#63 それも変えなくてはならない
「……」
ラングはトッドギースの後ろを歩きながら沈黙していた。
先程の目、あれは畏怖の象徴にもなるよう目だった。
やはり人間界を統治する者もあの目をするのかとニールキースの事を思い出していた。
思い出したことは部下に対する父の目。
その昔、息子ながらその目に恐怖を感じたものであった。そして同じような目をトッドギースはした。
ラングはトッドギースに対して完全に心を許すべきではないかもしれないと思った。
「開けてくれ」
二人はイガヤルが運び込まれた部屋の前に着き、トッドギースは扉の前にいる兵士に命令した。
部屋の中に入るとソフィア、ナイア、イガヤルが椅子に座り、話をしているようだった。
「…やぁ、イガヤル。調子はどうだい?」
「王様……、いかなる処分も受け入れる所存でございます」
トッドギースが話し掛けるとイガヤルの顔色が青ざめていき、椅子から降り跪いた。
「君の事だからサキュバスのせいにするかと思っていたが?」
「いえ、私自身も怖かったのです。あの姿になる時もなった後も自我がありましたから。全てのきっかけは私のプライド、そしてナイアさんへの嫉妬やそれに対しての攻撃性でした」
「……そうか」
「私の中にあんなに禍々しいものがあるとは。思い出すだけでも……」
イガヤルは小刻みに震えていた。
「それも踏まえてのいかなる処分も、…か」
トッドギースはラングを見る。
「どうする?」
「どうするも何もないだろう。こちらはキュベに何もしていないんだ。その者も不問にしなければ我々は連合として体をなさなくなる」
「……だとさ。助かったね」
トッドギースはイガヤルに対して冷たい態度を取っている。
「…ありがとうございます」
イガヤルは体勢を変えずに深く頭を下げた。
「王よ、少し態度がおかしくないか?」
一連の会話にラングは違和感があった。
「僕の本家に対する態度はこんなもんだよ。君は知らないだろ?勇者の血筋のこれまでの歴史を」
「まっ、まぁそうだが…」
「人間界にも色々あるってことさ」
トッドギースはラングに笑いかけ再度イガヤルに視線を移す瞬間の悲しげでそれでいて口惜しいような表情をラングは見逃さなかった。
そして連合に対して疑問を感じてしまった。
その表情を読み取ったのか
「ラング、私にはラングの気持ちも王の気持ちもわかるわ。私はそういう部分も含めて世界を変えないといけないと思ってる。今はどうにも出来ないわ。今はね」
話を聞いていたソフィアがラングに諭す。
「ソフィアは勇者アーサーとは違う道を行くと決めたのだものな…」
「えぇ、そしてそれはラングがいないと出来ないの」
「……」
「お願い、これからも私と一緒にいてくれないかしら……」
「…わかった」
二人の会話を聞いたナイアとトッドギースは目を合わせ、口元に手をあてている。
そしてその目は笑っていた。
「ナイアさん、今のはプロポーズですよね?」
「まさかソフィアからするなんて、成長したねぇ」
二人はソフィアを見た。
自分が話した言葉の意味をそれで理解したソフィアは一気に赤面した。
「ち、違う!そういう意味じゃないです!」
両手をおもいっきり横に振り、否定した。
「プロポーズ?何ですか?それは。美味しい物ですか?」
ラングは本気でプロポーズというものを知らなかった。
「…ラング、魔界にはプロポーズは無いのかい?」
「聞いたことはない」
「プロポーズというものは…」
トッドギースがラングにプロポーズを説明しようとするとソフィアはその間に素早く入り込み
「ラング!美味しい物を食べに行きましょう!ほら!すぐに!!」
「え?いや、今…」
「いいから!美味しい物無くなっちゃうよ!」
「そ、それは困る!」
「なら行きましょう!」
ラングを扉の方に向かせ背中を押しながらソフィアは歩いた。
部屋を出る前にナイアとトッドギースの二人を睨み付けてから勢いよく扉を閉めた。
「…ちょっと調子に乗っちまったかね」
「ですね…」
部屋に残された二人は苦笑いをし、反省した。




