第102話 幼稚園で歌った思い出の歌だと思ったら違った
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ご機嫌なのか前の席の友達が私の部屋で、ピアノを弾くように指先でテーブルを叩いていた。
何の曲だろう、絶対に聞いたことがあるけど、でも思い出せない懐かしさ。
最近じゃなく遠い昔。
ずっとずっと、物心すらおぼろげな幼いころ。
それは、いつの記憶かわからないけど脳裏に焼き付いた茜空のようで、私の中にある私が知らない情景。
指の音と合わせて友達が鼻歌を歌う。
「ああ、これは」
誰にも聞こえない大きさの声で私は記憶の糸を手繰り寄せた。
これはドレミの歌だ。
幼稚園とかでよく歌っていた。
最後に口にしたのなんて10年以上前だけど、リズムも歌詞も全部覚えてる。
懐かしいな。
ちょっと心の深いところがポカポカしてきた。
5歳とかの私ってどんなだっただろ。
なんか生意気そうだなあ、と今の自分から逆算してしまう。
大人からすると今の私も十分子供なんだろうけど、昔を懐かしめるくらいには成長したのが誇らしくて、心の中で歌ってしまう。
ドーはドーナッツのドー、レーはレモンのレー、だよね?
私は指揮者のように宙で指を振るう。
友達が薄い唇を薄く開けて、耳を澄ませないと聞こえない薄い声で、それでも美しい旋律で音楽を紡いだ。
指先のピアノと消えそうな歌で、音楽が、芸術が、私の部屋に生まれた。
「ドーは奴隷のドー」
知らない歌だった。
-次回予告-
幽霊よりお前が怖い
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