一息
「さて、このは。まずは城を案内してやろう!」
アギトは、楽しそうにこのはの手を引こうとした。
「いや......お主、今日はもう休んだほうがよいのではないか?」
そう言われて、俺は少し考えた。
確かに、今日は色々なことがありすぎた。
いつもどおり白雨と森を散歩していたはずなのに、突然見知らぬ妖精に触れられ、気づけば空に浮かぶ島にいた。
そこから歩いて城を見つけ、まさかアギトさんに再会することになるとは思いもしなかった。
身体の疲れ以上に、気持ちが落ち着かない一日だった。
「……そうですね。少し疲れたかもしれません」
「うむ! ならば決まりじゃ! 部屋に案内するゆえ、今日はゆっくり休むがよい!」
アギトさんは満足そうに頷いた。
「食事はどうする? 腹が減っておるなら、すぐに用意するぞ!」
「いえ、今は大丈夫です。少し休んでからにします」
「そうか。では、何かあれば遠慮なく言うのじゃぞ! ここは妾の城じゃからな!」
そう言って、アギトは客室に案内する。
案内された部屋は広く、窓からは青い空と雲海が見渡せた。
本当に、島が空に浮かんでいるんだな。
そんなことを改めて考えながら、俺は部屋の中を見回した。
「……すごいな」
思わず呟く。
けれど、今は景色を楽しむよりも、白雨のことが気になっていた。
突然いなくなった俺を、白雨は心配しているだろう。
早く帰れるといいのだけれど。
そんなことを考えながら、俺はベッドに腰を下ろした。
今日はもう、少し休もう。
そう決めて横になると、思っていた以上に疲れていたらしい。まぶたがゆっくりと重くなっていった。
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このはを客室へ送り届けたあと、アギトは城の広間へ戻っていた。
「……さて」
小さく呟き、窓の外へ目を向ける。
白い雲が、浮島の下を流れていた。
「白雨嬢も、さぞ心配しておるじゃろうな」
このはの話では、森を歩いていたところを突然妖精に連れ去られたという。
白雨嬢の目の前で姿を消したのなら、あの大妖が平静でいられるはずもない。
「ひとまず、無事であることくらいは伝えておくかの」
アギトは広間の窓から外へ出ると、空へ向かって大きく翼を広げた。
その身体が、まばゆい光に包まれる。
光が収まったとき、そこに立っていたのは、先ほどまでの龍とはまるで違う姿だった。
胴体は細長く、しなやかに伸びている。頭部から後方へ流れる角と鬣は風を切るように鋭く、翼もまた、空気を大きく受け止めるというより、速度を生み出すために研ぎ澄まされた形をしていた。
赤い鱗の隙間から、淡い光が筋となって漏れている。
それは、力強く空を舞うための姿ではない。
ただひたすらに、速く飛ぶための姿だった。
アギトは一度だけ翼を打ち下ろした。
次の瞬間、空気が爆ぜた。
赤い影が空を貫き、城の周囲に広がっていた雲が大きく割れる。
その姿は、瞬く間に遠ざかっていった。
遅れて、凄まじい風圧が城を揺らした。
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