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ボーダー  作者: きぃ
変化
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21/46

規則

〈柏木 康一郎side〉


日本に帰って、エージェントルームに一度戻る。


「休んでな?

明日香…時差ボケひどいだろ?」


そう明日香に伝えて、俺は室長のみが入室を許されている部屋に入った。


しばらく社員たちのレポートに目を通していると、明日香からメール。


"時差ボケはもう直りました!

室長は大丈夫ですか?

もしよろしければ、室長もご一緒に昼食、いかがですか?"


って…


時差ボケ、直るの早いなぁ…

まぁ俺も、直らなきゃ困るんだけど。

午後から久しぶりに…

行く場所があるからね。


"じゃあ、外で待ち合わせしようか。"


そう返信して、行く準備をして、部屋を出た。


エージェントルームから出ると、すでに明日香が待っていた。


最近出来たばかりのイタリアンの店に入る。


「室長、先に選んでいいですよ♪」


明日香は本当に礼儀正しい。

エージェントルーム内では絶対に"室長"って呼ぶ。

兄妹って分かった今でも。プライベートと仕事の線引きをしっかりやる女なんだよな。


「……エージェントルーム内ではいいけど、せめてプライベートの時間だけはさ?

"康一郎"とか…"お兄ちゃん"付きで呼ばない?」


「うん…そぉだね…お兄ちゃん。」


明日香、可愛すぎる…


徹がホレたワケ、分かる気がするな…


料理を口にしながら、真剣な目で尋ねてくる。


「…ずっとずっと、気になってたの。

…何で、

"エージェントルームの社員同士は恋愛禁止"

っていう規則があるの?」

…まさか、ここでこんなことを聞かれるとは思わなかった。


「明日香には…関係ないよ…」


「何言ってるの!?

関係あるよ!

私の…お兄ちゃんのことだもん!!

私はお兄ちゃんの妹なんだから…教えてくれるよね?」


「明日香には…教えておくかな。」



「俺が大学上がった頃に、俺は好きな女と大学離れ離れになってさ…

しばらく会わない間にその子…

違う男と付き合ってて…

大学まで辞めててさ。

もう…会えないかと思ってたんだけど…ね?

数年前にあった同窓会の帰りに思い出の場所で会えたの。

だけど…

『あなたと…康一郎とは今は付き合うとか…

考えてないから。』

って冷たく言われたの。


聞いた話、そいつ…俺は前から教師目指してたこと知ってたんだけど、教育実習に行ったとき生徒や先生からイジメられてたんだって。

陰口言われたりね。


まあ、そいつ、柊 志穂(ひいらぎしほ)

っていうんだけど、かなり正義感強くて、ダメなものはダメってハッキリ言うやつだったからね。

…そぉいうとこ、俺は好きなんだけど…さ。

…しかも、当時付き合った男に散々振り回されたって聞いて…

付き合ったら皆…こんな思いするのかな…って…

少なからず思って。

…だったら…皆を悲しい目には遭わせたくないから…だよ。」


一通り、過去を話した後、明日香が泣いてた。


「ヒドい…

可哀想…だよ…

お兄ちゃんも…その…志穂さんって人も…

私がいたら…ゼッタイ力になるのに…」


自分のことのように、涙ながらに言う明日香。

いい妹持ったな…俺。


「過去の話だよ。

…もう…関係な…「あるよっ!!」


俺の言葉を強い口調で遮る明日香。


「また…そんなこと言ってっ!!

…見てれば…分かるよ?

お兄ちゃん…まだ好きでしょ?

志穂さんのこと。


だから週に1回、思い出の海に行ってるんでしょ?」

「な…何で分かった?

明日香…」


今までの会話に…海なんて単語出て来なかったはずなのに…


「必ず…週に1回、お兄ちゃんがエージェントルームに来ると、お兄ちゃんの身体から潮の香りがするから…

それでピン!

ときたの。」


我が妹ながら…

すごい観察力だな…


女ってスゴ…

昼食を食べ終わると、明日香の携帯が鳴る。


しばらく丁寧な口調で受け答えていた明日香は、電話を切った。


「……ごめん、お兄ちゃん…。

仕事、入っちゃった。


…ちょっと、行くね。」


明日香はそぉ言って、自分のお金をテーブルの上に置いて、店を出る。


「あ…明日香!

