髪
朝。
このはが居間へ向かうと、白雨は窓辺に座っていた。
長い白髪が朝の光を受け、静かに輝いている。
「おはよう、白雨」
「おはよう、このは」
白雨は振り返り、穏やかに微笑んだ。
「よく眠れたかい?」
「うん。白雨は?」
「私も問題ないよ」
いつもの挨拶を交わし、このはは白雨の隣に座った。
ふと、白雨の髪に目が留まる。
長い髪は綺麗に整えられていたが、肩のあたりに一房だけ絡まっていた。
「……白雨、髪が絡まってるよ」
「おや、そうかい?」
白雨は自分の髪に触れた。
「少し寝癖がついてしまったのかな」
「寝癖って……白雨もそういうことあるんだね」
「私だって、髪が乱れることくらいあるさ」
白雨は楽しそうに笑った。
このはは少し考えてから、口を開いた。
「……俺が直してあげようか?」
白雨が目を瞬かせる。
「このはが?」
「うん。髪を整えるくらいならできると思うし」
白雨は少しだけ考えるようにしてから、微笑んだ。
「ふふ。では、お願いしようかな」
「分かった。ちょっと待ってて」
このはは櫛を取りに行き、白雨の後ろへ回った。
白い髪にそっと櫛を通す。
思っていたよりも滑らかで、引っかかることもほとんどない。
「……綺麗な髪だね」
「そうかい?」
「うん。長いのに、ちゃんと手入れされてるんだなって」
「これでも結構努力してるのさ」
「なるほどね」
このはは納得したように頷き、再び櫛を動かした。
ゆっくり、丁寧に。
白雨は大人しく座ったまま、窓の外を眺めている。
「髪を解かれるのは気持ちがいいね」
「それならよかった」
しばらくして、絡まっていた髪が綺麗に整った。
このはは櫛を置き、白雨の髪を軽く確かめる。
「……うん。こんなもんかな」
「ありがとう、このは」
白雨は振り返り、微笑んだ。
「丁寧にしてくれたんだね」
「まあ、せっかくだからね」
このはは少し照れくさそうに頭を掻いた。
白雨はそんな様子を見つめてから、そっとこのはの手を取った。
「……また、お願いしてもいいかい?」
「え? 髪を?」
「うん」
白雨は穏やかに目を細める。
「このはにして貰えるならなんでも嬉しいのさ」
このはは一瞬だけ言葉に詰まった。
けれど、すぐに小さく笑った。
「……いいよ。俺でよければ、いつでも」
「ふふ。ありがとう」
白雨は満足そうに微笑んだ。
そのまま、繋いだ手をしばらく離さずにいる。
「……白雨?」
「なんだい?」
「いや……なんでもない」
このはは何も言わず、手を握り返した。
窓の外では、秋の風が木々を揺らしていた。
いつもは白雨が、このはの世話を焼くことが多い。
けれど、こうして自分が白雨のために何かをするのも、悪くない。
そんなことを思いながら、このはは隣に座り直した。
穏やかな朝の時間は、まだ始まったばかりだった。
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