第75話 恋のライバルは蟹とサザエ
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『もう3日も会えてないのだけど』
耳に当てたスマホから聞こえる前の席の友達の声。
旅館の浴衣を着た私はロビーの片隅、人がいないソファに腰を掛けていた。
少し横には私が生まれる前から動いてそうな、小さなクレーンゲームなどの機械がいくつか並んでいるけれど、さっきからお客さんは来ていない。
ここは日本海を望む山陰の温泉街で、さっき豪華な夕食を食べ終えたところ。
「家族旅行なんだから仕方ないじゃない」
『今日まで通話さえしてくれなかった』
「同じ部屋にパパとママ、妹もいるんだから」
『そうだけど』
理解はしても納得はできていないっていう思考と感情がバラバラな友達が、ブチブチと不満を言い続ける。
なんとか隙間を見つけて電話をしてるので、そう責めないでほしい。
「明日帰るから明後日は遊ぼうよ」
『まだ1日あるし』
「面倒な彼女かあんたは」
私は笑いながらつい言ってしまった。
寂しがりなのは知ってるけど実際に耳にしたら可笑しい。
このまま後数日放置してみたくもある。
「そろそろ部屋に帰らなきゃなんだけど」
画面を見ると通話時間がそれなりになっていた。
せっかくパパが高いお金を出してくれているんだから、あまり離れるのも良くない。
『私一人が寂しがっていて、そっちがなんとも無さそうなのが不満なのよ』
「まあ旅行を満喫してるし。
今日の夜とか蟹料理が凄かったんだよ」
『……私は甲殻類より下の存在』
「サザエも美味しかった」
『……それどころか腹足綱以下なのね』
サザエってそんな分類なんだ。
「そんな凹んでなくてさ、楽しいこと考えよ」
『楽しいこと?』
「明後日何して遊ぶとかさ」
『何もしたくないわ』
「ふてないでよ」
『そうではなくて、外に出たりしたくない、一緒にいるだけでいい』
旅館のロビーで私は声を殺して大いに笑う。
さっきまで一緒にいた妹より甘えん坊だったから。
束縛する人は嫌いだけど、こうやって依存されるのはちょっとだけ気分が良い。
「特別にハグをしてあげよう」
『後ろからが良いわ』
「いいよ、後ろから抱きついてあげる」
『最低30分』
「長いよ」
『今の貴方なら、それなりにお願いを聞いてくれると思って』
電話先の声が少しだけ元気になっていた。
いつもの君に戻ってくれるのは嬉しい。
「わかったよ。
ただこれ以上のお願い、特に変態的なのは一切受け付けないので」
友達の一瞬の沈黙。
やっぱりさらに何か言うつもりだったか。
『変態的とはどこからをさすのかしら?』
「確認を取りたいってことは、それはもうアウトな願いだ」
抱きつくだけで充分恥ずかしいんだから許してくれないかな。
あんたにしか、しないんだから。
-次回予告-
嫁の貰い手
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