…いいよ。

…話聞いてくれたお礼に俺が払っておくから、後で返す。

…行ってらっしゃい。」


「…ありがとう。」


忙しそうだよな…

明日香。


明日香の副業、ミシン会社の社員なんだけど、最近、オリジナルの洋服ブランドも手がけているみたいだし…

スタイリストの仕事のオファーもたまにあるみたいだし…


まあ、本人が楽しそうだからいいんだけど。


俺?


俺の副業は…電車の車掌…だよ?


…オレも…また後で思い出の場所…行こっ。


明日香に話を聞いてもらって分かった。


…逃げてばかりじゃ…

何も解決しないって。


初めて聞いた、室長…じゃなかった、康兄ちゃんの過去。

…それに、エージェントルームの規則の秘密。

"恋愛させると誰かが悲しい目に遭うからそれは避けたい"

って…

分かるよ?


お兄ちゃんも…


その相手の人もツラい思いしてるってことも…


だけど…お兄ちゃんは逃げてるだけだよ…


現に、私も徹も社員同士、恋愛してるけど、幸せだよ?


きっと…ハナちゃんとミツくんも…

同じだと思う。


何とか…してあげたいな…お兄ちゃんの恋。


それに、私…信じてるからね?


お兄ちゃんの恋が成就すれば、エージェントルームの規則もなくなる…って。


……仕事場に行く途中も、着いてからも、そんなことを考えていた。


……ダメだっ!!


いつまでも考えこんでちゃ!


今日はこれから…私が手がける洋服ブランド

「ASU・USA」

のスタッフとの打ち合わせなんだからっ!

打ち合わせの担当者の人が丁寧に名刺を渡して挨拶してきた。


「"ASU・USA"スタッフの柊 志穂です。

…よろしくお願いします。」


「"イトール"で企画開発・営業を担当する南 明日香です。

…こちらこそ、よろしくお願いします。」


お互いの自己紹介をしてから、手がける製品の詳細を決める。

私がプロデュースするのは、キャミソールと、フレアロングスカート。

プロデュースといっても、布地の色や生地を自分流に変えるだけ

っていう感じなんだけど。

さすが、スタッフだけあって、話を進めるのが上手い。

私が案を出しても、脚下のものはハッキリ言ってくる。

…そぉいうところは、お兄ちゃんに似てるかも。


「あ…あの…柊 志穂さんですよね?

いきなりですけど、

柏木 康一郎って人…ご存じですか?」


「…康一郎のこと…知ってるんですね。

…あたし、彼の精一杯の優しさを踏みにじるような、ヒドいことを言ってしまって…

だから…会いたいけど…勇気がなくて…

彼…もう、あたしのこと…キライなんだろぉなって、思ったら…

でも、週に2回、彼とよく話した思い出の海に行ってるんです。

そぉしたら…もしかしたら…会えるかもしれないって…思って。」


「…きっと…会えますよ。 …これから、その場所…行かれるんですか?

その…"彼"に会いに。」


…すぐに分かる。

すごく…海が似合う格好をしているから。


セレブのバカンスって感じの、ふわふわベストにベアトップにミニスカ。


アクセ代わりに付けたサングラスが、とても印象的だ。

ふわふわベストを着ていても暑苦しい印象を与えないのは、彼女のサバサバしたオーラのせいだと思う。

「……やっぱり、不安なんです…

…あんなにヒドい、冷たい言い方したあたしのこと…ちゃんと受け入れてくれるかどうか…」



うつむきがちにそぉ言う彼女に、どこか、私と似た雰囲気を感じた。


気のせいかな?


…だけど、そんなことを言うのは、彼女らしくないと思った。



「志穂さんらしくないですよ!

そんなこと言うの…

いつでも、真っ直ぐ前を向いて明るくしている志穂さんが…

私は好きです。

…もちろん、彼もだと思いますよ。

…だから、自信を持って、行ってきて下さい!」


「……ありがとう!

…また、何かあったら連絡しますね!」




"柊 志穂"


って聞いて、お兄ちゃんの好きな人だなって…

すぐ分かった。


余計なお世話だったかな?

……でも、私には…


こぉいうことしかできないから。


あとは、志穂さんと、お兄ちゃんの頑張り次第だよ。



頑張って!!


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