第26話 消しゴムに好きな人の名前を書くおまじない、というか呪物
授業中の静かな教室。
それなりの偏差値がある学校の生徒はみんな真面目。
背中しか見えない前の席の友達も真剣に黒板を見ている。
私もノートを取りながらできるだけ理解しようと頭をフル回転。
だから手元が疎かになっちゃったのか、取ろうとした消しゴムを指先で弾いて落としてしまう。
てんてんとリノリウムの床で跳ねて、前の席の友達の足元に転がる。
気が付いたみたいで拾ってくれると、無言で私の机に置いてくれた。
それに小さな声で『ありがと』と伝え、もう落とさないように慎重に手に取った。
……私の消しゴムじゃない、たぶんあいつの。
たまに私の私物を欲しがるのは知ってるけど、消しゴムなんてどうするんだよ。
めんどくさいなと思いながらも、とりあえずノートを書き直さなきゃとゴシゴシする。
ふと手元で視線が止まった。
ケースに隠れている消しゴムの側面になにか書かれているのが覗いていたんだ。
なんだろうと引き出してみると、そこには私の名前が書かれていた。
これはあれかな、小学生の頃に流行ったおまじないで、好きな人の名前を書いてバレずに使い切ると両想いになれるってやつ。
なんだよなんだよ、可愛いこともするんだ。
気が付かなかった事にしといてあげようとケースに戻そうとしたんだけど、はたしてこいつはそんな人間かと疑問が浮かぶ。
今まで受けに受けたセクハラが脳裏を全力疾走。
やつはいつも私の常識を超えた攻撃をしてきたじゃないか。
絶対何かあると裏側をみると、そこには『羞恥心』の三文字。
私から恥を消そうとしている?
それで何を期待している?
もうこれ、おまじないじゃなくて呪いの一種なのでは。
----------------------------------
「ちゃんと私のを返してよ」
休み時間になると変な消しゴムを前の席の友達の机に叩きつけて、筆入れから私のものを救出した。
「消しゴム薄くなってない?ケースぶかぶかなんだけど」
それはね、片面だけ念入りに削ったからだよ。
授業の後半がいまいち頭に入らなかったことを恨みながら自分の席に戻り、取り戻した消しゴムを筆入れに入れようとして私は思い出す。
この消しゴムは長いこと友達の手の中にあったことを。
薄い硬紙のケース、青と白のボーダーでメーカー名が書かれてる。
それは何かから私を守る結界のようでもあり、真実を隠すヴェールのようでもあった。
恐る恐る引き出してみるとそこには文字が。
「気が付いたか」
「やっぱり呪いじゃない!」
--次回予告--
甘えていいんだよ? 編




