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ボーダー  作者: きぃ
変化
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19/46

理由

〈レンside〉



それから…2ヶ月。


街には、色とりどりのイルミネーションが光輝く時期になっていた。


でも、オレはそれどころじゃなかった。




ー2ヶ月前



……インキャンのホテルを出た矢先にかかってきた電話。


なぜか晋藤さんからで。


1時間ほど前、成田空港行きのバスにメイが乗るのを見たらしい。


メイっていうのは、別にオレの彼女ではないよ?


今はまだ…ね?


アメリカで知り合って、家も何かと近くて、色々助けてもらってた女友達。


自由の国アメリカで、13歳で検事になった。



メイ、日本に来てたのか…

って…すぐ帰るって…どぉいうことだよ。


寂しがり屋なメイのことだから、すぐオレに会いに来るとばかり思ってた。


だったらこっちから…会いに行ってやる。


「晋藤さん…すぐ、ヘリ出せますか?

……悪い、皆。

先…帰ってて?」


オレはそぉ言って電話を片手に、ホテルの入り口まで走った。

このホテル…確かヘリポート、あったよな…


オレが着いた頃には、すでにヘリがあって。

そのままなるべく急いで、空港に向かった。


簡易ヘリポートで降りて、晋藤さんの声もフルシカトで空港内を走る。


「はぁっ…はぁっ…」


メイのやつ、どこにいんだよ…


晋藤さんに頼んで出国記録、調べてもらったけど、まだ出てないっていうし…



…………いた。



ライトグレーだけど、光が当たる場所ではソーダ味のアイスみたいな水色に見えるショートの髪の毛。


法廷のときはいつも着てる、黒のワンピース。


真ん中にターコイズを模した青のボタン、それを囲む形になっている黄色いライン。

襟にフリルのついたブラウス。


やっぱりメイだ。


……だけど、いつも季節を問わずナマ脚なのに、今日だけはタイツだった。


「何やってんだよ」

って肩に置きかけた手が止まる。


……メイ?


まさか…泣いて…る?


…何なんだよ。


裁判で負けたからって…泣くヤツじゃないことは、オレが一番知ってる。


「…来ると思ったわ、宝月 蓮太郎。」


「泣きながら言われても、説得力ねぇな。

…業 (かるまめい)。」


法廷じゃ気ぃ強いけど、普段は涙もろくて寂しがり屋なヤツなんだよな。


そこが……オレは好き。


「何か…あった?」


泣いてるメイを見たくなくて、そっと抱きしめる。


「アメリカで…いろいろあってね…ちょっと帰る気がしないだけ。」


「電話…してきていいからね?

いつでも。

なんなら、そっち行くしさ。」


そぉ言って、さらに抱きしめる力を強める。


しばらくオレの胸で泣いてたメイ。


相変わらず…素直じゃないヤツ。


って…思ってたら…


「痛っ!」


メイのムチがオレの腕に当たったのだ。


「蓮太郎…痛いわ。」


「だからって、ムチで叩くなっ!

約束しただろ?

ムチ使うのは法廷だけって…」


手元が狂ったらしいメイだが、今ので自分にも当たったみたいだ。

タイツが伝線したことにも気付いていないっぽい。


…だけど、普段のメイなら、ムチを自分に当てることはないはず…


…今日のメイは、何か違う。

……?


メイ、脚にアザできてる?

伝線したタイツからほんの少し透けて見える肌に、青紫色のものが…


「やっぱ、何かあったんだろ?メイ。

脚にアザできてる。」


「……っ!!

ア…アメリカで…いろいろあったって言ったでしょ?…蓮太郎には、関係ないことだから。


…そろそろ出国の時間だから、行くわね?


