二話 転生者 勇者<改>
20110309・改訂
視界に入ってくる薄っすらとしていた光が、瞬きを繰り返すごとに段々ハッキリしてくる。
またか…もう何度目だろうか、回数など既に覚えていない。
そして、何度転生を繰り経験してもあの腐れ女神と顔をあわせるのだけは…、憂鬱だ。
「お帰りなさい、今宵の旅はいかがでしたか、『導き手』クレア殿」
今自分は、どこともわからない空間のテラスで上品な白い椅子に腰掛けている。
目を覚ますとこの状態なのはいつものことなので、特に気にはならないが…。
声が聞こえたほうに視線を向けると、案の定…視線の先にはBL小説を片手に紅茶を飲んでいる女神様が座っていた。
「ただいま戻りました女神様。
今回は、貴方のご希望どおり魔王を倒せたものの…、私も命を失ってしまいました」
まあ彼女がBL小説から視線を外さないのは何時もの事なので、特に気にせず返事を返す。
「そう…、お疲れ様。
それで『導き手』殿、貴方の次の転生先はどこにしましょうか?」
相変わらず手元から少しも目線を離す様子が無いまま、何故か少し頬を染めている女神様が聞いてくる。
「どこでもかまいません、女神様の御心のままに。
…と、言いたいところですが、一つだけお願いがあります」
一拍おいて、特に遮るような反応は返ってこなかったので、そのまま話を続ける。
「今度の転生先は、彼女……。
いや…、魔王のいない所でお願いします」
正直な話し。
行く場所はどこでもよかった、とりあえずこの腐れ女神様とあの魔王から離れられる場所なら...。
「魔王?
ああ、『秩序』サクラたんのことですか...」
魔王サクラたんだと!!
「ふむ...つまり、魔王サクラたんがいなければどこでも良いと言うことですね」
BL小説を凝視したまま淡々と返事をする女神様。
というか、この御方さっきから一度も瞬きしていない、異形の魔物よりよっぽど瞬きをしないでBL小説を熟読する女神様の方が怖かった。
「ええ、魔王がいなければどこでもかまいません」
ちなみに、今まで繰り返してきた転生の中で、魔王の性別を知ったのは始めてだ。
...始めてのはずだ。
...............多分。
というか、今までなんども会っているはずなのに魔王に性別があると知ったこと自体が初めてだ。
いつもいつも、化け物の皮なのか幻影魔法の一種なのかはよくわからないが、典型的な『魔王』然とした格好しか見ていなかったため気にしたことすらなかったのだ。
と一人で、少しそれてしまって気がする思考を悶々と続けていた所に、女神様の口からありえない言葉が降ってきた。
「ふむ、では丁度いいようですね。
『|導き手』(勇者)クレア殿、貴方は先ほどまでいた時間軸世界から三千年後に転生してください」
なにが丁度いいのだろうか!?
確かにどこでも良いと言いはしたが、三千年後だと。
脈絡が無さ過ぎる、というか一回くらいその手元のBL小説から目を上げろよ、この腐れ女神様が泣くぞこのやろう。
と、戸惑い暴走を始める思考を押さえつけて、とりあえず疑問を女神様にぶつけてみることにする。
「三千年後ですか...。
せめて、そこに行かなければならない理由だけでも教えていただきたいのですが、この腐れ...」
おっと危ない、考えていた言葉がそのまま口から出そうになった。
「理由...ですか。
そうですね、転生の時間を決めるのは私ではなく『時代』であるというのは知っていますよね」
ああ、身をもって知っている。
その時代の願いを繁栄を支えるために、今まで何度も転生を繰り返してきたのだから。
理解の頷きを返した俺に満足したのか、BL小説を凝視しながら女神様が話しを続ける。
「私は『運命』をつかさどる女神として、『|導き手』(勇者)を必要としている『時代』に貴方を送っているに過ぎません」
腐れ女神様は、BL小説からまったく顔を上げずに理不尽な言葉を吐き続ける。
「つまり、今...私の力を必要としているのは三千年後の世界だと?」
至極単純な疑問。
返ってきたのは肯定の無言だった。
「わかりました、それで納得することにして。
早速、三千年後にいきたいと思います」
まあ、この腐った御方とこれ以上問答をしてもしかたがない気がするので、内心の動揺をもみ消して彼女の指示に従うことした。
というか、この人(人ではない?)も、所詮時の案内人でしか無いため彼女に反論する意味がまったく無い。
そんな感じの会話を終えてから、白い椅子に寄りかかるように体をリラックスさせるとゆっくりと目を閉じていく。
コレが転生のための準備だ。
感覚としては、睡眠が一番近いかもしれない。
「では、おやすみなさい『導き手』クレア殿、貴方の最後の旅に『運命』の加護があらんことを願っています」
薄れいく意識の中で見えたのは、手元のBL小説から少しだけ目線をはずした女神様の姿だった。
その表情が、少しだけ寂しそうに見えたのは、俺の気のせいかもしれないが...。
そして、俺は。
彼女の最後の言葉の真意に気がつくことなく、―――魂に還った......。




