第122話 そんなものは存在しない
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『生肉に素手で塩を揉み込んでる最中ってことね』
イヤホンから聞こえる前の席の友達の声。
台所で料理の下ごしらえをしている私は思わず手を止めた。
「なんか言い方が卑猥で嫌」
手に持っていたおっきな豚バラブロックを置いた。
いやさ、お肉がセールだったからパンチェッタ(豚肉の塩漬け)を作ってるんだ。
長持ちするし美味しいし便利なんだよ。
『なにひとつ間違ってないわよね?』
「そうだけど」
『なら実況を続けるわね。
細くてしなやかな指先が肉の割れ目を……』
「Hey siri こいつを着信拒否にして」
『Hey siri 今のは冗談よ』
介入してくんな。
『手間のかかることしてるのね』
「10分もあれば終わるよ。
それだけのことで美味しいって思ってくれるんなら安いもんだし。
パスタに使ったりすると凄いんだよ?」
『妹ちゃんはパスタ好きだもんね』
「そうなんだよー、また食べたいってせがまれちゃって」
たぶん今私はだらしない顔してるんだろうなあ。
妹が好き過ぎる自覚はあるんだよ。
「あんたはなにか食べたいものある?
簡単なものに限るけど」
私の問いになぜか電話の向こう側の友達が唸っていた。
『あまり色々言うのは迷惑じゃないかしら?』
「え?いまさら?」
そんな遠慮の心あるなら、普段を顧みてほしいんだけど。
『わがままを言っていいなら、ふたりとも食べたことない料理が良いわ』
「なんでまた?」
『初めてどうしね?
とか言い合いたいじゃない』
「言い合いたくありません」
発言を遠慮しろ、遠慮。
「ならタコパしようか?」
『タコパ?
たこ焼きくらい食べたことあるわよ?』
ちっちっち、違うのだよ。
私は下ごしらえの終わった豚肉をジップロックに入れて冷蔵庫へ。
あとは2週間ほど熟成させて完成。
「タコスパーティー、タコパだよ」
『タコス、メキシコ料理の?
あの色々薄い生地で巻いているやつ?』
「意外と簡単って聞くし、食べたこと無いよね」
『無いわ!』
素直に喜んでいる姿を想像すると、なんか可愛いな。
『初めてなんだけど、どんな下着着て行けばいいかしら?』
「タコスが食べやすいやつかな?」
-次回予告-
タコパ
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