遠回り
〈柏木 康一郎side〉
…俺は今、電車内にいる。
……志穂との、思い出の場所である海に向かうために。
志穂に会ったら、何て言おう?
それだけをただひたすら考えていた。
最後の車両にある車掌室付近に立っていた俺のもとに、一緒に試験を受けたときからの親友、時等が駆け込んできた。
今日の運転士、お前だったのか…
「どうした?
何かあったか?」
「柏木さん!
たまたまあなたが乗ってくれてて助かりました!
実は…電車内で乗客が揉めていて…」
どうやらその乗客は、優先席付近で携帯電話で通話した人に対して
「マナー違反」
だと注意して、逆ギレされたらしい。
随分なことをしてくれたもんだな…
俺の知っている中で、堂々とマナー違反を注意できるようなヤツは、1人しかいねぇよ。
…志穂!
待ってろよ?
すぐ…助けに行くから。
全速力で、事件が起きている6号車両へ向かう。
…2人の男に胸ぐらを掴まれている志穂を発見。
胸元が広く空いた服なんか着てるから、中、モロ見えじゃん。
しかも、もう1人の男が、志穂のミニスカの中を携帯のカメラで撮影していた。…許さねぇ。
「あの…すみません…」
近くにいた一眼レフカメラを首から下げた青年が、俺に小声で話し掛けてきた。
「さっきの、痴漢行為の写真、偶然、カメラに収めたんですけど、
何かに使えるでしょうか?」
2人の男とカメラを見比べて、ある策を思い付く。
「ありがとう。
…ちょっとそのカメラ、貸してもらえるかな?」
俺はその青年からカメラを受け取ると、志穂をかばうようにして2人の男に近づいた。
「…おい!
何やってんだよ!
…俺の女なんだけど?
何か用かよ。」
志穂がかすれた声で俺の名前を呼ぶのも気にせずに続ける。
「キサマら、コイツの服の中見たよな?
しかも、スカートの中撮影したよな?
その携帯のカメラで。
今すぐわいせつと公務執行妨害の罪で警察に連れて行ってやってもいいんだぞ?」
「なんだ、うぜぇな!!
部外者は黙ってろっ!」
「んな大口叩いていられるのも今のうちだぞ?
俺が今持ってるカメラに、キサマらのわいせつの瞬間の写真が入ってんだよ。
なんなら、この写真をキサマらの会社に送り付けてやろうか?
アネサイトビル本社
"フジノモト"と"日京電力"商社に。」
2人の男の顔が青ざめるのと同時に、乗客のざわめきが大きくなった。
この男たちの勤めている会社は、日本国内でかなら高い売上業績を誇っている会社だ。
その会社の社員がこんなことをしたとなれば、
当然、
信用も評判も株も下がるだろう。
「それがイヤなら、大人しくここで駅員と一緒に警察を待つんだな。」
時等に頼んで近くの駅に緊急停車して、
警察に身柄を引き渡す。
志穂もどうやら、事情聴取を受けるみたいだ。
「うわっ!
だ…大丈夫?」
警察署に向かう途中、志穂がホームにへたり込んだ。
よっぽど…怖かったんだな…
「志穂、大丈夫だよ?
俺がついてるからね?」
〈柊 志穂side〉
「ASU・USA」のスタッフとして、ミシン会社の社員、南 明日香さんとプロデュース作品について話をする。
話を終えた後に、"ある人"との思い出の海に行こうとしたら…
「あの…柏木 康一郎さんって…ご存知ですか?」
こう聞かれた。
知ってるに…決まってる。
あたしが…ずっと密かに…想いを寄せている人だもの…
「思い出の海…行かれるんですか?
"彼"に会いに。」
「ええ…
だけど…不安なんです。
…彼にあんなにヒドいことを言ったあたしのこと、受け入れてくれるかどうか…」
何でだろ…
この人の…
明日香さんの前と弱音も吐ける。
普段は全然言わないのに…
きっと…
明日香さんの雰囲気がそうさせるんだと思う。
あたしらしく、前向きに自信を持って行ってくればいいって…
言ってくれたし…
なんか、勇気出てきた!!
さっそく、思い出の海に行くために電車に乗り込んだはいいけど…
電車内でマナー違反発見!
だって、優先席付近で携帯使って話してるって…
ありえないでしょ。
あたしこぉいうの、許せないタチだから。
「……ちょっと!
何、優先席付近なのに携帯で通話してるのよ!
優先席付近では電源、切るように
っていうアナウンス、あったでしょ?」
「…あ?
なんだテメー!
学級委員かよ!
説教してんじゃね~っ!!」
「きゃあっ!!」
強く胸ぐらを掴まれて、スカートの中を撮影された。
何コレ…
思いっきり、痴漢じゃない…っ!
怖い…助けてっ!!
「おい。
何やってんだよ。
…俺の女なんだけど?
何か用かよ。」
聞き覚えのある低い艶やかな声。
康一郎…!
って言ったつもりが、声になっていなかった。
康一郎はカッコ良くあたしを助けてくれて、事情聴取のあいだもずっと、横で手を握ってくれていた。
2人の思い出の海に着いて、あの時、冷たい言い方をしちゃったこと、責めたりもしないで、快く許してくれた。
大学時代に付き合ってた彼氏と別れたことも言って、康一郎に気持ちを伝えた。
「さっき…カッコ良かったよ?
ありがとう…
康一郎…大好きっ!」
正義感強いとこだけは変わってないって言ってくれて嬉しかった。
「志穂?
ずいぶん…遠回りしたけど…俺と付き合ってくれますか?」
なんて~改まって言う康一郎がなんか可愛くて…
顔真っ赤なんだもん(笑)
ちゅっ…
返事の代わりに、康一郎とあたしの唇を軽く重ねた。
その後、康一郎もお返しにキスしてきてくれた。
ずっと…ずーっと一緒にいてね?
康一郎…大好きだよ…




