#39 新たな旅へ
「ソフィアがニールキースと戦う時、ラングさんはどうしますか?」
ナイアは値踏みするような表情でラングを見た。
「もちろんその懸念はあるとは思います。ですが私としては後々に敵対する可能性はあるかもしれませんがそれよりもこの魔石の事、はぐれ魔族の事を共に追及していけたらとは考えています。」
「………」
ナイアは目を瞑り沈黙した。
「ソフィアには精霊達に会いに行く使命があります、それはどうしますか?」
「もちろん同行しましょう、女神となると私が消されてしまうかもしれませんが精霊でしたらそこまでの危険は無いと思いますので」
「うん、何なら僕からも伝えておくよ」
突然空間に若い男の声がした。
「えっ?なんだ?」
「な、何でしょうか」
ラング、ソフィア、ナイアは辺りを見回した。
キサがフフフと笑いながらラングの前に姿を見せ、反対側を指を指した。そちらの方向を見ると光り輝く存在が飛んでいた。
「……か、風の精霊?」
ナイアは驚いた顔をしている。
「キサが世話になったようだね。ありがとう」
ラングはキサの方を向き
「キサ、君の正体は一体…」
「正体も何もピクシーよ、でも風の精霊様に仕えてるピクシー」
キサはウィンクをした。
「まぁその話はおいおいするとして話を戻すよ。魔王ラング。君も勇者ソフィアと共に世界を巡ってほしいんだ」
ラングは少し驚いた。
「精霊が魔王にそんなこと言ってもいいのか?」
「大丈夫、キサから少しずつ報告は上がってたし、さっきの戦いからずっと見てたけど。君は不思議な存在だ」
クロが気付いた。
「キサがたまにいないと感じてたのはもしかして?」
「そうよ、って言っても別に本当にいなくなってたわけじゃないわ、この精霊様の羽を持って念じるとお話が出来るのよ、だから少し離れた所に行って念じてただけ。だからあの出口を塞がれたときは焦ったわ、精霊様に報告出来なかったんだから」
キサは精霊の羽を見せながら全てを説明した。
「そして、急に報告が途絶えたから来てみたら勇者、魔王、コボルドが共に協力して戦っているじゃないか。あの光景は興奮したね」
「は、はぁ…」
「さて、本題に入ろうか。魔王ラング、君の思いは聞いていた。はぐれ魔族と魔石の事、追及していけば君の立場は今までとは全く違うものになるだろう。その覚悟はあるかい?」
ラングは精霊を睨みつけた。
「…何か知っているのか?」
だがその威圧は風の精霊には全く効かなかった。
「まぁまぁ睨まないでよ、少なからず僕ら精霊はニールキースが何をやろうとしているかは知っている、そしてそれは君の想像を遥かに越えている事だ。だからそれを話すよりも実際に見て聞いてそしてその後どうするかを改めて考えてほしい。その為に勇者ソフィアと共に世界を巡ってほしいんだ」
ラングは考えた、そもそも風の精霊の言う想像を越えているとは何なのか。それほどまでにとんでもない事が計画されているのか。
「……それは私が知るべき事なのだな?」
風の精霊はにこりと笑った。
「そういうこと」
「…わかった。元よりそのつもりであったゆえ、その話に乗ろう。しかし…」
ラングはソフィアを見た。
ソフィアは見るからに戸惑っていた。それはそうだ、魔王を倒すためにアーサーの辿った道を行こうとしていたのにも関わらず、その魔王と共に行こうというのだから。
「先生…、私はどうしたら…」
「いいんじゃないかい?」
「えっ?そんなに軽くですか?」
「精霊様の言うとおりならラングさんを倒すことよりも遥かに険しい道が待っている可能性が高い。ここは協力して真実を求めるのも良いのかもしれないよ」
ナイアはラングを見た。
「決してラングさんを倒すことが簡単と言っているわけではないのでお気を悪くしないでくださいね」
「大丈夫です。私はそこまでひがみっぽい性格はしていないので」
「それは良かった」
「さて、勇者ソフィア。決断するんだ。このままアーサーと同じ道を行って同じ平和を作るか。魔王ラングと共に別の平和を模索するか。もちろん最終的にラングと戦わなくてはいけなくなるかもしれない。しかしその道中の利害は一致してるはずだ」
