第91話 台風とホラー映画と現実主義者(リアリスト)な友達 -後編-
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嬉しくて踊ってしまいます。
台風で休校になった午前中。
雨宿りさせてもらった前の席の友達の家で急に始まったホラー映画観賞会。
なんでもアメリカで少し前に話題になったやつらしい。
たくさんの子供が夜中に一斉に行方不明になるとか、そういうやつ。
「さっきからなんか無言だね」
隣に座ってる友達をみると、普段から表情の少ない能面がいつも以上に固定されていて感情が読み取れない。
いやいや、なんか瞼が軽く痙攣してるから怖がってるなこれは。
「あ、あ、あまりの子供だましに困っていたところよ」
「ならいいんだけど」
噛みまくって絶対ビビってる友達をほっておいて、映画が流れているタブレットを見る。
小さい町で起こる真夜中の怪異。
多くの幼い子供が深夜の街を一方向に走り抜けるシーン。
怖いではなく、理解できないという異質さでぞわりとする。
想像ができる恐怖なら身構えられるけど、脳に入れたことがない情報を叩きつけられると混乱をしてしまう。
たまにホラーは見てるけど、これは中々良くできてると感心した。
「なななな、なんで子供たちはこんなおかしな表情で夜中の街を走ってるのよ」
「それを今から解明していくんじゃない?
ほらほら、主人公のおじさんもいい感じで精神的におかしいよ」
「なんで嬉しそうなのよ」
「ホラー映画は怖いのを楽しむものだと思うけど」
いつの間にか私の腕に抱き付いている友達。
「非科学的なものは怖くないって言ってなかった?」
「怖くなんかないわ、ちょっと肌寒いのよ」
抱きつれている両腕にはしっとりと汗をかいているけど、そこを突っ込まないのは優しさ。
「ああー、なるほどね」
物語が進んでいくと呪術みたいなのを使うおばちゃんが原因とわかってきた。
謎が解明されると理解ができるから、ぐっと怖さが減るね。
「なんであんなことできるの?非科学的だわ」
すでに私の腕に顔の半分を隠している友達。
それってタブレット見えてる?見えてなくない?
でっかい女にひっぱられて、さっきから私の体は傾いてる。
「……」
抱きつかれて耳元にある友達の口から何かノイズが聞こえた。
「なんて?」
「……レ」
「なんて?」
「…イレ」
「なんて?」
「トイレ!」
えーと。
「なんて?」
「絶対聞こえてるわよね!?」
いつものお返しのつもりだったけど、ちょっと意地悪だったかな。
「ごめんごめん、一時停止しておくから、いってら」
私は指を伸ばして画面をタップする。
運悪く不気味なおばさんのドアップで止まり、友達がビクッと驚いてた。
いつまで待っても私の腕を離さないなと横を見ると、ぷるぷる震えてる。
「行かないの?」
「……トイレ!」
「だからそれは聞いたって」
「……」
なんかぷるぷるの速度が速くなってるけど、我慢は体に悪いぞ。
「……ついてきても良いわよ?」
決め顔で言ってるけどさ、とてつもなく情けないこと言ってるよ?
「間に合ってるのでお一人でどうぞ」
「嘘です!ごめんなさい!ちょっともうやばいの!」
切羽詰まった友達が私のTシャツの袖をぐいぐい引っ張る。
あんたに借りたやつだけど伸びるよ。
「隣で漏らされたら、さすがに友人関係続ける自信ないわ」
やれやれと立ち上がり、相変わらずひっついている友達もろとも部屋を出る。
いまだ降り続く雨の音が大きくて、停電で薄暗い廊下で反響をしてた。
まるでスタンディングオベーションのよう。
「早くいけ」
辿り着いたトイレの前でももじもじしている友達の背中を押して、強引に仕舞い込む。
「今日だけは一緒に入っても……」
「入るか!」
あほらしいと扉から少し離れて待つ。
映画を見始める前はあんなに強がっていたのに、予想通りというか予想以上というか。
「そこにいる?」
「はいはい、いますよ」
まったくと扉の向こうに返事をした。
8歳の妹にすらこんなことした事ない。
ようやく終わったのか、鼻歌交じりに手を洗う音がする。
ふと思いついた私はトイレの扉にもたれかかり座った。
「あら?」
中からガチャガチャと音がするけれど、私にせき止められて扉はビクともしない。
ばれないように笑いながら、背中に降りかかる焦った声を聴く。
しばらく試行錯誤を続けていたけど諦めたのか力を感じなくなった。
さすがに不憫になって私は扉の前からどけると、少ししてから確かめるようにゆっくりと出てきた。
「……」
友達は何一つ感情の籠っていない表情で、器用に眼球だけをこちらに動かしてくる。
「どした?」
「……いえ、聞くのも怖いのだけれど」
少し離れたところに立つ私を見ていた瞳が正面へと戻る。
「さっき外から扉を押さえていたかしら?」
いたずらしてごめん、そう答えてほしかったのだろう。
でも今日の私は意地悪な気分なんだ。
「なんのこと?
ここにいたよ?」
トイレの前に立つ友達との距離は数歩。
手を伸ばそうが何をしようがどうやっても届かない距離。
扉を押さえたりなんて絶対できない。
まあ嘘ですけどね。
すっかり怖いものの仕業と思い込んだみたい。
「そう、わかったわ」
何度か頷いた友達が無言で私に近づき、顎を掴んでクイっと上を向かせる。
そしてさも当たり前のように唇を寄せてきた。
「何しやがるお前は」
近寄る顔を両手で挟んで全力で押し返す。
「大人しくなさい、すぐすむわ。
私は早いほうなのよ」
「知らねえよ、知りたくねえよ」
私の体に伸びてくる手を足でゲシゲシ蹴る。
「急に発情するな!」
「ひょっとして知らないの?」
両手で掴んで歪んだ顔が、信じられないように唖然としてる。
「エロいことは究極の生命活動であり、死者である幽霊は嫌がるのよ?」
「確かに命を作る行為だしなんとなくは理解できるけど」
「そういうわけで一発でいいからジッとしてなさい」
「何を出すつもりだお前は!」
だいたい本当に効果あるとしても、女の子どうしだと怪しいわ。
私の全力を上回って次第に近づいてくる顔。
「このやろ、離れないと警察呼ぶぞ!」
「はっはっは、この台風の中で迅速に来てくれるかしら?」
タイミングよく轟いた稲光が窓から停電で薄暗い室内に差し込み、友達の顔が一瞬だけ鮮明に浮かぶ。
怪異のことなんて絶対忘れていて、シンプルにハァハァしてやがる。
「私は悪霊よりお前が怖い!」
-次回予告-
人類未踏の場所
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