日本を発つ前に会えて、ほんの少し、嬉しかったわ。」



……オレにそぉ言い残して、ゲートに向かったメイ。

またしばらく、会えないのか…。


メイの乗った飛行機が無事に離陸したのを確認して、オレもヘリポートに戻って、空港から自宅に帰ったのだった。


メイ…。


あの日からもう、約2ヶ月も経つのに…

会いたくて仕方ねぇよ…


しかも、全く音沙汰ないし…


あのアザ…


脚全体にあった気がするんだよね。


何だったんだよ…一体…


「脚…アザできてるけど…どぉしたの?」



ってメイに聞いたときの過剰な反応から見ても…何かあったとしか思えない。



オレ…今すぐにでも行こうと思えばアメリカ行けるんだけど。


「FBIから緊急の連絡があった」


って言えば、その期間の全ての授業は公決扱いにかなる。


……だけどなんか、行く勇気なくて。


このとき無理やりにでもアメリカに行っていれば…


良かったのに。



オレもメイも…あんなツラい思いしないで済んだ。


行かなかったオレは…バカだったよ。

〈メイside〉


……あの日、2ヶ月前…


アメリカになんか帰りたくなかった。

検事の都合が急につかなくなったからって、代理で呼ばれて、日本に来た。


父も…検事だった。


……父は常に、

「カンペキな勝利」

を求めた。


「被告人を全て有罪にする」

がモットーで、証言の操作から証拠品の捏造まで…そのためならば何でもした。

私も、今回、自分に不利な証言はさせないようにした。


一応…裁判には勝ったけど…何か、後味悪くて…

こんな勝ち方しても、全然嬉しくないし、最近、

「カンペキな勝利」

だけが全てじゃない気もしてるし…


気持ちが揺らいだまま帰りたくもない。


…それに…私、日本に行く直前に、彼氏に暴力振るわれたのよね。


「日本行ってくるわ」


って言ったら…


「ふざけるな」


ってキレられて…脚全体にアザができるくらい殴られて。

仕方なく、タイツ履いて隠して日本へ行った。


また暴力振るわれるのかな…帰ったら。


だけど、アメリカでの法廷も控えてるし、帰らなきゃいけない。


でも…もぉ…イヤだ。


気付いたら、頬に涙が流れてた。


裁判に負けたワケでもないのに…


こんなとき…きっと…


宝月蓮太郎なら…


「大丈夫?」


って…




言ってくれるんだろう。

「会いたい…」


この涙の理由に、彼に会えないことも…きっと含まれてる。

背後に…誰かの気配。

肩に手を置きかけて止める。

私が泣いてること…多分気付いたんだよね?


気付くの…宝月蓮太郎だけよ。


「来ると思ったわ、宝月蓮太郎。」


「泣きながら言われても、説得力ねぇな。

…業 冥。」


やっぱり…気付いてた。


「何か…あった?」


そぉ言って、優しく抱きしめてくる。

蓮太郎は、心から私を心配してくれてるって…

伝わってくる。


だけど…アメリカにいるアイツは、そんな気持ちなんて一欠片もない。

ただ…私の身体目当てなだけよ。


束縛して…無理やり抱いて…

暴力振るって…


私のことなんて…モノ扱いよね。


ツラいよ…アイツといると。


蓮太郎に、暴力を振るわれていることや、検事の存在意義がわからなくなっていることをこの際、

この場で打ち明けようかとも思った。


…だけど…やめた。


蓮太郎には、日本でのびのびと暮らしていてほしいから。


…私なんかのことで、心配をかけたくなかったから。

「アメリカで…ちょっといろいろあってね…

帰る気がしないだけよ。」


"ちょっと"

じゃない。


何回も…アイツにヒドイことされた。


日本の検事局で

「さすが"40年間無敗の検事、業 豪"の娘だ…

法廷での手口も蛙の子は蛙だ」


って…悪く言われていることも知ってる。


私は…父なんかじゃなく、御剣検事とか、宝月 巴主席検事みたいな検事になりたいのに…


この気持ち…気付いてよ…

蓮太郎…



「電話…してきていいからね?

何かあれば…オレもそっち行くし。」


私に何かあったことがもうすでに分かってるような…そんなニュアンスがこもっている言い方で…

ちょっとムカついた。


しかもだんだん抱きしめる腕の力…強くなってない?

ぶっちゃけ、身体全体にあるアザもまだ完全に消えてないから、ちょっと痛いんだけど……


「…痛いわ、蓮太郎。」


そぉ言って、手に持っていたムチで蓮太郎を軽く叩く。


結構な至近距離で叩いたから、自分の脚にも当たってしまった。


「だからって…ムチで叩くなっ!

大体、ムチを使うのは法廷だけって…約束しただろ?」


「…メイ、やっぱり何かあったんだろ?

……脚にアザできてる。」

え…?


な…何で知ってるの?


脚にアザあること。


バレないように、タイツ履いて隠してるのに…


「…っ!!

アメリカで…いろいろあったって…言ったでしょ?

蓮太郎には…関係のないことだから。

…そろそろ出国の時間だから、行くわね?

日本を発つ前に会えて、ほんの少し、嬉しかったわ。」


…こんなこと言ったら、また素直じゃない

って…

思われるのかな。


ほんの少しだなんて嘘。


かなり嬉しかった。


久しぶりに私服姿の蓮太郎見れて、

カッコいいって…


本気で思った。

蓮太郎に逃げれば、

ゼッタイ今よりも格段に幸せになれる。


彼は…私の過去の境遇も、不幸も…

全部知ってるから。


だけど…もう少しだけ、頑張ってみる。


耐えられなくなったら、電話するよ。


アメリカ帰っても、相談相手がいないワケじゃないし、何とかなるはず。


蓮太郎の同僚の村西さんに、遠藤さんに…


蓮太郎の義理の両親だっている。


どぉしても耐えられなかったらの話だからね?


蓮太郎に相談するのは。


でも…


私、この時はバカだったの。


法廷では「バカ」

を連発している私のほうがバカだったのよね。


相手のほうが一枚上手だったってことにも気付かないで。



日本から帰った後、何ヵ月もアイツからの電話が来ないのをいいことに、

フツーに法廷に立って、フツーに生活してた。


あの時あの場所で何もかも…

蓮太郎、あなたに打ち明けて相談していたら、あんなことには、ならなかったのかも。





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