「…わかりました。アーサー様は魔王を退けただけだった。精霊様のおっしゃる道の先に真の平和を作り出せる可能性があるならば、このソフィア、魔王ラングと共に世界を巡ります」
「うん、そう言ってくれると信じてたよ。それじゃこれは僕からのプレゼントだ」
風の精霊は瞑想を始めた。体に光が纏い出しやがてそれは一つの球体となりソフィアの体の中に吸い込まれていった。
「今のは…」
「これで君の中にある風魔法の資質が開花したはずだ。これからの鍛練次第でもっと強力な魔法が使えるようになるだろう。それから…」
風の精霊はクロに手をかざした。クロの体が強く光ったのち、同じく吸い込まれるように光が収まっていった。
「君の魔力を強化したよ、さすがカラスと言うべきか風魔法に関してのキャパシティが高いね」
「あ、ありがとうございます。まさか私にもいただけるとは」
「君の場合は創作魔法も使えるようになったはずだ。あっ、そうそうさっき使ってた魔法無効化は消しておいたから試しに使ってみてもいいよ」
ラングは驚いた。
「消しておいた!?そんなことが出来るのか」
「そもそも消してないと今僕はここには来れていないよ。戦いを見てたのもその時消すべきではないと思ったからだね」
「…なるほど、さすが精霊と言うべきか」
「まあまあラング、そんな君にはこれだ」
ラングは緑色の石を受け取った。
「これは?」
「風の魔石、人間はほとんど知らないけどこっちにも魔石はあるんだよ。もちろん魔界の魔石のように禍々しいものではないけどね」
「魔石があるのか…。しかしこれを私にどうしろと?」
「今、青い石を持ってない?」
「青い石?……あ!持っている!」
ラングは持ち物から鍛治屋で買い取られなかった石を取り出した。
「それ、水の魔石だよ。見事に魔力が失くなってるけどね」
「これが水の…いや、だからこれをどうしろと?」
「四つの魔石を揃えてごらん。それも他の精霊に話しておくから。揃えたら何があるかわかるよ、もちろん決して悪いことではないから」
「今言うつもりはないということだな?」
「そういうこと」
「まぁ、今は従うしかなさそうだからな。素直に聞いておくとしよう」
「さすが!わかってるね」
「ナイアと言ったね。君は火の資質が高いようだから風の魔力は与えないことにするよ。変に与えてしまうとその分長所が霞んでしまうからね」
「えっ…」
ナイアはかなり淋しげな顔をしている。
「そんな顔をしないで、その分、火の精霊にはとことんまで資質を強くさせるように言っておくからさ。そうすれば君は最強の炎の魔術師になれるだろう。その為に今は我慢しておくれ」
「…わかりました、そういう事でしたら」
「キサ、君はラングについていきなさい。僕との連絡の意味もあるけど、それ以上に君はラングを気に入ってるだろ?」
「…はい、お気遣いありがとうございます」
「あれ?言葉遣い違くないか?」
「そりゃあ仕えてる身だから違うわよ」
「ま、まぁいいか。これからもよろしく頼む」
「うん、頼まれた」
キサが仲間になった。
風の精霊は徐々に高く浮き上がっていった。
「それじゃこの辺で僕は失礼するよ。ソフィア、次はどの精霊に会うかはわかってるよね?」
「はい、ここからなら土の精霊様が近いのでそちらに向かいます」
「そうだね、それじゃ健闘を祈ってるよ!じゃあね!」
風の精霊は光の筋を残してその場から立ち去った。
「なんか帰り方が忙しない感じだったな…」
「多分他の精霊様と連絡取るために急いでたのよ」
「そうか、それじゃまずは拠点に帰るか。直さないといけないしな。お二人はどうしますか?どこかに宿を取りますか?」
「いえ、私達もそちらに同行します」
「わかりました。それでは向かいましょう」
魔王ラングは勇者ソフィアと行動を共にすることになった。
出会ってしまった闇と光。これは人間界にも魔界にも歴史に残る大きなターニングポイントとなった。
果たしてニールキースの計画とは。
ラングはソフィアと精霊達に会いに行くこととなった。




