#43 土の精霊
夜 砂漠地帯
ラング達は再度砂漠地帯に来ていた。
夜になれば何か変化があるのでないかと少し期待をしながら来てみたのだが…。
「さ、寒い…」
「ですね…」
「昼間はあんなに暑かったのに、何故だ?」
「これ、昼間より辛いかもしれないですね」
ラングとソフィアは寒くて震えていた。
「ラング様、暑いと聞いていましたが、これは…」
チマはガタガタと震えている。
「すまない、私にもわからないのだ…」
「ラング様!!」
空から先を見に行っていたクロがすごい勢いで戻ってきた。
「クロ、どうしたのだ?」
「砂漠ですが昼間とは全く違います!」
「それはそうだろう、こんなに寒いのだから」
「いえ、そうではなくて見える景色が違うのです」
「景色?」
「はい、昼間来たときには果てしなく砂漠が広がっていましたが、今は砂漠自体はさして広くなく見えるのです」
「…どういうことだ?」
ナイアは思うところがあった。
「なるほど、一種の幻影のようなものを見ていたという事だねぇ。それで方角もわからなくなってただ砂漠内をぐるぐる歩いていたと。空から見ていたはずのクロさんまでもがわからなかったということは相当だね」
「しかし、何故?」
「さぁ?それは精霊様に会ってみればわかるんじゃないですかね」
「ところでクロ、オアシスというものは見えたか?」
「はい、私の人間界にいた記憶ですが恐らくそうではないかという場所は見つけました。私が先行して案内します」
「よろしく頼む」
クロの案内で一行はすんなり池があり木々が生えている場所へ辿り着いた。
「ここが土の精霊様がいる場所」
「……どこにいるのだ?」
「……どこでしょう」
一行は辺りを見回したが特におかしな部分や奇異な場所は無かった。
「やれやれ、今度の勇者は少し抜けているようだな…」
どこからともなく太い声が聞こえた。
「…精霊様?」
「そうだ」
ソフィアの前に一人の人間、いや人の形をした人物が現れた。
人間と呼ぶには見た目は荒々しく獣人と呼ぶべきか迷う出で立ちだった。
「アーサーと同じように進んできたのなら私とどう会ったのかは書いていなかったのか?」
「……ありました」
ソフィアはすぐに冒険の書を読むとしっかりと書いてあった。
「風の精霊から話は聞いていたから少し期待していたのだがな…」
「すみません」
「今のお前に私が力の解放を授けてよいのか、私にはわからない」
「そ、そんな!ここまで来たのに」
「やらぬとは言ってはいない。私に力を示せ」
「力を…ですか?」
「そうだ、一戦戦ってもらおう。魔王ラング、貴様も共に来るがよい」
「…そんなこと言っても良いのか?私は魔王だぞ?」
「良い、力を見たいだけだ」
「なら行かせてもらおう」
ラングは魔王の剣を抜いた。
「よ、よろしくお願いします」
ソフィアも戦闘体制に入った。
「さぁ、来い!!」
ラングとソフィアは一斉にかかった。
しかしまだ出会って日の浅い二人の動きはバラバラで精霊に攻撃を与えるどころか双方が互いに邪魔になるという事態にまでなってしまった。
「もう良い…。興が冷めた。風の精霊からは貴様らが協力してはぐれ魔族を倒したと聞いていたんだがな」
土の精霊は失望していた。
ザリドを倒したときは協力は協力だったがその実とどめを刺した時のみでその前は互いに目の前の敵を倒していただけだった。
一人に対して二人がかりでという戦いは当然したことが無かった。
「さて、そこのカラス。何か言いたそうだな。申してみろ」
「…クロ?」
ラングはクロを見た。
クロは少し躊躇いながらもラングに進言した。
「恐れながらラング様、精霊が具体的に見たいのはソフィア様の実力でございます。ラング様は今回は補助に徹するのが得策かと…」
「補助…、ソフィアさんが戦いやすいようにということか?」
「はい」
「……わかった。やってみよう。精霊よ、もう一戦よろしいか?」
「あぁ、是非とも。見せてくれ、この世界の希望を」
再度ソフィアとラングは戦闘体制に入った。
「ソフィアさん、今回はソフィアさんが動きたいように動いてください」
「え?…は、はい、わかりました。それでは」
ソフィアは少し溜めを作り
「行きます!!」
ソフィアは精霊に向かい走り出した。
『ファイア』
ラングは精霊に向け火の下位魔法を放った。それは精霊の顔めがけて飛んでいたが追尾性がない魔法の為、土の精霊は横に避けた。
『クイック』
次はソフィアに動きを素早くする魔法をかけた。それによりソフィアは横に避けたばかりの精霊が重心を戻す前に射程距離に入ることが出来た。
しかし精霊はソフィアが振り下ろす剣を難なく弾き飛ばし、ソフィアは素手の状態になってしまった。
急かさずラングが斬りかかりに行く。
弾くことは出来ないと判断した精霊は腕を硬化させ、剣を受け止めた。
「ソフィアさん!今のうちに剣を!」
ソフィアは剣に向かって走り出したが精霊はそこらにある石を浮かせ、ソフィアに向けて放つ。
『シールド』
ソフィアを石から守る障壁を出し、更に
『ファイア』
ゼロ距離で顔に放った。
