三話 転生者 魔王<改>
20120309・改訂
私が運命の間に入っていくと、女神様がその手で優しく光り輝く球状の魂を抱きしめていた。
彼女の前には湯気の立っている紅茶と、綺麗に置かれたBL小説が一冊。
そして、先ほどまで彼が座っていたぬくもりが残っている椅子が置かれている。
「はあ...。
なんで其処までクレアの事大好きなのに、いつも本で顔隠して気の無い振りをするのかねぇ~、女神様は...」
「な、ナンノコトデスカ、私には何のことかさっぱりわかりませんよ」
私は腐った林檎なんですから~、とか意味のわからんことをワタワタとのたまっていらっしゃる方の頭を、とりあえずひっぱたいて意識を戻してあげる。
「おーい、帰ってきんしゃい、この腐れ女神」
べコ!
「ぶっはぁぁっ、いった~い。
私は腐っても女ですよ、顔面はやめてください顔面をグーで殴るのは!!」
腐ってもって...。
勇者の前では顔は隠しても格好つけるくせに、私の前ではとことん性格と言葉を繕おうとしないなこの御方...。
「これが...、恋ってやつかねぇ~。
甘酸っぱいねぃ~」
「なななななな、っここ...鯉?わ...私、淡水魚には興味ありませんからぁぁぁぁぁぁ!!!」
「駄目やね~、『運命』の女神が恋の一つもできないとか、本当嘆かわしいわ~」
「わ!私は『運命』を司っているだけで、私自身に直接関係はありません!!」
ああ、面白い。
あせった女神様が、リラクゼーション効果のある紅茶をひっくり返すほどおろおろしていらっしゃる。
まったく紅茶の効果無いようだね~。
さて、女神様をからかうのはコレぐらいにしておいて、こっからは少々まともな話をしようか。
「で、女神様。
実際問題、私たちが『三千年後』に転生するっていうのはなぜなのかな?
それに、さっきのクレアに言っていた最後の旅っていうのも気になるさね」
私が、会話を変えたことでようやく落ち着きを取り戻した女神様(腐)。
「ふ?(腐)てなんですかぁぁぁぁぁぁ!!!」
「...?何に、叫んでんのや」
「うう~...、世界の不条理にです」
と、腐った小説に顔を埋めながら泣きまねしとるけど、口がニヤついてるよ女神様(腐)。
「あなたもですかぁぁぁぁぁぁ!!
いえ、もういいです、...ぐす。
これ以上突っ込むと話が進みません」
ごしごしと、目元をぬぐう女神様(腐)
「それで、なぜ『三千年後』かって話でしたね...」
「そやそや」
「実は...、私の力では直接『三千年後』に干渉することが出来なくなっているのですよ。
こんなこと初めてで...。
多分、人間達が何か世界に干渉したんだと思うんですけど...」
「なるほど、『三千年後』に何かある可能性があるから、それを調べてほしいと」
「はい、ですが先ほどいった通り、直接の干渉はできませんので実際に送る時間軸は、三千年後の十五年くらい前、二千九百八十五年後くらいになると思います」
なるほど、その十五年が女神様(腐)が干渉できるぎりぎりのライン。
まあ、その十五年で三千年後に起きるであろう何かに準備しろってことかいな~、なかなか厳しいこと言ってくれるのな。
「十五年か、なかなか厳しいこと言ってくれるのなぁ」
「まあ、初心に戻ったつもりで、楽しんでくるといいですよ」
初心?ちゅうことは。
「なんや、うちら~今までの成長とか経験とか全部パーなんか?」
「ええ...、まあ、そういうことです。
『三千年後』に飛ばすって言うのはそれだけリスクの高いことですし...、削られる記憶の量も今までの非じゃ無いでしょうね...」
「マジかい...、それじゃあさっき言っていた最後って...」
「ええ、これ以上の転生は二人の魂が持ちません、あの子にすべての記録をとってもらっているからと言っても、鍵となる記憶が消滅してしまっては、二人が自我を保つことができなくなってしまいますから...」
