天空城アルカディア
「……む?」
目の前に立つ人物を見て、大きな龍は目を丸くした。
しばらくこのはの顔を見つめたあと、龍の身体がまばゆい光に包まれた。
光が収まると、そこには大きな翼と角を持つ赤髪の美女が立っていた。
「誰じゃ? ……いや、待て! このはか!? このはではないか!」
アギトは目を輝かせ、俺の顔をまじまじと見つめた。
「久しいのう! 元気にしておったか? いやいや、まさかこんなところで会えるとは思わなんだ! このアギトに会いに来たのかの? そうかそうか、よく来たのじゃ!」
「え、あ、はい……」
「なんじゃ、随分と歯切れが悪いのう! 遠慮することはないぞ! ここは妾の城じゃからな! 好きなだけくつろいでいくとよい! 食事も用意しようではないか! それとも先に茶でも飲むか? いや、せっかくじゃから城の中を案内するのもよいのう!」
「ああ、そうじゃった!」
アギトさんは何かを思い出したように手を叩いた。
「そもそも、どうやってここまで来たのじゃ?」
「……え?」
「ここは天空城アルカディアじゃぞ? 空の上に浮かぶ島にある城じゃ。普通に歩いて来られる場所ではないはずなのじゃが……」
アギトさんは俺の顔を覗き込んだ。
「まさか、空を飛んできたのか? それとも、転移の術でも使えるようになったのかの? いや、以前会ったときにはそんな力はなかったはずじゃが……」
アギトさんは俺の返事を待たず、次々と言葉を重ねていく。
久しぶりに会えたのは嬉しい。
それは俺も同じだ。
けれど、あまりの勢いに口を挟む隙がない。
「……あの、アギトさん」
「む? なんじゃ?」
ようやくこちらを向いたアギトさんに、俺は苦笑した。
「俺は普通の人間ですよ......。それに相変わらず、お元気で……」
「そうかの? 妾としては、まだまだ話し足りぬくらいじゃがの!」
そう言って、アギトさんは豪快に笑った。
その様子を見ていると、ここが見知らぬ場所だという不安も、少しだけ薄れていく。
知っている相手がいる。
それだけで、ずいぶん心強いものだった。
俺は小さく息を吐き、ここに来るまでの経緯を話すことにした。
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「なるほどのう……」
話を聞き終えたアギトさんは、腕を組んで唸った。
「森で見知らぬ妖精に触れられた途端、ここへ飛ばされた、と」
「はい。気づいたら、知らない場所に立っていて……。それで周りを調べていたら、この城を見つけたんです」
「ふむ……。妖精というものは、まこと気まぐれじゃからな。何を考えておるのか分からぬことも多い」
「そうなんですか?」
「うむ。人間と同じような常識が通じるとは限らぬからのう。本人に悪気がなくとも、周囲を振り回すことはあるじゃろう」
「……確かに、そんな感じでした」
俺は苦笑した。
あの妖精が何を考えていたのかは分からない。
ただ、突然触れられて、気づけばここにいた。
それだけは確かだった。
「それでアギトさん。俺、できればすぐにでも白雨のところへ帰りたいんですけど……」
「む? 白雨嬢のところへか?」
「はい。急にいなくなったから、きっと心配していると思うんです」
そう言うと、アギトさんは少し考えるように腕を組んだ。
「ふむ……。妾が背に乗せて送ってやることはできるが、今すぐというわけにはいかぬのう」
「え? どうしてですか?」
「この天空城アルカディアは、テラリア大陸の上空を旋回しておる浮島にあるのじゃ。地上にある白雨嬢の住む森からは、かなり離れた場所におる。ここから飛んでいくとなれば、相応に時間がかかるのじゃよ」
なるほど。ここは空に浮かぶ島なのだから、地上の森から遠く離れていても不思議ではない。
「じゃが、心配するでない!」
アギトさんは、ぱっと顔を明るくした。
「この島もずっと同じ場所に留まっておるわけではないからの。白雨嬢の森に近い場所まで来たら、妾がお主を背に乗せて送ってやろう!」
「本当ですか?」
「もちろんじゃ! 久方ぶりに会えた友人を、いつまでも帰さぬほど意地悪ではないぞ!」
「……ありがとうございます、アギトさん。助かります」
「そうなれば妾の力で、白雨嬢にこのはが無事であることを伝えてやろう!」
「そんなこともできるんですか?」
「うむ! 任せておくのじゃ!妾は最強じゃからの」
アギトは満足そうに頷いた。
「では、まずは部屋じゃ! それから食事にしよう! お主、腹は減っておらぬか? ここへ来るまでに何か食べたのか? いや、待てよ。そもそも、ここへ飛ばされてからどれくらい経っておる? まさか、何も食べておらぬのではあるまいな?」
「アギトさん、ちょっと待ってください!」
「む?」
「一つずつ聞いてください……!」
俺の声が、静かな城内に響いた。
アギトさんは一瞬きょとんとしたあと、楽しそうに笑った。
「ははは! そうじゃな! 久しぶりの客人で、つい浮かれてしまったわ!」
そう言いながらも、アギトさんの表情はずっと嬉しそうだった。
俺も、つられて笑ってしまう。
不安がすべて消えたわけではない。
それでも、少なくとも今はひとりではない。
それに、ここがどこなのか分かっただけでも大きな進展だ。
天空城アルカディア。
龍の大妖、アギトの領域。
まさか、見知らぬ場所に飛ばされた先で、知り合いの大妖に出会うことになるとは思わなかった。
白雨のところへ戻るまで、少し時間はかかりそうだ。
それでも、帰る方法があるだけでも大きな進展だった。
あとは、白雨が無事でいることを願うばかりだ。
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