#16 勇者になるために
「はぁはぁ…」
ソフィアは走った。
不安が全ての感情に勝り、その足を速くした。
視界にファンタールが入った、何やら騒がしく見える。
ソフィアが先生と呼ぶ魔法使いの家には人が集まり、家の前では魔法使いが人々をなだめている。
どうやら少なからず異変を感じた者や動物の行動から何か起こる前触れではないかと思う人達が来ているようだ。
ソフィアもなりふり構わずその場に走った。
「先生!!い、今のは一体…何でしょうか!」
息を切らしながら必死に問う。
「ソフィア、お前もか」
魔法使いは目を瞑り眉間に指を付け首を横に振った。
魔法使い ナイア
本来なら勇者の血族、更にその一部にしか使えないと言われている光魔法を使える初老の女性。
過去の人生は誰も知らない。
当然勇者の血族なのではないかと言われているが家系図にその名が無いことから、妾の家系では無いかと噂されている。
ナイアはその魔力を使った占いを生業としていたが、たまたま見かけたソフィアの魔力の大きな素質に気付いた。
これはこれで金になるのでは無いかと邪推したが色々と教えるうちにソフィアのあまりの純粋さに心やられ、今では自分の全てを教え伝える事が自分の生きてきた終着点なんだと思い、可愛がっている。
「ソフィア、中に入りなさい」
周りで騒ぐ人達をうるさいと一喝し、ソフィアと共に家に入る。
「先生、あんな魔力を感じた事がありません」
ナイアはソフィアの肩を力強く掴んだ。
「ソフィアよ、私もあんな力を感じた事が無い」
ソフィアはその手が震えていることに気付いた。
「先生……」
ナイアは深呼吸した。
「感じたことの無い強い魔力……それはただ一つ、魔王しかいない」
「魔王……」
ソフィアは頭から血の気が引くのがわかった。
魔王、それは約100年前に自分の先祖が退けた存在。
またいつか来るとわかっていたのにそれから目をそらしていた本家は壊滅した。
しかし、実際に再度来てしまった。
「確かに私も感じたことのない強い魔力でした、先生の言葉と私が感じた不安から、それはきっと間違いないのでしょう。しかし、どうすれば……」
ナイアは強くソフィアの目を見た。
「アーサー様のように世界を旅し、精霊に会いに行くのだ。私達が知る限りではそのようにしていくしかない……」
ソフィアは震えた。
今までの日常が壊れていく、それがたまらなく怖かった。
しかしソフィアもナイアも知るはずも無かった、人間界に来た魔王が先祖が退けた存在ではないことを。




