被さる。
「えっ…」
だけどこうなった以上、俺も男だし、さっき呑んだ強めの酒の勢いもあって、2人で酔ったまま愛し合った。
目が覚めると、和音が謝ってきた。
どうやら、酔った勢いで俺の服まで脱がせてしまったと勘違いしたらしい。
俺も…つい…身体を重ねてしまったことを謝った。
「私は…嬉しかったよ?
後悔してたの。
…ずっと。
アイツ、ずっと私の身体目当てで付き合ってたみたい。
そのこと…何となく翔平は勘づいていたんじゃない?だからあの卒業式の日、私を少々ゴーインにでも奪おうとしてくれたんじゃない?」
「何で…分かった?」
「だてにね?
私もバーテンダー…やってないからね。」
「そぉいえば、女性バーテンダーがいるって噂、聞いたことあったな…」
「精神科医目指してたんだけどね…
試験に落ちちゃって。
ここなら、少しでも心理学で学んだこと、活かせるかなって。」
「あ!
ちょうど良かった!
俺ともう1人、明日の午後には日本に行っちゃうから…」
「期間限定で、ここのバーテンダーやってくれないか、でしょ?」
「さすが。
分かってるじゃん。」
「あ、ちゃんと…バイト代は上乗せするし…残業手当ても…ちゃんと払うからっ…!」
「別に…残業手当ては要らないよ?
翔平が…こうしてくれれば、だけど。」
そう言うが早いが和音は、俺の唇に自分のを重ねた。
「付き合えって?
…いいよ。
好きだったしね?
学生のときから。」
「あ、本業の職場に明日の午後に発つって言ってくるから、待ってて?」
「私も行く。
…だって、私も…翔平がいない3日前からここの心理学班だもん。」
マジで?
仕事中も一緒かよ…
だけどなんか嬉しいな。
頑張るか。色々と。
〈メイside〉
蓮太郎の家…久しぶりだなぁ。
「メイちゃん…?
ホントに…大丈夫だったの?」
きっと、手籠めにされたことだろう。
「ええ。
蓮太郎がすぐ…こっちに来てくれて。
ずっと一緒にいてくれましたから…」
「もう…あの子も…
親のことよりメイちゃんを優先するんだから…」
「え?」
そ…そうなの?
今…そんなこと初めて聞いたんだけど…
「あの日も…そうだったのよ?
メイちゃんが…高熱のしんどさに我が家の電話を鳴らしてきた日…」
思い出した。
…あの日の前日、裁判からの帰り、急にどしゃ降りの雨に降られて、ずぶ濡れで帰って来たのだった。
帰ってすぐにシャワーは浴びたのだが…
翌日、朝目覚めると身体が重く、だるかった。
起き上がる気など到底しなかったが、ベッドから離れた棚にある体温計を取って熱を測ってみると、39℃あった。
村西さんも仕事で忙しいだろうし、こぉいうとき、頼れるのは…
1人しか思い付かなかった。
その人の家に、電話をかける。
『メイか?
どうした?』
その聞き慣れた艶やかな声に、心から安堵感を覚えた。
「はぁっ…蓮太郎っ…家…来てっ…ハァ…熱…あるっぽくてっ…」
ほんの少し話しただけで荒くなる息を必死に抑えながら言った。
『声聞けば分かる。
…すぐ行くから寝てろよ?』
来てくれるか不安だった私は、ふらふらになりながら玄関近くまで行って、足音が聞こえたらすぐドアを開けた。
「寝とけって言ったろ?
バカが…」
困ったようにそう言いながらも、どこか嬉しそうな蓮太郎の表情が印象的だったことを今でもハッキリと思い出すことができる。
「あの日もね、電話切ってすぐ…『メイのとこ行ってくる』
って言って…泊まってくるも何も言わずに家を飛び出して行ったの。
…だから…フルーツの詰め合わせを届けに行ったのも…ついでに蓮太郎の様子を見に行くため、っていうのもあったの。」
そういえば、その日の夕方から必ず夕食にフルーツがつくようになった気が…
あれ…蓮太郎の両親からの差し入れだったの?
「その節は、お世話になりましたっ…」
ペコリと頭を下げる。
「いいのよ。
…早く良くなって良かったわ。
蓮太郎がメイちゃんにあの日淫らなことしなかったかってことだけが心配だったけど。」
あの日は…問題ない。
口移しで薬飲ませてくれたり、服着替えさせてくれたりしただけだし、そのときもタオル掛けながらやったから裸は見てないっていうし…
だけど…昨日…その"淫らなコト"をしたことは、今は言ってはいけないと思ったから、言わなかった。
「今日だって…ビックリしたわよ。
帰ってきたなら連絡の一本でもよこしてもいいじゃない?
