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プラント ~大妖の森で君と暮らす~  作者: 天鵞絨色の紫陽花
テラリア大陸編

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妖精の贈り物


翌日の朝。


このはは、家の窓を開けた。


秋の空気が流れ込み、カーテンがゆっくりと揺れる。


「……今日もいい天気だな」


そう呟いて、窓の外へ目を向けた。


庭の植物は、いつもと変わらない様子で風に揺れている。


そのとき。


窓辺に、小さな光が浮かんだ。


「……ん?」


青、赤、黄色。


色とりどりの光が、窓の外を飛び回っている。


見覚えのある光景に、このはは窓から身を乗り出した。


すると、赤い妖精がこちらへ飛んできた。


その小さな手には、木の実が握られている。


妖精は窓枠に降り立つと、このはの目の前で木の実を落とした。


ころん、と音を立てて床に転がる。


「……くれるの?」


赤い妖精は、答える代わりにくるりと宙返りした。


そのまま窓の外へ飛んでいく。


入れ替わるように、今度は黄色い妖精がやってきた。


こちらは小さな花を一輪、窓枠に置いていった。


続いて緑の妖精が、丸い石を落としていく。


このはは慌てて窓辺へ集まったものを見た。


木の実に、花に、石。


どれも森の中で見かける、ごく普通のものだ。


「……何が始まってるんだ?」


妖精たちは答えない。


ただ、窓の周りを楽しそうに飛び回っている。


そのうち、一匹がこのはの頭に止まった。


「……昨日の続き?」


妖精は頭の上で羽を動かした。


どうやら、否定するつもりはないらしい。


「そうか……。いや、そうなのか?」


自分で言っていても、よく分からなかった。


とりあえず、このはは床に落ちた木の実を拾い上げる。


「ありがとう。もらっておくよ」


そう言うと、赤い妖精がぴたりと動きを止めた。


それから、くるくると嬉しそうに回り始める。


ほかの妖精たちも、それを見て一斉に飛び回った。


「……もしかして、喜んでる?」


このはが首を傾げていると、背後から声がした。


「何をしているんだい?」


振り返ると、白雨が立っていた。


いつものように落ち着いた様子だったが、窓辺に集まった妖精たちを見ると、少しだけ目を細めた。


「……これはまた、賑やかだね」


「白雨、これって何?」


このはは手のひらに載せた木の実を見せた。


「妖精たちが、色々持ってきたんだけど」


白雨は窓辺へ近づき、花や石を眺めた。


「ふむ……。贈り物、なのかな」


「やっぱりそう思う?」


「そう見えなくもないね。ただ、妖精たちが何を考えているのかは、私にも分からないよ」


白雨がそう答えた直後、青い光が二人の間を横切った。


ルミナスだった。


青い蝶は窓枠に止まると、置かれた花の周りをゆっくりと旋回した。


そして、花を持ち上げるように羽ばたいたかと思うと、このはの肩へ移動した。


「……ルミナスも、これを持ってきてくれたのか?」


問いかけても、返事はない。


ただ、肩の上で静かに羽を動かしている。


「ふふ。きっと、昨日のことが楽しかったんだろうね」


白雨が微笑んだ。


「また遊びたくなったのかもしれないし、君に何かを渡したかったのかもしれない。あるいは、特に理由なんてないのかもしれない」


「最後のが1番ありそうだな……」


このはは苦笑した。


妖精たちの行動には、いつも決まった意味があるわけではない。


気まぐれに近づいてきて、気まぐれに去っていく。


昨日だって、どうして自分を遊びに誘ったのか、結局分からないままだった。


それでも。


「……まあ、せっかくだしな」


このはは、窓辺の花を手に取った。


小さな花だった。


特別に珍しいものでも、美しいと評判の花でもない。


けれど、誰かが自分に渡そうと思って持ってきてくれたものなら。


「ありがとう。大事にするよ」


そう告げると、妖精たちが再び動き出した。


窓の周りを飛び回り、時にはこのはの肩や頭に止まりながら、楽しそうに光を揺らしている。


「……これ、いつまで続くんだろう」


「さあ。飽きるまではいるんじゃないかな」


「白雨も分からないんだ……」


「妖精というのは、そういうものだからね」


白雨はどこか楽しそうに笑った。


その後も、妖精たちはしばらく家の周りを飛び回っていた。


やがて、一匹ずつ森の奥へ帰っていく。


最後に残ったのは、青い蝶だけだった。


ルミナスはこのはの肩から飛び立ち、窓辺に置かれた花の周りを一度だけ旋回した。


それから、開いた窓の向こうへ消えていった。


「……また来るかな」


このはが呟く。


「来るかもしれないね」


白雨はそう答えた。


「気に入られたようだから」


「……そっか」


このはは、窓辺に並んだ贈り物を見つめた。


木の実も、石も、花も。


どうしてこれを選んだのか、どんな意味があるのか。


きっと、考えても分からない。


このはは花を小さな花瓶に挿し、木の実と石を窓辺に並べた。


秋の日差しが差し込むと、それらはいつもより少しだけ特別なものに見えた。


「……悪くないな、こういうのも」


その呟きを聞いて、白雨がそっと微笑んだ。


森の中では、今日も妖精たちが自由気ままに飛び回っている。


そして、このはの家の窓辺には、小さな贈り物が残されていた。

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