何もしない日
朝食を終えたあと、白雨は縁側に座って庭を眺めていた。
いつもと変わらない光景だ。ただ、しばらく見ていても、彼女が立ち上がる気配はなかった。
「白雨、今日は出かけないのか?」
「うん。今日は何もしないで過ごそうと思ってね」
白雨は庭から目を離さずに答えた。
「何もしない?」
「そうだよ。たまには、こういう日があってもいいだろう?」
「まあ、確かに」
「ふふ。君なら、そう言ってくれると思ったよ」
白雨がこちらを向いて微笑んだ。
俺もその隣に腰を下ろす。
庭には紫色の花が咲いていた。風が吹くたびに、花弁が小さく揺れる。
しばらく、二人でそれを眺めていた。
やがて俺は、ふと思いついたことを口にする。
「…あとで俺は少し森を歩いてこようかな」
「……もう行くのかい?」
白雨がこちらを見る。
「いや、すぐ戻るつもりだけど」
「…ふぅん。私はここで待っているよ」
そう言って、白雨は再び庭へ目を向けた。
引き留められたわけではない。けれど、なんとなく気になった。
「白雨は、一緒に来ないのか?」
「今日は何もしないって決めたからね」
「そっか」
俺は少し考えてから、腰を下ろし直した。
「じゃあ、俺もここにいようかな」
白雨がこちらを向いた。
「いいのかい? 君は散歩に行きたかったんじゃないのかな」
「またあとで行けばいいよ。それに、今日は何もしない日なんだろ?」
「……そうだね」
白雨は小さく笑った。
「君がそうしてくれるなら、嬉しいよ」
その声は、いつもより少し柔らかかった。
それから俺たちは、縁側でのんびりと過ごした。
ときどき言葉を交わし、何も話さない時間も楽しむ。白雨は庭を眺めていたかと思えば、ふと俺のほうへ視線を向けたりしていた。
そして、何の前触れもなくこちらへ身を傾けた。
「うわっ……! 白雨?」
気づいたときには、白雨の頭が俺の太腿に乗っていた。
「ふむ。何か問題でも?」
白雨は不思議そうに俺を見上げる。
「いや、別に問題はないけどさ……」
「なら、いいだろう?」
そう言うと、白雨は満足そうに目を閉じた。
「ここはなかなか快適だね」
「……今日の白雨はなんだかいつに増して自由だね」
「もちろん。君もそのつもりでいてくれたまえ」
俺は小さく息を吐きながら、白雨の髪をそっと撫でた。
白雨は何も言わなかったけれど、どこか満足そうに目を細めていた。
……今日は、しばらく動けそうにない。
まあ、たまにはこんな休日も悪くないか。
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