8・刃
遠く稜線に囲まれた、茫漠たる荒野だ。
所どころで、巨大なタチガレノ樹が風に吹かれるままに傾いでいる。
大地に影を落とすものといえば、それきりだ。
たまに眼下を、叢のような雲が横切る。
その霞を切り、大空を渡っていく。
鋭い滑走感はない。
肉体の重みを忘れさせる、浮遊の心地があるばかりだ。
ドラゴンの背の乗り心地は、幼い頃から想像していた通りに、爽快だ。
はるか地平のあたりに、小さな光が瞬く。
そして煙・・・
それはしばらくの間、ぼんやりとくぐもっている。
砲火音が耳に届くのはその後だ。
上空から認められる人間の営みといったら、その手のものばかりだ。
煙は、かまどの煙突からのんびりと流れるものではなくなった。
それは常に、爆発から生じる。
ひらめく火点は線となり、面をつくって移ろいつづける。
が、この戦いにコアの部分はあるのだろうか?
大局観のない、憎しみの気まぐれな発火が、あちこちで戦争じみたディテールをつくっている。
が、そもそもこれは戦争ですらないのかもしれない。
数限りない局所で散発するいがみ合いが、遠目には大掛かりな二方向の勢力のせめぎ合いと映るだけなのだ。
地上は、暗い灰色だ。
こうして上空から見下ろしていると、それがよくわかる・・・
「・・・はっ!」
・・・夢だ。
束の間の眠りから覚めると、いきなり現実が待っていた。
のど元に、奇妙な形の剣が突きつけられている。
ぐ・・・
「あ、う・・・」
皮膚に触れる鋭利な刃先から、相手の本気の殺意が伝わってくる。
いきなりの死地!
横倒しに転げて逃れ・・・たいが、大きな卵を抱いていることを思い出した。
身動きが取れない。
もぞ・・・
体幹をずらそうとしても、剣の切っ先が抜かりなくのど元を追ってくる。
その刃の動きを見るだけで、かなりやる、とわかる。
ドラゴンの脇腹を背もたれにしているために、背後に飛びすさることもできない。
「ま・・・まってくれ・・・」
相手の顔が見えない。
入り日を背にした位置取りだ。
やる。
それにしても、こんな事態に落ち入るまで目覚めることができなかったとは、不覚を取ったものだ。
腹に抱いた卵があたたかく、鼓動音も心地よすぎた。
しかしそんなことは、死地をゆこうという剣士の言い訳にはならない。
いよいよ剣の先がのどに食い込んでくる。
それを握る手首をしゃくられただけで、オレの命はおしまいだ。




