第39話 意外と初めてのデート⑥ 秘密の指輪
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初夏の長い日が山にかかると影が濃くなり、冷めた風が肌に残ったほてりを撫でていく。
「いやー遊んだ遊んだ」
クタクタになった喉と足は楽しかった証拠。
ふたりの歩幅が朝より狭いのは疲れたからか、それとも別れが名残惜しいからか。
「でもお小遣いなくなったから明日から節約しなきゃ」
あんな可愛いものがたくさんあったら我慢なんてできない。
これはもうどうしようもないんだよ、うん。
無理やり納得をして足をぶらぶらさせた。
ふたりでバス停のベンチに座っているんだけど、前の席の友達の帰る方向は逆の路線。
お見送りをしてくれるそうだ。
「えーとね、テスト勉強を手伝ってくれてありがと」
このデートはそのお礼だし、ちゃんと口で感謝を伝えないといけないと思ってはいたけど、なんか気恥ずかしくて別れ際になってしまった。
そんな私の心の内を見透かしたように声を上げて友達が笑っている。
なんなんだよ、もう。
「あとこれ」
ラッピングされた小さな袋を押し付けるように友達に渡す。
「いま開けて」
私の不器用さがそんなに楽しいのか、さらに声を上げて笑うあいつ。
渡したばかりだけど没収したくなってきた。
私の不満を尻目に丁寧に袋を開けて取り出していく。
金属製の丸くて細い輪っか二つが出てきたが、何なのかかがわからないみたい。
指輪よりわずかに小さいそれをひとつ取って、友達の形の良い耳に触れる。
「これはイヤーカフっていうの。
こういうのあんたつけないでしょ」
耳の横側に銀色のシンプルな輪っかをはめてあげると、友達は鏡を取り出して嬉しそうに見ていた。
夕日をきらきらと反射し、ひいき目に見てもよく似合ってる。
友達は残されたもう一つを反対の耳につけようと摘まんだので、その手を止めた。
「ん」
髪をかきあげて何も言わず耳を突き出す私。
友達がもうひとつ大きく声を上げて、苦しそうに体を折る。
その発作が収まるのを私は耳を出したまま膨れて待つ。
ようやく落ち着いたのか私の耳にカフを嵌めてくれた。
「お揃いとかもってなかったし良いかなって」
隣の私と鏡の自分を忙しそうに見ている友達。
安物でここまで喜んでくれるなら買ってよかった。
「さて、私は帰るわ。
また学校でね」
近づいて来るバスに合わせて立ち上がると、名残惜しそうな友達へ雑に手を振ってお別れをする。
座席に座って窓を見るとまだ見送っていた。
あれだな、忠犬タイプだ。
友達が小さくなって見えなくなると、私はため息をついてイヤーカフを外した。
指先で転がしながらいろんな角度で見る。
細いシルバー製で、細かな飾りが彫られている。
「初めてのお揃いか」
一人でつぶやいて私は輪っかを左手の小指に嵌めた。
これはイヤーカフリング。
イヤリングにも指輪にもなるアクセサリー。
でも、その使い方はあいつには秘密にしておいた。
さすがにまだ早いし”友達”だしね。
「私もたいがいよね」
バスを揺らすエンジンの振動にあわせ、小さく細かく自嘲気味に笑った。
-次回予告-
トイレに行ってくるから、おかえはそこから一歩も動くな
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