絵
ある日の昼下がり。
俺は縁側に座り、庭先を眺めていた。
風に揺れる草花や、木々の隙間から差し込む柔らかな光。いつも見慣れた景色だけれど、今日はなんとなく目に留まった。
「……綺麗だな」
ふと、そんな言葉が口から漏れる。
「何か気になるものでもあったのかい?」
隣に座っていた白雨が、こちらを覗き込んだ。
「いや、庭の景色が綺麗だなって思ってさ」
「ふふ。そうだね。私もこの庭は気に入っているよ」
白雨は庭先へ視線を向ける。
「そうだ。せっかくだし、何か描いてみようかな」
「絵をかい?」
「うん。こういう景色を残しておくのもいいかなって」
そう言って立ち上がり、家の中から紙と筆を持ってきた。
白雨も興味を持ったようで、俺の隣に座り直す。
「私も描いてみようかな」
「白雨も?」
「ああ。絵を描くのは久しぶりだけれどね」
二人で紙を広げ、庭先を眺める。
俺はまず、目の前にある花から描き始めた。
特に深く考えず、花びらの形や葉の広がりを筆でなぞっていく。
しばらくして、隣の白雨がこちらを覗き込んだ。
「……おや?」
「どうしたの?」
「いや、このはは絵が上手なんだね」
「そうかな?」
自分では特に意識していなかったけれど、改めて見てみると、思っていたよりも綺麗に描けていた。
花びらの重なりや、葉に落ちる影までそれなりに表現できている。
「意外な才能だね。知らなかったよ」
「俺もこんなに描けるとは思ってなかった」
「ふふ。何かを描くのが好きだったのかい?」
「昔、少しだけ描いたことがあるくらいかな」
そんな話をしながら、再び筆を動かす。
一方の白雨も、真剣な表情で紙に向かっていた。
時折、庭先を見ては筆を動かし、少し離れて全体を眺める。
やがて、白雨も筆を置いた。
「……できたよ」
「お、見せて」
白雨が描いたのは、庭に咲く花だった。
花の形も葉の配置も、きちんと描かれている。少し独特なところはあるけれど、決して下手ではない。
「どうかな?」
「うん、上手だと思うよ」
「本当かい?」
「本当だよ。花の特徴もちゃんと描けてるし」
「ふふ。そう言ってもらえると嬉しいね」
白雨は自分の絵を眺め、満足そうに微笑んだ。
「このはの絵も見せておくれ」
「いいよ」
俺の描いた絵を見た白雨は、しばらく黙っていた。
そして、少し感心したように目を細める。
「……やはり上手だね。私のものとは随分違う」
「そんなことないよ。白雨の絵もいいと思う」
「ふふ。ありがとう。でも、これは素直に感心してしまうね」
そう言って、白雨は俺の絵をもう一度眺めた。
「ところで、このは」
「ん?」
「もう一枚、描いてみないかい?」
白雨が俺の絵を眺めながら、そう提案した。
「もう一枚?」
「ああ。せっかくだから、今度は別のものを描いてみようと思ってね」
「いいね。何を描こうか」
「そうだね……」
白雨は少し考えるように視線を上げたあと、こちらへ向き直った。
「お互いを描いてみる、というのはどうかな?」
「俺たちを?」
「ああ。普段から一緒にいるけれど、こうして改めて相手を描いてみるのも面白そうだろう?」
「確かに。いいかもしれないね」
俺たちは紙を新しく用意し、向かい合うように座った。
「それじゃあ、始めようか」
「うん」
俺は白雨の顔を見つめ、筆を動かし始めた。
白い髪に、赤く輝く灼眼。整った顔立ちと、どこか神秘的な雰囲気。
いつも隣にいるから見慣れているはずなのに、いざ描こうとすると、細かな部分まで意識してしまう。
「……そんなに見つめられると、少し照れるね」
「絵を描くんだから、ちゃんと見ないと」
「ふふ。そうだね」
白雨は小さく笑いながらも、こちらを見つめ返していた。
俺も少し照れくさくなったけれど、筆を動かす手は止めなかった。
一方の白雨も、真剣な表情で俺の姿を見つめている。
時折、紙に目を落としては筆を動かし、またこちらを見る。
「白雨も、結構真剣だね」
「もちろん。せっかくこのはを描くんだからね」
「なんだか少し恥ずかしいな」
「ふふ。私だって、こうして見つめられているんだよ?」
「それはそうだけど……」
そんなやり取りをしながら、俺たちはゆっくりと絵を描き進めていった。
やがて、ほぼ同じ頃に筆を置く。
「……できたかな」
「私も、ちょうど描き終わったところだよ」
俺たちは互いの絵を交換した。
白雨の絵には、穏やかな表情でこちらを見つめる俺の姿が描かれていた。
髪の流れや顔立ちも丁寧に描かれていて、全体的に落ち着いた印象の絵になっている。
「おお、上手だね」
「そうかい?ありがとう」
「うん。俺の特徴をよく捉えてると思う」
「ふふ。ずっと見ていたからね」
そう言って白雨は、俺の絵を眺める。
俺も白雨の描いた絵を見ながら、改めて感心していた。
「白雨の絵も、いい感じだね」
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
今度は、俺が描いた絵を白雨が手に取る。
そこには、柔らかな白い髪と、こちらを見つめる灼眼。少し微笑んだ白雨の姿が描かれていた。
白雨は絵をじっと見つめている。
「……どうかな?」
少し気になって尋ねると、白雨は顔を上げた。
「ふふ……とても素敵だね」
「本当?」
「ああ。いつも見ている私の姿を、こんな風に描いてくれたんだね」
「うん。白雨らしく描けているといいんだけど」
「十分だよ。とても嬉しい」
白雨はもう一度、絵に視線を落とした。
その表情は、どこか大切なものを見つけたように柔らかかった。
「ありがとう。この絵、大切にするよ」
「気に入ってくれたならよかった」
「もちろんだよ。このはが私を描いてくれたものだからね」
そう言って、白雨は絵をそっと両手で持った。
その様子を見ていると、こちらまで嬉しくなってくる。
俺も白雨からもらった絵を手元に置いた。
「俺も大切にするね」
「ふふ。ありがとう」
白雨は嬉しそうに微笑んだ。
「こうして描いてみると、普段とは少し違ったところが見えてくるね」
白雨がそう呟く。
「そうだね。いつも一緒にいるのに、改めて見ると新鮮だったよ」
「ふふ。私も同じだよ」
白雨は俺の描いた絵を、もう一度大切そうに眺めた。
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作中でこのはが描いた絵のイメージです。見たい方だけどうぞ。
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