緊急渡米
〈レンside〉
"今日は予想外のことが起こるかも!
焦らず、冷静に対処してね☆"
今日のいて座の占いは、こんな結果だった。
日本史Bの授業が終わって教室に戻って、しきりに点滅している携帯のランプを見たとき、何か胸騒ぎがして…
なかなか通話ボタンが押せなかった。
…そして、この電話でオレは、占いが当たったことを確信したんだ。
『レンっ!!
…いいか、落ち着いて聞け…メイが…
2人の男に…
手籠めにされた…』
「なんだって……!
アイツに限ってまさかっ…!?」
『……俺が保護したのは、午後17時45分。
命に別状はないが、身体全体にアザが出来てる。
なるべく早く…
来てくれるか?』
「……ッ…ハイ…。」
オレが…"はい。…宝月ですけど…"
と言うのも遮って聞かされたのは、あまりに衝撃的な言葉で…
最後の返事も…上手く言えていたかどうかわからない。
覚えているのは…
最初のオレの第1声以来、声わ出したくてもなかなか声が出なかったこと…だけだ。
…事件は、オレが今日、学校に行こうと家を出た時間に、メイの住んでいるN・Yで起こったワケか。
「………っ!!」
オレは勢いよく電話を切ると、何も持たずに、教室を飛び出した。
…だが。
「……どこ行くつもり?
私とミツに何も言わないでアメリカ行くとか…もう許さないからね?」
この2人なら…きっとオレと同じ思いをしたはず。
手短に電話の内容を話すと、温かく見送ってくれた。
急いで駐輪場に停めてある折り畳み式自転車を走らせたが、重大なことに気付いた。
…パスポートやアメリカのドル紙幣の束やらが入ったカバン…
留学生用寮にある空き部屋の中に置きっぱなしだっ…
やべっ…
ハナやミツに連絡を…
と思ったが、何と充電が切れていた。
充電機も…あのカバンの中なんだよな…
…あのカバンがないとオレ…
メイに会いに行くことすら出来ない。
しばらく自転車のハンドルを握ることすらままならなかった。
ただ…
そうだ!!
オレら…
ブローチ持ってんじゃん!
テレパシー機能付きの!
オレ、天才かも笑
〈ハナside〉
レンから…レンの好きな人、
メイちゃんが、手籠めにされたって聞いて。
私も…経験したから分かる。
…かなり苦痛だった。
…精神的にも…肉体的にも…。
早く…レンが言ってあげなきゃダメじゃんっ!!
「行くんだよね?
…気を付けて!
…先生には言っておくから…さ。」
…レンを送り出してしばらくして、私のブローチが光った。
"ハナ?
オレ。レン。
…あのさ、留学生用寮の401号室にオレのカバン置きっぱだから、悪いけど持って来てもらえる?
パスポートとかも全部…その中だから。"
「分かった。…ちょっと待ってて?
…真宵ちゃん。
先生に授業遅れるかもって言っておいて?」
「うんっ!!」
…教室のドアを開けると、そこは留学生寮の401号室前。
…これが、最近修行して身に付けた"空間移動"。
周りの人の目には"人間"が瞬間移動したかのように見えるけど、
実際には"空間"が移動しただけなの。
場所を思い浮かべるだけで出来るから、便利なんだよね。
魔導でカギを開けて、レンのカバンを持ってみるけど…
重っ!!
「ったく…何してんだよ… カバンはオレが運ぶから、ハナはカギ閉めたら先に教室戻ってな?」
「ありがとう。」
ミツは学校からここまでチャリで来たらしい。
私は、駐輪場を経由して学校の昇降口に向かった。
〈ミツside〉
"ミツ?
悪いけど、留学生用寮の401号室にパスポートやらいろんなのが入ったカバンあるから…持ってきてもらえる?
ハナ一人じゃかなり重いよ!?
オレ…いつも通ってる途中にある家電量販店の駐車場にいるからっ!!"
ったく…仕方ねぇな…レンのやつ…
オレは急いで駐輪場からチャリを引っ張り出して、寮の入口へと走らせた。
…すると、想像以上のカバンの重さに半泣き寸前のハナが。
「ったく…
何してんだよ…
これはオレが届けるから、ハナはカギ閉めたら先に教室戻ってな?」
そぉ言い残して、カバンを肩に担ぐと、チャリを全速力で漕いだ。
…すると、信号の向こう側で自転車にまたがったまま宙を仰いでいるレンの姿を発見。
間の信号が変わるのを待つことすらもどかしくて、レンの名前を叫びながら、自転車の…シュッ。
風の音かと思った。
風が、あのカバンをレンの元へ届けてくれたんだろうか。
風ではなかった。
近くにいたらしいキジバトが、宙を舞うカバンをくわえて、レンの元へと届けてくれたのだった。
こんなことができるの…ハナしかいないな。
ってか、このキジバト、さっき学校の駐輪場の木に止まってた…
それにしては、羽の先が不自然に折れ曲がっている気がするが、気のせいか?
キジバトと共に、急いで学校の駐輪場に向かい、チャリを置いて教室に戻ると、ちょうどハナが帰ってきたところだった。
休み時間はとっくに過ぎている…はずだが、授業が始まっている様子はない。
また現代文の藤野先生、時間を間違えてるな?
数分後、先生はごめん、を連発しながら教室に入ってきた。かごの中にあるカバンを持ち主に向かって投げた。
〈レンside〉
ミツからカバンを受け取ったオレは、再び自転車にまたがった。
と、そこに一台の車が。
運転席にいたのは、室長だった。
「室長!?
どうしてここに?」
「ん?
レンを探してたんだよ。
…偉いな。あのキジバト。いきなり俺の車のフロントガラスにぶつかってきてさ。
だけど、どっかを目指して必死に飛んでるから、それを追いかけていったってワケ。
さ、早く乗れ。
チャリで空港まで行ってたら、夜が明けちまうよ。」
「…ありがとうございます。」
大体の事情は、村西さんから聞いているらしい。
村西さんっていうのは、
フルネーム、何だっけ?
思い出した。
村西 翔平。
オレと同じくFBIの人で、英語ペラペラだから、アメリカにいる間、かなりお世話になっていた人。
空港に着いてゲートに向かうと、晋藤さんの姿が。
「レン、搭乗手続きは俺が済ませておいたから、早く乗れ。」
「あ…ありがとうございます…」
もしかして…晋藤さんが操縦するのかな?
と思ったが、晋藤さんは副操縦士で、操縦士は、南 洋平さん。…明日香さんの義理の父親だ。
飛行機内では、機内食にはほとんど手を付けず、iPodで音楽を聴きながら寝ていた。
何とか無事に空港に着くと、村西さんから電話がかかる。
…彼によると、自分と2人、メイの家にいて、メイを助けたのも村西さんらしい。
オレは、カバンの中にしまってあった折り畳み自転車を広げて、メイの家へと急いだ。




