足湯
朝から、少し肌寒い日だった。
縁側から庭を眺めると、木々の葉はすっかり色づき、吹き抜ける風にも冬の気配が混じっている。
「今日は冷えるね」
隣に座る白雨が、湯呑みを両手で包みながら呟いた。
「そうだね。もうすぐ冬だし、これからもっと寒くなるのかな」
「ふふ。そうだろうね。冬というものは、なかなか厳しい季節なのだろう?」
「俺のいた世界だと、雪が積もることもあったよ」
「前に話してくれたね。いつか見てみたいものだよ」
白雨はそう言って、庭先へ視線を戻した。
しばらく二人で景色を眺めていると、ふと足元の冷たさが気になった。
「……足が冷えてきたな」
「それなら、足湯でもしようか」
「足湯?」
「ああ。お湯に足を浸けて温まるんだ。以前、私も試したことがあるよ」
「いいね。やってみようか」
白雨は立ち上がると、家の奥から大きめの桶を持ってきた。
俺も手伝いながら、そこに温かいお湯を用意する。
縁側の近くに桶を置き、二人で腰を下ろした。
「それじゃあ、入ろうか」
「ああ」
俺は履き物を脱ぎ、ゆっくりと足をお湯に入れた。
「おお……気持ちいい」
じんわりと温かさが広がっていく。
白雨も隣で足をお湯に浸けた。
普段は着物に隠れている白い脚が、膝下まで見えている。
その姿が思いのほか目に留まり、俺は思わず視線を逸らした。
「……どうしたんだい?」
「いや、なんでもないよ」
「そうかい?」
白雨は不思議そうに首を傾げる。
けれど、すぐに俺の視線に気づいたのか、少しだけ目を細めた。
「……もしかして、私の足が気になるのかな?」
「えっ?」
思わず声が漏れる。
「ふふ。図星のようだね」
「いや、その……普段あまり見ないから」
「そうだね。着物を着ていることが多いから、珍しいのかもしれないね」
白雨は自分の足元を見て、それから俺に視線を戻した。
「そんなに気になるなら、見ても構わないよ?」
「いや、そう言われると余計に恥ずかしいんだけど……」
「ふふ。どうしてだい?」
白雨は楽しそうに微笑んでいる。
いつもは俺のほうが照れさせられることが多いのに、今日は完全に見透かされている気がした。
「……白雨は、平気なの?」
「何がだい?」
「その、こうして見られるのは」
「このはになら、別に構わないよ」
そう言って、白雨はお湯の中でそっと足を動かした。
「それに、私もこのはのことをよく見ているからね」
「それは……そうだけど」
「ふふ。お互い様ということだね」
白雨は小さく笑い、湯気の立つお湯に視線を落とした。
しばらく、二人で足湯を楽しむ。
冷えていた足先が温まり、身体まで少しずつほぐれていくようだった。
「こうしていると、落ち着くね」
「うん。寒い日にはちょうどいいよ」
「また冷える日には、一緒にしようか」
「そうだね。ぜひやりたいな」
白雨は嬉しそうに頷いた。
やがて、少し長く浸かっていた足を桶から出す。
「ふう……温まったね」
「本当だね」
白雨は用意していた布で足を拭き、着物を整えた。
その姿を見て、俺はようやく普段の白雨に戻ったような気がした。
「どうしたんだい?」
「いや、なんでもない」
「ふふ。今日は随分と照れ屋だね」
「……白雨のせいだよ」
「おや。私のせいなのかい?」
白雨は楽しそうに笑った。
その笑顔を見ていると、こちらまで自然と頬が緩んでしまう。
寒さはこれから、ますます厳しくなっていくだろう。
けれど、こうして二人で温まる時間があるのなら、冬も悪くないかもしれない。
そんなことを思いながら、俺は白雨の隣で温かいお茶を手に取った。
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