精霊が少しよろめいた間にソフィアは剣を拾い、再度向かっていった。
精霊は硬化した腕で受け止めようとしたがラングは魔力無効化の魔法を圧縮して放った。
『インヴァリド』
狙い通り硬化は無効化され、そのタイミングで斬りかかったソフィアの剣は精霊の腕に傷をつけた。
「見事!ハーハッハッハッハッ!!」
土の精霊は笑っていた。
「えっ?えっ?」
ソフィアは戸惑っている。
「魔王ラング、さすがだな。咄嗟にあのようなフォローに回る戦いを出来るとは」
「少し気は悪いがな…。仕方ない」
「ソフィア!貴様もよくラングを信じた。石を放ったときに止まっていればこうはならなかっただろう」
「夢中でしたし、ラングさんから動きたいように動けと言われましたので」
「うーむ、確かに風の精霊の言うとおり面白いかもな。今はまだまだ未熟だがな」
「それはこれから先、色々と話していくさ」
「そうであるか。ところでラングよ、魔力無効化は風の精霊が消していた魔法だと思うが何故使った?」
「あの時言っていた言葉を思い出したら自動で消えるのではなく消す方法があるのだろうと思ったからだ、ならばほんの数秒でも無効化出来れば良いと考えた。最悪を想定して範囲を狭めて放ったしな」
「…なるほど」
土の精霊は何かを考えたのち、納得したかのように頷いた。
「ソフィアよ、資質を解放してやろう」
風の精霊の時と同じような現象が起きた。
「そしてラングにはこれだな、土の魔石だ」
ラングは魔石を受け取った。
「これは一体…って聞いても話してはくれぬのだろうな」
「そうだな、しかし一つだけ教えてやろう。全てを集めた時、貴様には試練が待っている」
「試練?」
「あぁ、それを突破した時、今まででは考えられない力を手に入れることだろう」
「…良いのか?そんなものを私に持たせて」
「あぁ。私としてはぜひ試練を突破した魔王ラングともう一度戦いたいぐらいだ」
「ふっ、お望みならばいつでも。今度は私主体で戦わせてもらう」
「ところで、そこのコボルドの娘。寒そうだな」
「えっ?あっはい、寒いっす!」
「運動すれば暖かくなるぞ?貴様も戦わんか?」
「…何故、チマと?」
「案ずるな、ラング。私からは攻撃はしない。チマとやらお主の最大の攻撃を私に打ってみろ」
「そういうことなら…。行くっすよ!」
チマは精霊に近付き、うなり声を上げた。
「うぉぉぉぉぉぉぉああぁぁぁ!!」
地面が揺れるほどの衝撃が辺りに広がった。
「……いー、痛いっす!!」
チマは拳が相当痛かったのか、手をブランブランさせたりもう片方の手でさすったり、最終的にしゃがみこんだ。
「ハッハッハ、やはりな」
「な、何がっすか?」
「私が知っているコボルドとは違う。貴様はコボルド族の先を行く者だろう」
「どういうことだ?」
「単純な話さ、元々持っている素質に合った教育や修行を重ねてきたのだろう。チマよ、もっと強くなりたくはないか?」
「当然なりたいっす!」
土の精霊はニヤリと笑ったのちチマに手をかざした。
「貴様にも土の魔力を授けてやろう。幸い魔力がない故に特に支障も出ないだろう」
チマの体から光が広がりのその光は収縮してチマの中に入っていった。
「おっ?おおっ!?」
「魔力を感じるか?」
「はい!なんかこそばゆいと言うか。これがそうなんすか?」
「そうだ、拳に意識を集中させ硬くするイメージをしてみろ」
チマは言われた通りに念じると拳が岩のようになった。しかし、重すぎたのか腕が地面についてしまった。
「うぅ、重い…」
「ハッハッハ、まぁそこはこれからの課題だな」
「使いこなせるように頑張るっす、ところでこれどうすれば直るっすか?」
「意識を外してみろ。別の事を考えてもいい」
「別の事……。あっ、直ったっす」
チマの手は元通りになり、立ち上がることが出来た。
「さて、ソフィアよ。次はどこに行くかわかっておるか?」
「はい、次は火の精霊様に会いに行きます」
「よし、わかっておるな。ではソフィア、チマ、そなたらは鍛練を怠らぬように」
「はい!」
「うっす!」
「ラングよ。また戦おう!」
「あぁ、待っていろ」
土の精霊は笑い、光に包まれ消えていった。
「…これでここは終わりですか?」
「はい、次に行きましょう」
「それじゃ、一旦帰りましょう」
「あっ、ラングさん!その前に」
「ん?何ですか?」
「ありがとうございました」
「いえいえ」
「それと、これから少しづつでいいので手合わせ願えませんか?」
「手合わせですか?」
「はい、私はまだまだ未熟です。それにラングさんの戦いかたも知らない。これから一緒に戦っていくんですから知りたいですし、私ももっと強くなりたい」
「…そういうことでしたらいつでもお受けしましょう」
「ありがとうございます」
「ソフィアさん、私ともお願いするっす!」
「チマ、うん、よろしくね」
土の精霊に出会えた一行。次なる目的は火の精霊。
勇者は成長しながら旅は続く。ラングを待つ試練とは如何なるものなのか。
ラングは思い出した。
「しまった。昼間の事を聞くのを忘れてしまった…」




