第54話 縮まらない指1本分の距離
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前の席の友達の部屋で突如始まったふたりの勝負。
相手に命令をしてドキドキさせたほうが勝ちというバカみたいなルールで、判定としてスマートウォッチで心拍数を計測する。
そして負けた方は明日学食でランチをご馳走する。
「そっちが先攻でいいよ」
私は持っていないから友達の時計を借りてつける。
人肌のバンドがむず痒い。
「命令して良いのは1つだけだからね」
小さなディスプレイに表示されている私の心拍数は76。
リアルタイムで計測したことがないから、いくつが普通かがわからない。
「じゃあまず床に這いつくばってお尻を振りながら――」
「相手が嫌がる事は禁止って言ったよね?」
予想通りの展開をピシャリと止めた。
「いや、命令できるなんてめったに無いから今しかないと」
「今しかじゃない、今しかじゃ」
仕方ないなとなぜか不満顔の友達が人差し指を立てて、ふたりのちょうど中間でゆらゆらさせる。
「私からの命令はこの指を目でずっと追いかけること」
「え?それだけでいいの?」
「しっかり見ていてよ」
「ん、わかった」
指示された通り形のいい指先を見ていると、上に行ったり下に行ったり左右に振られたり。
特になにかするわけではなく、うろうろしているだけ。
何がしたいんだろうと思ったころ、指が私の唇に当てられた。
「隙あり」
意識が指にいっていた私は、友達の顔が近づいてくることに気が付かなかった。
気が付いた時にはもう、恋人同士の、キスをする距離。
瞳の高さが同じになり、鼻が交差をして、お互いの唇の間には指が挟まれている。
友達が指を引き抜いたらどうなっちゃうんだろ。
それを待っているような、怖いような。
結論が出ないまま、熱が脳を焼いている。
ピー
ふいに私の手首から音がする。
それは急激な心拍数上昇を警告するアラート。
わかってはいるんだけど、目の前にある綺麗な瞳から視線を外せない。
目を、閉じるべきなのかな?
そうしたら、ちゃんとしてくれるのかな。
僅かに瞳が細くなった私の手首を友人が取る。
「心拍数162ですか、だいぶときめいてくれたようで」
すっと離れた友達はにやにやと愉快そうな表情。
「なっ、こういうのは禁止ってルール!」
私の言葉にさらに楽しそうに声を高くしてからかってくる。
「あら、嫌がることは禁止ってルールよ。
嫌だったかしら?
そうなら謝るわ」
そんな風に言われたら困るよ、嘘つけないよ。
「その、嫌じゃ、なかった」
美味しいごはんをおなか一杯食べた後のような、まどろみと多幸感に溢れる友達。
私を抱き寄せ頭をわしゃわしゃしてくる。
「相変わらず可愛いわねー」
「ふざけんな、あんたも顔真っ赤じゃない!
ちょっと手首を貸しなさい!」
「やめ、今は私の順番でしょ!」
ひっつかまえて無理矢理に時計をつけさせる。
ピー
大きな警告音が鳴る。
「心拍数180超えてるじゃない!」
「良いんですー、今は私のターンですー」
「良くないですー、私の勝ちですー」
お互いの恥ずかしさをごまかす言い合いはしばらく続きそうだ。
-次回予告-
24時に始まる歌謡ショウ
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