#57 力、あげようか?
書庫
ナイアが魔導書を読み始めてから二時間ほど経った。
「…おや、クロさんじゃないか。いつの間に?」
ナイアは別のテーブルで魔導書を読むクロに気が付いた。
そのテーブルにはいくつものランプが置かれており、ナイアは不思議に思った。
「一時間ほど前からいますよ。ナイアさんは集中しているみたいだったので声をかけませんでした」
「おや、そうだったのかい。悪いことをしてしまったね」
「いえ、お気になさらずに。集中してしまう気持ちわかりますので」
「クロさんは風かい?」
「はい、創成魔法にこだわってましたがこれを読んで痛感しました。やはり基礎あっての応用だと」
「まっ、そうだねぇ。私は休憩しようと思うがクロさんも一緒にどうですか?」
「…そうですね、いささか文字を読むのも疲れました。鳥なもので」
「…あっ、だからランプがいっぱいあるのかい?」
ナイアは合点がいったように声が少し大きくなった。
「はい、入ったときに少し暗く感じたものでご用意いただきました」
「とりあえずここを出て食事にでも行きますかね?」
「はい、パンが食べられる所がいいのですが」
「じゃあ探そうかね」
ナイアは街に向かって歩きだした。
「…クロさん、低速で飛ぶのはきついだろう、肩に止まってていいよ」
「…いいのですか?それではお言葉に甘えて」
クロはナイアの肩に止まった。
二人は食事をしようとしていた。
クロを置いていった後のラング、ソフィア、キサはトッドギースと話していた。
「…船?」
「あぁ、船でとある場所に行けば水の聖霊に会えるみたいなのだが」
「そうか、船か。君は運が良いね」
「どういうことだ?」
「ローレライに操られていた漁師達がいたろ?」
「ああ、王が痺れされた奴等か」
「あの者達が謝罪に来てな?今後何なりと申しつけてくれと言って来たんだよ」
「あの者達が悪いわけではないのにか?」
「あぁ、だからそれでいこう」
「…説明が足りないようだが?」
「行きながら説明するよ」
「大体わかるが。いいだろう、付いていこう」
一行は城を出て港に向かった。
「その漁師達の船で行こうって事だろ?」
「あぁ、そのとおり」
「しかし、いくら何なりとと話していたとしても大丈夫なのか?どんなことがあるかわからないぞ?」
「だから私も行くことにするよ」
「…王が?」
「あぁ、君達三人だけだと対応しきれない可能性だってあるだろ?何が起きるかわからないんだから」
「それはそうだし、来てくれるのはありがたいが良いのか?」
「何がだい?」
「王が国を離れてしまって」
「大丈夫だよ、今まで何度も旅をしたりしてるからね。民達も慣れたものさ」
「…なら良いのだが」
「それに水の聖霊に僕も会ってみたいのさ」
「何故だ?」
「興味本位で」
「…何か他の理由にした方がいいと思うぞ?私が言うのもおかしいが」
「そうかい?まぁ堅いことは良いじゃないか」
「変わった王だな…」
「ハハハ、私たちは似た者同士かもね」
「…そういえば私も何回か変わった魔王とか言われたな」
二人はお互いに顔を合わせ、大笑いした。
船を管理する漁師に会い事情を説明すると考えることもなく快諾してくれたため、一行は船に乗り込んだ。
ソフィアは冒険書に書いてあった大体の場所を漁師に見せると
「あれ?ここって…」
どうやらローレライに操られていた時に行っていた場所らしく、記憶もはっきりと覚えているので行けるとの事だった。
なら話が早いと一行はすぐに水の聖霊の場所へ向かうことにした。
その頃、城内ではナイアとクロの前に宮廷魔術師達が現れていた。
「…何だい?あんたら」
「お久し振りです、ナイアさん」
先頭にいた男性がフードを取り、顔を見せる。
「誰だっけ?」
「…フハハ、その程度の嫌味しか言えませんか」
「いや、本当に」
「…本当に?」
「あぁ、会ったことあるかい?」
「……つくづく腹が立つ」
「あぁ、その物言いはもしかして本家の血を継いだ者かい?」
「そうだ、何故今さらあなたが?」
「それは王に聞いておくれ。私は魔導書を読むように頼まれただけだから」
ナイアはスタスタと歩き始めた。
「待った!勝負してもらおう!」
「…私が勝ったら100万ゴールドくれるならいいよ」
「ふざけたことを!!」
宮廷魔術師は風の魔法を使う。
『ウィンドカッター』
ナイアの肩に乗っていたクロも
『ウィンドカッター』
風魔法を唱えた。
風魔法同士、相殺。という事にはならずクロの放ったウィンドカッターが宮廷魔術師に飛んでいく。
咄嗟に魔術師は横に倒れ込んで、避けることにかろうじて成功した。
「はぁ…この程度ですか。大したことないですね。行きましょうナイアさん、パンが食べたいです」
「そうだね、さっさと行こうかね」
クロは宮廷魔術師の力に幻滅し相手にする事をやめた。
「待て!今のは卑怯だぞ!」
魔術師が叫ぶ。
「卑怯?じゃあ聞くが先刻の戦いに参加しなかったのは何故だい?」
ナイアは振り返る。
「そ、それは…」
「それは?」
「………」
魔術師は何も言わなかった。
「憐れなものだね。戦うべき時に戦えないほどの実力しかないのに城に勤めてるなんて」
「だ!黙れ黙れ!!」
「はいはい、黙るよ。ところで美味しいパンが食べられる店を知ってるかい?」
「そんなもん知るわけがないだろう!!」
「本当につまらない人生を送っているねぇ。じゃあ、あんたは何が出来るんだい?」
「な、何が?」
「世界が危機に陥った時にあんたは何が出来るのかを聞いているんだよ!!」
ナイアは珍しく語気を強めた。
「……」
魔術師は何も言えなかった。
「そりゃ本家は壊滅するわけだよ、恥を知れ!!」
「…じゃあ、あんたは何が出来るんだ!!」
「勇者に戦いを教えつつ、その隣で戦う事さ。この街にいた時の数倍今が楽しくて充実してるねぇ」
「…何を言うかと思えば、そんなことか?」
「そんなこと?なら今、私が号令をかけよう」
「何?」
ナイアはスーっと息を吸った。
「私に付いてくる者は今すぐこちらに来な!勇者と共に世界を救う。その事に自らの力を使いたくないかい!?」
男の他にいた数人の魔術師がナイアのもとにやってくる。
その光景を見た残りの魔術師も走るようにナイアの元に向かった。
魔術師は一人になった。
「これが答えさね。あんたは人を導くには器が小さすぎる」
ナイアとクロ、そして宮廷魔術師は城を出るために歩きだした。
その場に一人残された本家の血を引く魔術師。
「力、あげようか?」
「だ、誰だ?」
男に近付く悪魔が現れていた。




