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黒王  作者: 豆類
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第一章第壱記「世情」 下

 カラムの下に凶報が舞い降りる。



「で、で、殿下ぁ!! 一大事でございます!!」



 その身を座する間へと転がり込んできたのは腹心の臣下である内の一人だ。彼は家系が代々騎士であり、彼もまた騎士だった。貴族派との対立の時分に合わせ助言や会同を取り仕切るなどと多方面で活躍をした人物であり、現状では腹心の中でも最も信頼の置ける者である。



「フ、フ、フラン殿下が帰路の道中にてその行方が分からな、なくなったとの事です」



「何だと!! 放った私兵はどうしたというのだ!!」



 第一皇子は放浪癖が強く、昔から目を離した隙にあちらへフラフラこちらへフラフラと共に居ても安心できた事はあまりなかったのである。大人になってもそれは変わらず彼の周囲にはいつも私兵を見張りに付けていたのである。流石に貴族派形成後は宮内へと侵入できなかったようだが。



「其れがですね、帰路の道中には木が生い茂る森林が幾つかありまして内部は殆どが一本道なのでございます。絶対に見つかってはならんとの厳命でした。ですから尾行するにはある程度の距離を取って着いていかなければいけなかったらしいのです。二つ目の森林内部に差し掛かった時だったそうです。第一皇子は唐突に伴っていた騎士達と共に馬で駆け抜けたらしいのです」



 臣下である彼も私兵の報告を聞き驚愕したらしく、その口調が常時と幾分か変化し安定していない。



「見失ってはならんと、私兵も馬を駆けたようですが間に合わなかったらしく、煙の如くにどこかへと行ってしまわれたそうなのです」



 気付いたらもう居ない。煙のように何処かに消え去る。未だにその能力は健在だったらしい。



「本題はここからです。念の為第一皇子が住まわれている屋敷に連絡を入れてみたのです安着の知らせが届いておらず、急遽森林内部を探索させましたが……」



 答弁の途中にも関わらず口を閉じ、何かをその奥底から捻り出そうかとしている様だった。だが、口に出そうと思い立ったが寸前の処で断念する、それを繰り返すので表情が次々に変化し滑稽でもあったのだがこのままでは話が進展しないので弁ずるよう促した。



「して、結果は?」



「は、はい。その、見失った二つ目の森の深奥にて護衛の騎士達の遺体と送迎の為の馬車が横転していたそうです。周囲には何者かと争った形跡があり、第一皇子の物であった祭儀用の装飾剣が残されていただけでその身はどこにも……」



「――――――――――」



 お別れだと言った。それは此の事を示唆していたのか、それとも唯の偶然なのか。それは今となっては確かめる術もなくただただ後悔の念に憑かれるのみである。



「此れは、その場に残されていた殿下の愛剣です。御手にとりお確かめください」



 手渡されたのは大小様々な宝石や宝珠で豪奢に彩られた剣であった。絢爛なその様相は誰もが欲する輝きであった。



「確かに。此れは兄上の物だ……」



 この剣はフランが唯一その身から唯の一度も離した事の無い物である。彼は此れを墓まで持って逝くつもりだと公言までしていた程だ。其れがこの場にあるという事は即ち、彼の死に直結する事と何ら変わりはない。



 腹心である男が口を閉ざす事も無理はない。



「先ほど争った形跡があると言ったな?」



 争ったという事は何者かに襲われたという事だ。静かなる憎悪と憤怒が捻出する。



「はい。その点なのですが、護衛の騎士達の傷を見る限り背後からの一撃で首を掻っ攫っています。此の所行は相当の手誰かと思われます。一体全体どんな輩だったのか見当がつきません。が、こんな物を残して行たのです」



 呈された物は、不可思議なものであった。



 四角い布の中央に幾つもの五芒星と五光星が折り重なり異様な紋様を作り出していた。



「これは……一体」



「騎士の遺体の傍にあった樹木に引っ掛かっていたそうです。見た処によると何処かしらの家紋や紋章にも見えます。ですが、この様な家紋を使用している家系を洗ってはいますが今のところ国内では見つかっておりませぬ」



 貴族の家々にも代々受け継がれる家紋が存在する。季節を代表する花であったり、治めている地域の特産物だったりと様々だ。ちなみに蒼の王家の家紋は青を基調とし中央に三叉戟を交叉させているものである。



 王家の紋様については諸説あるが有力な説は海神の使いであった故に、とされている。



「となると、この国の者ではなく他国の者である可能性もあるという事か」



「そうなります」



 仮に諸外国の者であるのならば、カラムならば容赦なく宣戦布告するだろう。国勢や軍部内のいざこざ、長きに渡る明確な君主の不在による国民の混乱など、たとえ今すぐに王位に座しても簡単には解決できない問題が国内には未だに五万とある。そんな情勢で他国と戦争をしようなど愚の骨頂である。戦えども負けは確定する戦い。だが、そんな戦争が起きる可能性があるのだ。カラムは良くも悪くも直情型の人間である。ただ君主という存在には絶対的に向かない。



「ですが、この紋章が諸外国の物であるという証拠はありません。となれば諸外国の物でないという証拠もまた無い事になりますが……」



 圧倒的に情報が少ないのだ。諸外国に打診することもできるのだが、長年培ってきた信頼を失くすきっかけになりえる。それ以前に遺体がないという事は、まだ生きている可能性もあるのだ。



「耐え忍ばなければならないという事か……」



「ええ、この情報は一切外に漏らさないよう対処します。ですから貴方様は一刻も早く王に就き国を国力の正常化を図るのです。さすれば幾らかの余裕も生まれるでしょう」



 親族の死に悲しみを覚えない者は少ない。其れを耐え忍ぶ事ができるものは更に少ない。



 悲しみを負の感情に昇華させ静かなる悲しみに暮れる。



 

























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