#64 ラング、言葉足らず
城内 廊下
「…ったく!」
ラングの前をグングン歩くソフィアは怒っていた。
何故、毎回恋愛の方に繋げられるのか理解が出来なかった。
「ソフィア、怒ってるのか?」
ラングが恐る恐る聞いてみる。
「別に。怒ってないわよ」
「…いや、怒っているよ」
ラングは確認の後、確信した。
「怒ってないって!」
「……わかった」
ラングの返答の後にソフィアは立ち止まり
「なんかそこで引き下がれるのも嫌な感じ」
と後ろを振り向いてラングの事を真っ直ぐと見た。
「やっぱり怒ってるじゃないか」
「ラングは何とも思わないの!?」
「何がだ?」
「……はぁー」
「すまない、そこで理解が出来ない私が悪いのだろうな……」
ラングは後頭部をかきむしりながら下を向いた。
「要するに先生と王様は私達を恋人にしたいって事」
「恋人?って何だ?」
「恋愛すること、愛するってことよ」
ラングは目を見開く
「愛か!!愛ならわかるぞ!一度その光景を目にしたからな。あれは美しかった」
ラングはステイルで見た街の人々の光景を思い出した。
「そうなの!?」
「あぁ、人間界に来て初めに寄った街で見た。あれを見て私は人間界に来て良かったなと何故か思ったな。自然と愛という言葉も言っていたし」
「ならわかるでしょ?私達をそういう関係にしたいわけよ、あの二人は」
「…それが何故怒る理由になるんだ?いいじゃないか」
「…えっ」
ソフィアは顔を赤らめる。
「ん?私とは嫌か?」
「い、いいいい嫌とかじゃないけど…、えっ?」
顔をブンブン横に振りながら否定するもやはり気になるラングの言葉
「まぁ、すぐにとは無理かもしれんがあのような美しい関係になれるようにしていこうじゃないか」
ラングはそんなソフィアに笑顔で話した。
「…は、はい。よろしくお願いします」
「こちらこそ」
二人の愛の認識には決定的な違いがあった。
ソフィアが思う愛は恋人になって結婚してという愛。
ラングが思う愛は人々が助け合い思い合い優しさで満ち溢れた愛だった。
どちらも愛なのだが、そこの認識の差が二人にはあった。
「ラ、ラングはその…、私と?」
「これから共に歩んでいくんだ。それが自然だろう」
「そ、そうね…。でもいいの?」
「何がだ?」
「ラングは魔王で私は勇者じゃない?」
「そこを乗り越えるのも愛の力というものじゃないか?」
「………確かにそうね」
ラングは言葉が足りなかった。一回でも『皆』という言葉を使えば認識の違いにソフィアなら気付きそうなものだがラングはその言葉を使わなかった。
その様子を柱の影から見ている者がいた。
「…クロさん、あれってもしかして」
「えぇ…、チマの思ってる通りだと」
「クロ、魔界にも一応恋愛あるわよね?」
「ありますけど、ラング様は無縁でしたからね」
城に戻ったクロとキサも加わった騎士団との訓練が一段落し、チマは二人と城下町に行こうとしていたところに会話が聞こえてきたので身を隠していた。
「あれ、勘違いしてるっすよね?」
「……面白いので放っておきましょう」
「いいんすか?」
「はい、ただこれ以上こじれたら面倒くさいので声をかけましょうか。しばらくあのままの方が面白そうですし」
「なんかムズムズするけどね…」
キサは拳を握りながら、んーっと唸った。
「…クロさんってラング様で遊ぶときは全力っすよね」
「人聞きが悪いですね」
チマは隠れていた柱から離れ、妙な空気になっている二人に声をかけた。
「ラング様!ソフィア様!」
「おお!チマ!訓練は終わったのか?」
「とりあえずはって感じっすかね。二人はどうしたんすか?」
「ソフィアから美味しい物を早く食べに行かないと無くなってしまうと言われたのでな。これから行こうとしてたところだ」
チマはすぐにラングのソフィアの呼び方に引っ掛かった。
「……ちょっと待っててくださいっす」
後方にいるクロとキサの元へ急いだ。
「…聞いたっすか?」
「はい…」
「うん、さん付けが無くなってるね」
ヒソヒソと三人が話していると何となく何を話しているのか気が付いたソフィアが近付いた。
「…何を話しているのかしら?」
ソフィアはすぐにでも光魔法を放つような顔をしていた。
「な、ななな、何をって……。そ!そう!食事に私達も一緒に行ってもいいっすかね?って相談です!」
チマは恐怖で震えている。
「なぁんだ、そんなことなら全然いいわよ」
ソフィアは笑顔になった、しかしその笑顔がチマ達には怖く感じた。
「い、いいっすか?……クロもキサも一緒に行くっすよね?」
チマが振り返るが。
「……」
「……」
クロキサコンビはいつの間にか天井間近まで飛んでいて、窓から外の景色を眺めていた。
「こら!前々からズルいっすよ!?私一人に!!」
チマはそこそこ本気でコンビに怒っていた。
「チマ?ズルいって何が?」
ソフィアは笑顔のまま顔を近付け問い詰める。
「……飛べるってズルいなぁって」
「そうね、で?」
「……ご、ごめんなさいっすーーー!!!」
チマは思わずその場から走り出した。
その後、何も言わずにクロとキサも飛んで行ってしまった。
「ったく!何なの?一体!」
ラングが近付き話しかける。
「…ソフィア、そこまで威圧しなくてもいいんじゃないか?否定するから勘繰られるだけであって」
「ラ、ラングは平気なの!?」
「これからそうしていこうと決めたじゃないか、だから今後はそういったのは無しだ。愛を皆にも広めていこう」
「そ、そんなオープンにしちゃってもいいの?」
「いいだろう。恥ずかしいことでも後ろ指を指されることでもない。美しい事なんだから」
「……そこまで言われちゃったらそうするしかないじゃない」
またソフィアは顔を赤らめた。
「あぁ、助け合い思い合い優しさで満ち溢れた愛を皆と作っていこう」
「うん!……ん?皆と?」
ソフィアは一度納得してから疑問に感じたので聞いてみた。
「あぁ、愛とはそういうものだろう?互いに互いを思いやる。私が見た愛はそれだったが?」
「……ラング?私と愛を育むんじゃないの?」
「ソフィアと?ソフィアだけじゃないさ、皆とだ」
「…へぇー、そう。じゃあ今は私だけ浮かれてただけなんだ」
ソフィアの周りに自然と光魔法の力が集まってくる。
「ソフィア?今、私は何か身の危険を感じているのだが?」
ラングは一歩ずつ後ろに下がっている。
「何でかわからない?」
「……わからない」
「あっそ!!」
ソフィアは踵を返し、元いた部屋に戻ろうとしていた。
「まっ、待った!どこに行くんだ!?……ぐわぁ」
ソフィアの肩を掴もうとしたラングは光魔法のダメージを受ける。
ソフィアは偶然にも身の回りにバリアのように光の魔力をかける新しい魔法を放っていた。
そのまま振り返ること無くソフィアは戻っていった。




