君がため 春の野にいでて
君がため 春の野にいでて 若菜摘む
わが衣手に 雪は降りつつ
皇子様が、あなたのために、と詠います。初句からトキメキが止まらない!
この歌は六歌仙時代の後期を生きた、光孝天皇の作品です。晩年の作風と少し異なり、若い頃のものだと言われています。
簡単に訳しますと『あなたのために、春の野に出向いて若菜を摘みました。私の袖の上に、雪が降りつづいています』という内容です。衣手という言い方が、いかにも六歌仙時代という感じですね。
では少し掘り下げましょう。
何故、高貴な皇子様が自ら、雪の中で草を摘んでいたのでしょうか?
この方はなんと、自分で煮炊きまでしたという、不遇な皇子時代がありました。だから雑草を食べたのかと言うと、そうではありません。歌のいう若菜とは、春の七草だったと思われます。日本には年初、雪の間から出た新芽を摘む「若菜摘み」という風習がありました。
それを踏まえて、俺様、皇子様的に訳しますと『おまえの為に、俺様が摘んだんだ。雪に振られて大変だったぞ、感謝しろ!』みたいにもなりますし、癖のある皇子様なら『君の無情息災を願って、摘んだ若菜だよ。白い雪にまみれる貴族たちの姿を、見せてあげたかったな』と、後半で情景の共有を求めたのかもしれません。
どちらにしても、貴女のために雪に降られた、というのがキーワード。
春の歌はだいたい、恋の歌でもあります。
つまりは、凍える私をあたためて、という切ない気持ちがあるのです。
―――――――――――――――深読み篇
古今和歌集 巻第一 春の歌上
仁和の帝がまだ皇子でいられた時
若菜を人に賜った時に添えた御歌
君がため 春の野にいでて 若菜摘む
わが衣手に 雪は降りつつ
若かりし皇子様は、なんと彼女を口説くのでしょう。ニヤニヤが止まらない!そして嫌な予感も止まらない!!
では早速、歌を分解してみましょう。
初句を『貴女のため』とする場合。春の野は『春の山ではないところ』から『青春』とでも訳します。若菜は草で、草は女性を示すキーワード。摘むので『引きとめる』と柔らかめに取ってみます。
後半は『私の』衣手なので、体を包むものの端となり、いつも通り『男の端』です。この歌の変態的かつ上手い部分は、印象的な結句でしょう。
雪は『逝き』と『白いもの』をかけています。
リアリティーは追及して欲しくないですが、当時は「したたってるゼ」が口説き言葉の常套句。
つまるところ『貴女のためだと言って、青春の頃に(嫁にいくのを)引き留めた私の方が、こんなに溺れているのです』などとソフトな感じでニヤニヤ出来る仕上がりです。
次に『貴女のせいで』としてみます。
そうすると『貴女のせいで、若気の至りと娘を召したというのに、私の端は貴女が良いと言うのです』なんて遊び人のような歌に。結句では、雪は降っているままだと詠まれます。つまり心は冬なのです。この歌の二句と三句は春であり、四句と結句、そして初句は冬ととれます。
心は春の女ではなく、冬の貴女なのですよ、と。
上手い構成だと思いませんか。
二股だけど。




