3・甘露の涙
ドラゴンを見かけなくなったのは、ここわずか数年ほどのことだ。
猛烈な勢いで、空から彼らの影が消えていった。
その数の減らし方は、火器の進化にともない、加速的だ。
ドラゴンは、ひとを襲うわけではない。
逆に、ひとが彼らを襲うために、双方に犠牲者が出るはめになる。
放っておけば、平和に共存できるはずなのに。
ドラゴンを殺したところで、食べもしなければ、薬になるわけでもない。
詰んだツノを飾って愛でるくらいが関の山だろう。
こんなに節操もなく狩り散らかして、いったいどれほどの価値になるというのか。
そろそろ、こんなバカげた行為は終わりにするべきだ。
が、人間のあさましさには際限がない。
これからもドラゴンは減りつづけることだろう。
「うまそ・・・」
おっと・・・高尚なことを言いながら、死んだドラゴンを前に本音が漏れてしまった。
しかし、内陸の平原を歩きつづけ、オレののどはカラカラ、腹もへりすぎている。
横たわったドラゴンの血は、ねっとりてらてらと輝いている。
息絶えてから、おそらく数時間とたってはいない。
タイリク瓜ほどもある眼球はとろんとにごり、ホコリにまみれている。
が、半眼に開かれたその奥には、まだみちみちと水気が残っているようだ。
それはまるで、甘露を満たしたビードロの鉢のように見える。
不意に、ごくり・・・とのどが鳴った。
不埒な考えが頭をよぎる。
「背に腹はかえられない・・・よな・・・」
ドラゴンといえども、死んでしまえばただの肉塊だ。
目玉をえぐれば、少々の水分はこぼれ出てくるだろう。
腰の剣の鯉口を切る。
「いただきます・・・」
ところが、どうしたことか、からだが固まってしまった。
ドラゴンに対する無意識下の尊崇が、つかを握る手を震えさせる。
抜けない。
ふうう・・・
「・・・これをやったら、ドラゴンハンターたちと同じか・・・」
独りごちた、そのときだ。
ドラゴンの目頭に、水晶のような玉水がにじんだのだ。
かと思うと、見るみるうちにしずくは、しゃぼんのように膨らんでいく。
こぼれるっ!
思わず唇で吸いつき、すすり込んだ。
「あっ、あまいっ・・・!」
ハスの葉にたまった朝露を集めて口にしたことがあるが、あんな爽快さだ。
細胞のすみずみにまで潤いが浸透し、じゅんじゅんとエネルギーがみなぎり渡る。
んむっ・・・んんむっ・・・
ドラゴンの涙は、飲んでも飲んでもあふれ出てくる。
ぽろり・・・ぽろり・・・大きなしずくをむしゃぶり吸い、のどに流し込む。
ひと心地つくと、涙を流し終えたドラゴンは、半眼だったまぶたをすでに閉じていた。
なんと不思議な一瞬時だったのだろう。
眼球の水気を抜かれたドラゴンは、まるで安らかな眠りについたように見える。
・・・ふと、突拍子もない考えが頭をよぎる。
このドラゴンは、オレを生かし、なにかをさせたかったのでは・・・と。