いきなりドア開けたらいるんだもの。
まあ、巴から国内にいるっぽいとは聞いてたから良かったけど…」
「すみません。
私からも…よく言っておきますから…」
そんな話をしているうちに、蓮太郎と巴さんが下りてきた。
良かった。
仲直りできたみたい。
「あ…じゃあ…メイを…よろしくお願いしますっ…」
「お世話になりますっ…
今日は…これで失礼しますっ…」
それだけ言って、蓮太郎と私は彼の家に戻った。
なんか…あっけなかったなぁ…
私…蓮太郎が日本に帰ってからは彼の義理の両親の家にお世話になるからね。
「そんな…改まってお願いしなくてもいいのよ?
ここはあなたの第2の家なんだから…」
って言われて…
かなり安心だった。
蓮太郎の夕食を食べられるのもとりあえず今日が最後だから、味わって食べた。
「ちゃんとこの味…覚えておくからね?」
「サンキューな?」
そぉ言うと、蓮太郎は1枚の小さな紙を差し出してきた。
「オレの…国際電話の番号。
これで…寂しくないだろ?
下のやつは巴姉さんのやつ。
姉さんも…いずれは日本に帰るみたいだけどね。」
「ありがとっ…」
蓮太郎が部屋にこもって誰かと電話している間にお風呂に入って…
今日は…いつもよりかなり早い22時に寝た。
といっても…なかなか寝つけなかったから…
わがままを言って…蓮太郎に手を握ってもらってたんだよね…
そうすると…よく眠れた。
翌朝の4時。
眠い目をこすりながら…村西さんの車に乗り込んだ。
もうすぐで…蓮太郎とも…
お別れなんだ。
寂しいなぁ…
車内では、泣いちゃいけない。
泣きそうになるのを何度も堪えた。
〈レンside〉
朝4時。
空港のゲート前にはFBIの村西さんと遠藤さん。そして義理の両親とメイ。
時間がないからと,みんなまとめて村西さんに車で送ってもらった。
オレも実は車の運転ぐらいはできる。
アメリカでは16歳から運転免許を取れるからだ。なのに出番がなくてちょっとがっかり…
「25分発成田空港行きの便にしておいたから、あと10分弱ってところだ。」
村西さんが搭乗手続きを済ませておいてくれたみたいだ。
それにしても、しばらく会えないというのにみんな口々に交わす言葉が少ない。
もしかして、メイと話す時間を少しでも多くするためにそうしてくれたのかな…
「蓮太郎っ…!」
メイはそう言いながらオレに抱き着いてきた。
「お願い…絶対あの花火大会の日までに帰って来るって…約束してっ!」
オレは迷わずメイを強く抱きしめた。
「約束するよ……あと、全て終わったらずっとメイのそばにいるってことも。」
「蓮太郎!もうすぐよ!!」
母さんの声。
それを無視して、抱き締める手を緩めることなく、メイにキスをした。
しばらくメイに会えないから、彼女の全てを脳裏に焼き付けておきたかったんだ。
オレは唇を離して、そのままメイの耳元である言葉をささやく。
すると、空港内にアナウンスが響いた。
《まもなく4時25分発303便日本行きの,搭乗を開始します...》
オレはメイに小さく「じゃあな。頑張れよ。」とだけ言って,みんなの顔を見渡してVサインをした後,ゲートに入った。
〈メイside〉
みんな、蓮太郎が乗った飛行機が見えなくなるまで見送っていた。
だから、気付かなかった。私の携帯が震えていたことに。
メールだ。
しかも蓮太郎から。
私は,アナウンスの前に彼が早口でささやいた言葉が気になっていた。
突然のキスに驚いていたから、聞く余裕なんてなかった。
彼が私の名前を言ったのは覚えてるんだけど……
そんなことを思いながら、携帯を開く。
《好きだよ》
そのメールには、こう書かれていた。
《メイ,好きだよ》
これが、蓮太郎がささやいた言葉。
「メイちゃん、寂しくない?」
蓮太郎のお母さんがそう聞いてきた。
「……寂しくないです。約束してくれましたから。絶対帰って来るって。」
それに、あたしにはこの言葉がある。だから、頑張るよ。
〈メイside〉
みんな、蓮太郎が乗った飛行機が見えなくなるまで見送っていた。
だから、気付かなかった。私の携帯が震えていたことに。
メールだ。
しかも蓮太郎から。
私は,アナウンスの前に彼が早口でささやいた言葉が気になっていた。
突然のキスに驚いていたから、聞く余裕なんてなかった。
彼が私の名前を言ったのは覚えてるんだけど……
そんなことを思いながら、携帯を開く。
《好きだよ》
そのメールには,こう書かれていた。
《メイ、好きだよ》
これが、蓮太郎がささやいた言葉。
「メイちゃん、寂しくない?」
蓮太郎のお母さんがそう聞いてきた。
「……寂しくないです。約束してくれましたから。絶対帰って来るって。」
それに、あたしにはこの言葉がある。だから,頑張るよ。




