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プラント ~大妖の森で君と暮らす~  作者: 天鵞絨色の紫陽花
テラリア大陸編

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龍の知らせ


白雨は、森の中で妖精を拘束したまま立っていた。


何度も、このはが消えた場所へ目を向けてしまう。


そこに姿が戻ることなどないと分かっていても、どうしても期待してしまうのだ。


「……このは」


小さく名前を呼ぶ。


返事はない。


白雨は目を伏せ、静かに息を吐いた。


そのとき、空の向こうから、風を切る音が聞こえてきた。


白雨が顔を上げる。


遠くの空に、赤い光が走っていた。


光は一瞬で森の上空まで到達すると、急激に速度を落とした。


細長い赤い龍が、地面へ向かって滑るように降りてくる。


着地する直前、龍の身体がまばゆい光に包まれた。


光が消えると、そこには大きな翼と角を持つ赤髪の美女が立っていた。


「お邪魔するのじゃ!」


アギトは、いつもの調子で声をかけた。


けれど、白雨はすぐには返事をしなかった。


「……アギト。どうしてここに?」


「なに、少し伝えたいことがあっての」


アギトは白雨の顔を見つめた。


普段なら落ち着いているはずの白雨の表情には、疲労と不安が色濃く残っていた。


「このはは無事じゃ。今は妾の城で休んでおる」


「……え?」


白雨の目が見開かれた。


「このはが……無事なのかい?」


「ああ。少し疲れておるようじゃったが、怪我もなく、元気そうじゃったぞ」


その言葉を聞いた瞬間、白雨の肩から力が抜けた。


胸の奥で、ずっと張り詰めていたものが緩んでいく。


「……そう」


小さく呟く。


「……よかった」


その声は、かすかに震えていた。


白雨は顔を伏せ、片手で目元を覆った。


無事だった。


このはは、生きている。


それだけで、今まで感じていた恐怖が少しずつ薄れていく。


「……ありがとう、アギト」


「なに、気にするでない!運よく妾のところへ飛ばされてきたのじゃ。無事を伝えるくらい、当然のことじゃ!」


アギトは胸を張った。


「妾の浮島はテラリア大陸の上空を旋回しておる。今はここから離れた場所におるが、森に近づいたら妾がこのはを背に乗せて送ってやるつもりじゃ!」


「……そうかい。すぐには戻れないんだね」


「うむ。背に乗せて飛ぶには、ちとこのはがきつい距離じゃな。じゃが、森に近づきさえすれば、すぐにでも送り届けてやるぞ!」


「……分かった。ありがとう」


白雨は、ようやく穏やかな息を吐いた。


今すぐ会いたい。


顔を見て、声を聞いて、無事を確かめたい。


けれど、このはが無事だと分かっただけでも、今は十分だった。


「ところで、白雨嬢」


アギトは、白雨の傍らに浮かぶ妖精へ視線を向けた。


「その妖精が、このはを連れていったのかの?」


「……そうだよ。私の目の前で、このはを連れ去った」


白雨の声が、再びわずかに冷たくなる。


「この妖精が、このはをこの世界へ連れてきた張本人でもあるらしい」


「なに? そうじゃったのか」


アギトは目を丸くした。


妖精は、二人のやり取りを不思議そうに見つめている。


悪意があったわけではない。


ただ気に入った人間に、自分の好きな場所を見せたかった。


妖精から伝えられた理由は、それだけだった。


「……明日になれば、また転移の力が使えるそうだよ」


白雨は妖精を見つめた。


「だから、その力が戻ったら、このはのいるところへ私を連れていくように伝えてある。まさか天空城アルカディアだとは思ってなかったけれどね」


「なるほどのう。ならば、白雨嬢もじきにこのはに会えるというわけじゃな!」


「……そうだね」


白雨は頷いた。


「……約束を忘れないでくれ」


白雨が告げると、妖精は嬉しそうに頷いた。


――うん。力が戻ったら。


その返答を聞いても、白雨は蔦を解かなかった。


このはを突然奪われた恐怖は、まだ消えていない。


もう二度と、あんな思いはしたくなかった。


「……このは」


白雨は空を見上げた。


今は離れた場所にいるけれど、無事でいてくれる。


そして、いずれ必ずここへ二人で帰る。


そのことを胸に刻み、白雨は静かに息を吐いた。

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