#58 水の精霊
ラング達は漁師達にお願いしていたポイントに近付いていた。
「ラングさん、そろそろ貝殻を準備してください」
ソフィアは事前に確認していた冒険書の内容を出発前にラングに伝えていた。
それは貝殻を海に投げる事だった。
「ソフィアさん、投げ方とか向きとかは書いてありましたか?」
「いえ、そこまでは書いてないのであまり関係無いと思います」
「わかりました」
二人のやり取りを見たトッドギースが疑問を投げかける。
「…二人の会話は何故そこまでよそよそしいんだい?」
「ん?どういう意味だ?」
ラングが聞き返す。
「一緒に旅をしている仲間だろ?なんか壁がないかな?って思ってね」
「壁…?まぁ気を使ってはいるが」
「は、はい。私もです」
「それだよ!何故気を使う?勇者と魔王だからかい?」
ラングとソフィアはお互いに目を合わせ
「ですよね?」
「…はい、ですね」
トッドギースは右手で頭を抱えた。
「……すまない、そうか、そりゃそうだ。しかし言葉遣いはもっとフランクでもいいんじゃないかい?」
「フランクというのは?」
「ラング、君が私に話してる感じでもいいんだよ。気付いているかい?彼女と私で言葉遣いが違うのを」
「そりゃ使い分けてるからな」
「ほら!今みたいな感じ!それをソフィアにも使いなよ。まずはさん付けをやめるんだ」
「……難しいな」
ラングはソフィアを見た。
そしてキサはラングの肩からトッドギースにナイス!と親指を立てた。
「…わ、私は構いませんよ?」
「い、良いんですか?」
「はい、私から呼んでもいいですか?」
「えっ?あっ、はい」
「ラング…」
「…ソフィア」
二人は名前を呼びあったあと、無性に恥ずかしくなった。
「イチャついてんじゃねぇ!!」
大きな叫び声が聞こえ二人が辺りを見回すと海面から貝殻が投げつけられ、その後、女性の姿形をした水の固まりが浮かんできた。
「な、なんだ?」
「いつまで経っても呼ばないばかりか、イチャつきやがって!あまりにもムカついたからこっちから出て来てやったわ!」
水は次第に海に戻っていき、声の主の姿を確認できた。
長い襦袢のような召し物にウェーブがかった茶髪の女性、しかしあまりにも刺激の強いスタイルで半裸と言っても差し支えない格好だった。
「わお!スゴいね!やっぱりラング達についてきて良かったよ!」
トッドギースは船のギリギリまで移動し、身を乗り出して女性を見ている。
「やっぱり?…じゃあ、あの女性が水の精霊か?」
「…ラング、ちょっとリアクションが薄くないか?」
トッドギースはラングの感性を疑っている。
「そうか?私にしてみれば王がそこまでになってるのが不思議なんだが」
「ラングがそんなこと言ったら私がおかしいみたいじゃないか!…ほら!ソフィアを見てみるんだ」
トッドギースはソフィアをチラッと見たあとラングにも見るように促した。
ラングは言われた通りにソフィアを見たがその目はとても冷たく、蔑むようにトッドギースを見ていた。
「いや、あれは王を見てるだけだと思うが…」
ラングが王に話すと水の精霊が割り込んできた。
「おい!魔王ラング!!あんた、あれか?勇者以外の女性には興味無いと言うのか!」
「…ちょ!ちょっと!急に何を言うんですか!?」
ソフィアが慌てた様子で精霊に話しかける。
「…そう言われるとそうだな。今の私はソフィアにしか興味無いな」
ラングは腕を組みソフィアを見ながらとんでもないことを言い出した。
キサは口を両手で押さえて赤面している。
ソフィアの光魔法、ラングはそれに興味があるという意味で発言していた。
「…負けたよ、私の負けだ」
「何の勝負をしていたんだ?一体…」
トッドギースは水の精霊の性格の強弱の振り幅に少し引いている。
そして、ソフィアは顔を赤らめている。
「ラ、ラング…。それって」
ソフィアはその意味を問いただそうとするも
「ちょっと、ちょーっと!これ以上イチャつかれたらたまったもんじゃない。それ以上は二人きりの時にしな!」
水の精霊がまた割って入る。そして
「魔王ラング、まずはお礼を言わせてもらうわ」
「お礼?」
「あの変な女を倒してくれてありがと。お礼は私の体で良いのかしら?」
水の精霊は少し身を捩りラングを誘惑した。
「いや、この魔石に力を戻して欲しいのだが…」
「……一切動じないのね。自信失くしちゃうわ」
ラングの対応に水の精霊はガクンと肩を落とした。
「す、すまない。何か失礼なことを言ってしまっただろうか」
ラングは水の精霊を精神的にオーバーキルした。
「ふ、ふふふ。良いわ、良いわよ!こうなったら自棄よ!!」
水の精霊は最大級に力を込め、船全体に自分の力を送り込んだ。
ラングの持つ魔石には力が、ソフィアは水の魔法の資質が解放され、キサにもその恩恵が及んだ。
「…私は何か変わったかい?」
トッドギースは不思議な顔をしている。
「あんたは…、特に変わってないね。元々能力が充分だったんだろう。それ以上強くなりたかったら女神様に会うしかないね」
水の精霊はトッドギースに対して次の道を示した。
「そうか、わかったよ。ありがとう」
「魔王ラング!」
水の精霊は強い言葉でラングを呼ぶ。
「…何だ?」
「魔石を集めた後のことは聞いているのよね?」
「あぁ、試練が待っているとか」
「ならいいわ。また会いましょう」
水の精霊はそう言ったあとすぐに姿を消した。
「…何だったんだ?今のは」
ラングは首を傾げている。
「試練…。また会いましょう。ふふっ、なるほどね」
トッドギースは何かがわかったかのように含み笑いをしている。
「何だ?何か知っているのか?」
「いや、知らないよ。けど君達の今後に非常に興味が出てきた。今後も協力させてもらうよ。じゃあ帰ろうか」
トッドギースの命の元、船は王都の港へと向かうことにした。




