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黒王  作者: 豆類
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第一章行間「原始の戦い~団長と副団長の小話~」

 緋の国



 多民族国家、多宗教国家である此の国は百を超える族称を持つ者達と、万を超える少数部族の者達で成り立っている。敵対する蒼の国からは蛮国と罵られ、魔法の始祖パルテスの信仰をよしとする紫の国とも大変仲が悪い。



 蒼の国とは大海湖と呼ばれる大変大きな湖を跨いだ場所に位置する。



 大海湖の中心には大島と呼ばれる浮き島があり、蒼の国との戦は何時も其処で行われるというのが定例だった。



 陸路を行くという選択もあるがその場合、黄の国と紫の国を跨いで行くか、(そび)え立つ山々を抜けて行くしかない。兵士達の消耗に加え、黄の国は絶対中立を堅持しており一度も留まる事ができず紫の国では落ち着いて休む所がないのだ。多宗教国家であるが故にパルテスの信仰が国民全土に広がっている紫の国からは歓迎などされはしない。消耗し疲れきった兵士達で蒼の国の騎士達を相手にできる訳も無く、それは蒼の国も同じであった。



「カラム陛下、緋の国との対立も激しくなって参りました。大海湖に隣接する防衛地区での戦闘が激しく、兵や民の意気も次第に低下しております。被害も甚大であり此のままでは突破される可能性が出てきます故、やはり大島への進出は已むを得ません」



 カラムが王座に座る前からの腹心である部下が、報告に大島への戦闘の承諾を匂わせる。事実、このままでは防衛地区が押し切られ国内に緋の国の兵達が流れ出ることは必至だった。一度国内への侵入を許せば自国の騎士では各個の戦闘能力が高い緋の国の兵士達を留める事はできない。



「むぅ……やはり無理なのか。仕方が無い、蒼術騎兵団を大島へ派遣しろ!!」



 王座について二年。やっと王の貫禄を身に付けてきていたカラム初めての戦が国家の存亡を賭けた一大事というのも何処か皮肉なめぐりあわせだ。




                  †




 命を受けて三日、蒼術騎兵団が大島へと到着したのは空が黄昏れ、闇が侵食を開始した時だった。



「シーヴァー団長。遂に我等が国の、主の役に立つ事の出来る日が来ましたね。」



 馬上にて鎮座しているシーヴァーに話しかけてきたのは副団長である男である。彼はカラムの同期であり実力も副団長の地位に伴ったもので、文武の才も持ち合わせている。絶対忠義という座右の銘を持つほどに王をカラムを敬愛していた。



「嗚呼、そうだな。君は本当に忠心が厚いな……私としては家に残してきた妻子が気になって心が落ち着かないよ」



「そう言えば二人とも今日が十四歳の誕生日でしたね。いやしかし、ご自身の誕生日にご子息がお生まれになるなんて素晴らしい事ですよねぇ。しかも双子ですし。」



 シーヴァーの本当の誕生日は本人ですら明確には分かっていない。それ故に先王に拾ってもらった日時を自身の誕生日としていた。そんな運命の日に子供ができた事に感動を覚えたものだ。



「あやつらも今年で十四。ユリアはそろそろ嫁に出さなければならない年齢だ。ウォーレンは士官学校でしごかれている事だろうし……こんな大事な日に家族が離れ離れになっている事もまた悲しいもんだ」



「家族ですか。良いですねぇ。私も早く子供が欲しいですよ。この戦いが終り無事に戻ることが出来たなら許婚と婚姻の儀を行う事になってるんです。ですから此の戦で勝てることを祈ってきましたよ」



 そう言うと男は祈る際の体勢をとる。



「そうか、それは良かったな。是非その婚姻の儀には私達も呼んで欲しい」



「何を言ってるんですか団長、そんな事当たり前じゃないですか。……そうだ!! 私に子供ができたら貴方が名付け親になって下さい。そうすれば子も丈夫に育つでしょう」



 祈りの体勢を解き馬上だというのに此方に身を迫り出し懇願してきた。



「うぅむ。ありがたい話だが本当に私がそんな事をしても良いのか?」



「なぁ~に。知り合いにちょいと伝手が有りましてね。どうにでもなりますよ」



 子供の名前というのは儀礼に従い、祭司から名を受けるという事が規則となっているのだがそれを破ろうと言っているのだ。貴族では公には許されざる行為なのだ。



「それに平民は親が名を考え命名するそうじゃないですか。私はそっちの方がいい」



 シーヴァーは少し考える素振りを見せ、答えた。



「分かった。お前がそれで良いと言うのなら受けよう」



「本当ですか! 有難う御座います。そうなれば益々此の戦いでは死に切れなくなりましたよ」



「そう易々と死という言葉を口に出すものではないよ。まあ私も死にたくは無くなったがね」



 夜、シーヴァーの生誕と子息の生誕を祝う祭りが催された。



 湖上に浮かぶ島の上。



 笑い声が木霊する。



 血みどろの戦いが発起するとも知らずに唯々時間が過ぎて行く。



 二人は此処で命を落とした。自身の剣を抱いて。

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