4・作法
天翔ける英雄の伝説を信じる少年時代のオレは、草原や森で見つけたドラゴンに駆け寄っては、その背に乗ろうと試みた。
が、これが結構むずかしい。
あたりまえだが、ドラゴンはなかなか「どうぞ」とこちらに背中を向けてはくれないものだ。
だったら力ずく、ということなる。
凶暴な牙を、爪を、鋭利な刃のついたシッポをよけながら、素手で必死に組みつく。
その度に振りまわされ、張り飛ばされ、踏んづけられる。
肉を裂かれ、骨を折られ、瀕死のケガを負ったこともある。
それでも、傷が癒える間も待たず、ふたたび、みたびと立ち向かった。
そして、ボコボコに痛めつけられた。
ただ、どれだけ手強くても、やり込められても、ドラゴンを相手に刃を用いることだけはしなかった。
彼らは敵意にとても敏感で、こちらのそんな意図を察すると、本気で殺しにかかってくるのだ。
ドラゴンは、剣を抜いた相手を決して許さない。
古くからの考えによるとそれは、闘争本能というよりも、礼を失した相手への軽蔑からくるものだという。
自然界の真の王者であるドラゴンは、愚かな振る舞いをする人間に罰を与えるのだ。
しかし、素手でやり合う分には、手加減もしてくれる。
少年はそうして、幾度も幾度も・・・果てしなくやり合った。
ドラゴンを痛めつけるつもりなど、さらさらない。
徒手空拳は、彼らとじゃれ合うときの礼儀であるし、彼らもまたそのルールを理解してくれているようだった。
要するに、フェアなのだ。
ドラゴンは、それほどまでに高い知性と文化を持っている。
かの英雄は、ドラゴンを相手に剣を抜いた。
決死の覚悟を宣言したのだ。
こうなると闘いは、どちらかが死ぬまでつづけられる。
誇りを賭けて斬り結ぶ以上、お互いの命をテーブルに出し合うのは当然だ。
ところが、ドラゴンハンターは違うのだ。
彼らは今や、極めて秩序立った大集団・・・軍隊だ。
自分たちは決して傷つくまいと重装備をする一方で、捕獲道具は、兵器と言っていいほどのおどろおどろしいものを用いる。
その圧倒的な物量と質に向き合わされるドラゴンは、対等に闘うことさえ許されない。
たちまち追い詰められ、捕らえられ、ときに殺される。
最も近代的なドラゴンハンターは、こうした一切の感情を差しはさまない合理性でもって、ドラゴンを機械的に始末していく。
それは闘いどころか、狩猟ですらなく、処置、とでも表現すべき仕事っぷりだ。




