第118話 隣があんただから
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バスに揺られて30分。
シーズンを大きく外れた10月末だから、海水浴場に向かう路線には私たち以外に乗客はいなかった。
「今年は夏らしいことしなかったね」
数日前に私が何も意識せず呟いた一言。
ちょっとだけ考えた前の席の友達が私の瞳の奥の奥を見て笑いかけ、言ってくれた。
「ならこれからふたりでしようか。
週末は暇かな?」
終点で降りると、目の前にはエメラルドブルーの水平線が広がっていた。
数か月前までは人で溢れていたのに、今はその名残さえ消え去り、ただただ波の音が広がる、そんな場所。
「いきましょ?」
夏の服を着て訪れた秋の海。
白いワンピースの友達が差し出す手を取り、色づく山を背に、砂浜へ降りた。
今日の岡山の最高気温は20度。
お日さまがちょっとあったかくて、風がちょっと冷たい。
「んー、気持ちいいね」
そう思えるのは、雲一つない青空のおかげか、それとも広がる海のおかげか、それとも隣にいてくれる君のおかげか。
名前をつけたくない感情を隠すために、一歩だけ離れた。
「この季節の海なんて初めて来たわ」
「私もだよ、なんていうか趣深いですな」
街中では感じない音と匂い。
呼吸をすればわずかな塩味。
誰もいない、何もない場所にふたりでいる。
うん、やっぱり趣深いよ。
「でもやることないね」
砂浜を横切り、コンクリートの防波堤にたどり着くと並んで座る。
「何かやっていないといけない、充実していないと間違い。
そんな生き急ぐことが正しいなんて思わないわ。
何もしない、何もない、そんな平穏もふたりでなら私は大歓迎よ」
大人びた表情で海の向こう、地球の端を見ている。
まあ確かに何もないけど、ほしいものはいるな。
離れていた距離を少し詰めた。
「次のバスっていつだっけ?」
「2時間後くらいね」
「うわ、そんな先か」
「しりとりでもして時間つぶす?」
「いいよ、ただしセンシティブ単語禁止で」
「急にレベル上げるわね」
「あがってねえ、あげてねえ。
毎回そんな単語あるのか検索する身にもなれ」
忘れ夏を拾いに来た海だったけど、結局そこにあったのはいつもと同じ。
来る人を間違えたのか正解だったのか。
小さくドキドキしている心の音に聞いてみた。
きっと今私は、恥ずかしいくらいに笑ってるんだろうな。
-次回予告-
ボーイッシュ
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