申し訳なさそうに頭を下げる女神様の出来るだけ軽く微笑んでから。
記憶は、まあしゃーないわ。
消えることもわかってるし、それで、クレアもうちも納得してるはずだしね...。
ただ、最初で最後の長時間トラベルや、飛ぶ時間軸がずれてうちだけ二百年前に落ちたりはしないやろな?」
「それは、大丈夫です『|導き手』(勇者)と『|秩序』(魔王)は対の存在ですから。
二人の存在を近いものにしてしまえば、ちゃんと同じ時空に落ちると思いますよ」
その言葉にちょっとほっとするわ~。
正直クレアが二百年も来てくれないとか考えたら泣きそうになるところだったよ~、
と、ホッとする私の前でゴホンと咳払いす女神様(腐)。
「それじゃ、サクラたんこれが最後の話ですからよく聞いてください」
いつにも無く、まじめな顔の女神様(腐)。
「真面目な表情で腐......。
いや、もういいです...」
「何いきなり、いじけてんのや」
胸に抱きしめたクレアの魂にのの字をかくなや!!
と、女神様の頭をぶった叩いて帰還させる。
「それじゃあ、最後の話ですね」
「最後の話しかい...、うん、心して聞いたるよ...」
感極まったのかどこか潤んだ瞳を私に向けると、女神様はいきなり頭を下げた。
「先ほども言った通り、今までの数え切れないほどの転生、それに今回の『三千年後』もの月日を越える転生。
はっきり言って、二人の魂はもうこれ以上転生という輪廻に耐えられる状態ではないです」
うん、でもそれはうちらが納得していることでもあるんや。
「うん...、それで?」
涙をポロポロと流し始めた女神様にハンカチを私ながら先を促した。
「もしかしたら、転生して世界を調べるどころか、歪な存在に成り果てているかもしれない...。
それでも、貴方達は行ってくれるのですか?
辛いことが待っているとわかっているのに...、また、貴方達は笑って旅立てるのですか」
ふむ、だからさっきもクレアの魂を抱きしめて泣いておったんやな。
私らのように『存在』を付加されて、この世界の一種の守り手として神様に造られた存在や。
女神様にして見れば本当に実の子供みたいに思ってくれているのかもしれない。
「ふん、湿っぽい話は無しやで女神様...。
ほな、うちも行くわ笑って旅立ってやるよ」
「サクラたん...、ぐす...言葉使いがめちゃくちゃですよ...」
「む、わかってるわ。
だから、泣かないで女神様」
「ティッシュは持ちましたか...?ハンカチは?さびしくない?大丈夫?」
「ああ~もう!遠足前のお母さんかって。
大丈夫やから、安心して見送らんかい」
そう言ってゆっくり目を閉じていく。
うるうる、瞳に涙を溜めている女神様は出来るだけ見ないようにしたのに。
まぶたの裏に残っているのは、彼女の涙。
「それじゃあ、いってくるよ」
「うん、がんばってください...」
「いままで、ありがとうな......、女神様...」
キュィーンと、静かな光に包まれながら私の意識が魂に還っていく。
......さようなら、おかあさん。
しばらく経って、転生の間には、なきながら二人分の魂を抱きしめている女神様がいた。
「さようなら、クレア、サクラ。
きっと、いや!今度こそは、二人とも幸せになるのよ...」
彼女がやさしく抱きしめた状態で、二人の魂が静かに世界に還っていく。
そこにあるのは、今まで以上の困難だろう、それでも二人には幸せになってほしかった。
たった二人の可愛い子供たちに。
それが、忘れられた過去を、始まりのすべてを思い出すことになる辛い旅だとしても。
彼らが、いままで負った代償を取り返しても罰が当たるはずなどないのだから.........。




