探索
目を覚ますと、窓の向こうには青い空が広がっていた。
昨日の出来事が夢だったのではないかと思うほど、穏やかな朝だった。
けれど、窓から見える景色は間違いなく現実だ。
眼下にはどこまでも続く雲海が広がり、その向こうには遠く大地の一部が見えている。
「……本当に空に浮かんでいるんだな」
改めてそう呟いたところで、扉を叩く音が聞こえた。
「このは! 起きておるか!」
「はい。起きてますよ」
扉を開けると、そこにはアギトさんが立っていた。
「うむ! よく眠れたようじゃな!」
「おかげさまで。昨日はありがとうございました」
「なに、気にするでない! そうじゃ、白雨嬢には昨日のうちにお主が無事であることを伝えておいたぞ!」
「本当ですか?」
「ああ! それに、妖精の転移の力も今日には戻るそうじゃ。白雨嬢も、その力を使ってこちらへ来ることになっておる!」
「白雨が……来るんですね」
思わず声が弾んだ。
無事だと伝わっていることは分かっていたけれど、こうして直接会える日が決まると、やっぱり嬉しい。
「うむ! 白雨嬢もお主に会いたがっておるじゃろうな!」
「そうですね。早く会いたいです」
「ははは! その様子なら、今日一日も退屈せずに済みそうじゃな!」
アギトさんは楽しそうに笑った。
「それより、昨日は城を案内できなかったからの! 今日は約束どおり、妾が隅々まで案内してやろう!」
「ありがとうございます。楽しみにしていました」
「うむ! では、さっそく行くぞ!」
こうして、俺はアギトさんと一緒に天空城アルカディアを見て回ることになった。
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客室を出ると、長い廊下が続いていた。
壁には美しい装飾が施され、ところどころに大きな窓が設けられている。
窓の外には雲海が広がり、歩いているだけでも空の上にいることを実感させられた。
「この城は、アギトさんが一人で暮らしているんですか?」
「そうじゃぞ! まあ、妾の城じゃからの!」
「こんなに広いのに、一人なんですね」
「広いほうがよかろう! 狭い城など窮屈で仕方がないからのう!」
アギトさんは豪快に笑った。
確かに、これだけ広ければ一人で暮らすには十分すぎるほどだ。
「それにしても、ずいぶん立派なお城ですね」
「当然じゃ! 天空城アルカディアは妾の自慢の城じゃからな!」
そう言って胸を張るアギトさんは、どこか誇らしげだった。
そのまま案内されていくと、やがて大きな扉の前にたどり着いた。
「ここは何の部屋ですか?」
「大広間じゃ! ほれ、入ってみるがよい!」
扉が開かれる。
その先には、天井が高く、広々とした空間が広がっていた。
床には美しい模様が描かれ、奥には大きな窓が並んでいる。
窓から差し込む光が室内を照らし、まるで城全体が輝いているようだった。
「すごい……」
「気に入ったか?」
「はい。こんな場所で食事をしたら、落ち着かなさそうですけど」
「む? そうかの?」
アギトさんは不思議そうに首を傾げた。
その様子に、思わず小さく笑ってしまう。
どうやら、アギトさんにとってはこれが当たり前らしい。
大広間を抜け、さらに奥へと進んでいく。
階段を上った先には、外へと続く扉があった。
「ここから先は、妾もお気に入りの場所じゃ!」
アギトさんが扉を開く。
そこは城の外に設けられた広いテラスだった。
吹き抜ける風が頬を撫でる。
目の前には、どこまでも続く青空と白い雲。
そして、その雲の隙間からは、遠くに広がる大地が見えた。
「……すごい景色ですね」
思わず手すりに近づく。
地上から見上げる空とは、まるで違う。
雲がすぐ目の前を流れ、その向こうに広がる世界は、どこか別の場所のようにも感じられた。
「この浮島は、テラリア大陸の上空を旋回しておる。場所によっては、見える景色も変わるぞ!」
「それはすごく良いですね」
「どうじゃ? 気に入ったか?」
「はい。いつまでも眺めていられそうです」
「そうじゃろう、そうじゃろう!」
アギトさんは満足そうに頷いた。
その後も城の中を案内してもらい、気がつけば随分と時間が経っていた。
「今日はありがとうございました。天空城アルカディアのことがよく分かりました」
「なに、まだまだ見せたい場所はあるぞ! また案内してやろう!」
「それは楽しみです」
そう答えながら、俺は窓の外を見た。
白雨は今頃、どうしているだろう。
無事だと伝わっているとはいえ、やっぱり早く会いたい。
そんなことを考えていると、アギトさんが俺の顔を覗き込んできた。
「なんじゃ、このは。白雨嬢のことが気になるのか?」
「……はい。やっぱり心配ですし、早く会いたいです」
「そうじゃな!もうしばらくしたら白雨嬢もこちらへ来れるじゃろう!」
「そうですね」
白雨が来てくれる。
そう思うと、少しだけ気持ちが軽くなった。
⸻
その頃、白雨の森では。
白雨は、傍らに浮かぶ妖精を見つめていた。
「もう、力は戻ったのかい?」
妖精は嬉しそうに頷く。
――うん。
「そうかい。それなら、約束どおりお願いするよ」
白雨は妖精へ手を伸ばした。
「天空城アルカディアまで、私を連れていってくれるかな」
――いくよ。
妖精が白雨の手に触れる。
その身体が、淡い光に包まれ始めた。
白雨は一度だけ、森を振り返る。
そして、柔らかく微笑んだ。
「ふふ……今行くね。このは」
次の瞬間、白雨の姿は光の中へと消えていった。
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